素人目線の映画感想ブログ

素人による、素人のための映画感想・レビュー。 映画文法や方程式なんのその。

※ネタバレがある時は、必ず<赤字>で標記します。

ジャッキー・ブラウン /この頃のタランティーノは大人だ。 


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 ジャッキー・ブラウン
 (1997年 アメリカ映画)  
  85/100点



<ラストのネタバレをします。>


年齢を重ねると、映画の感想が変わっていく事があります。

本作は、『レザボア・ドッグス』『パルプフィクション』のたった2作で映画界を牛耳ったタランティーノ待望の3作品目。
当時、満を持して鑑賞した時の感想は、おおむね大半の方々と同じです。
「あれ…? なんか思ってたのと違うじゃん…?」

前2作に比べると、随分大人しいなあ、という印象しか抱かなかったのです。
その後、本作はタランティーノの黒歴史のように言われることもあるほど、あまり話題にならない結果を迎えました。

しかし、大して面白くは思わなかったものの、月日が過ぎるにつれ、所々の印象的なシーンを何気に思い返す度に、次第に記憶の中で作品の印象が少しずつ変わっていったのです。そして再鑑賞した今回、その変化は間違っていない事を確信しました。
「やっぱり・・・これ、傑作じゃないか・・・!」と。

ジャッキー


これが、『キル・ビル』を経て、『ヘイトフルエイト』を経たのち、タランティーノの最後の作品として創られていたら…震え上がるほど感動したかもしれません。大人になったなあと。
そう、タランティーノは、こんなにも渋く…大人の味わいがたんまりと漂った映画が撮れるのです。まるで名監督の晩年のような作風である本作は、タランティーノの撮り順ミスと言わざるを得ません。まさか、この先に彼が、阿鼻叫喚の殺戮シーンてんこ盛りの娯楽趣味偏見差別ワルノリ映画(言い過ぎ)を撮り続けるなんて(好きだけど)。

とにかく、すごくすごく小さな話です。
たった1人の小物のワルから、50万ドル(額も小さい)を奪っちゃおうっていうだけの物語。
けれど、70年代のような雰囲気のサスペンスをきっちり(悪く言えば普通に)、見せます。そして、「黄昏流星群」のような中年男女の淡い恋愛を静かに(悪く言えば地味に)、描きます。

タランティーノ特有の登場人物の面白さは、本作でも健在です。


ジャッキー6
主人公・ジャッキーを演じるのは、タランティーノの永遠の憧れ、パム・グリアー。
初見の時は、「おばさん…?」という印象ばかりでしたが、俳優再生工場と名高いタランティーノは、ファンゆえに、彼女の熟女オーラをこれでもかと絞り出します。実にマニアックに絞り出すので、常人には気付きにくいことといったら。

ジャッキーは前科の為に職に恵まれず、薄給のスチュワーデスの仕事にしがみついています。それでは食えず、やむなく裏金の運び屋も務めます。時にたくましく、時に可愛らしく、時に臆病で、時に知的に生き抜こうとしている中年女です。中々の策略で、様々な人間を出し抜こうと企みます。彼女がちっとも悪人に見えないのは、彼女が醸している「苦しい生活を積み重ねてきた者の疲労感」が、とてもリアルに感じられるからだと思います。


ジャッキー2
そして、やっぱりといいますか、サミュエル・L・ジャクソンが見逃せません。
彼が演じるのは、オデールという銃器の密輸で荒稼ぎするワルです。
常に狂犬の凄味を匂わせていて、近づく者を緊張させます。例えるなら、不機嫌MAXのジャイアンです。そう思うと、彼の眼前のジャッキーなんて、さながら大山のぶ-
ただ!
オデールはキレ者というわけではありません。時折思慮深いような表情を見せますが、自分を大物だと思い込んでいるチンピラです。そんな彼を、周りはことごとく裏切ろうとします。あまりに、人望がないのです。「お前のモノはオレのもの」と言わんばかりの傲慢さが招いたことでしょう。しかし、何の組織の後ろ盾もない一匹狼の彼を、たくさんの人がつけ狙っている様子は、ちょっと不憫にさえ思います。味方が一人もいない彼…。ペコあたりが寄り添ってあげたらいいのに。


ジャッキー9
ここで、不思議なキャスティングはデニーロです。今でこそ、メジャー級のキャスティングは当たり前になったタランティーノですが、当時はそんなでもなかったです。せいぜい、ハーヴェイ・カイテルです(失礼)。そこにいきなりのデニーロ御大の登場ですから、一体どんなマフィアのボスなのだろう、はたまた、どんな風にバットで殴り倒すんだろうと思っていたら…。これが、単なる不甲斐ない中年であった衝撃! 

ルイスというその中年は、オデールいわく、もともとはキレ者の強盗だったそうです。しかし、今ではどんくさい中年で、単にキレやすいだけの男。デニーロがオーラ全消しで演じるこのルイスが、さっぱり活躍することもなく画面から退場する流れは、逆に衝撃なのです。この観客の予想を裏切る設定はさすがです。しかし、本作の所々で、こういうベテランの着地点みたいな演出が目立つので、不足感が作品から漂ってしまったのかもしれません。いま見返すと、凄く面白い設定なんですけど、当時としてはね。


ジャッキー5
その他のメンツでは、ブリジット・フォンダが印象的でした。オデールに囲われているヤク中の女・メラニーを演じます。ブリジット・フォンダといえば、『ルームメイト』や『ハリウッド版 ニキータ』のヒロインを務めた人気女優ですけど、まー、こちらもデニーロに負けず劣らず、グータラな人物設定です。彼女のキャリアが傷つかないのか心配になるほどですが、日本とは違って、そんなことは露ほども気にせず演じるのが本当の女優。
メラニーは、常にソファに寝っ転がっています。オデールの前でもそうなのだからヒヤヒヤ。「電話に出ろ」と怒るオデールを幾度も無視。「お~、早く出ろよ~」と何でもない場面でもやたら緊張させるのが、これまたタランティーノの巧さ。


ジャッキー10
「火器局」という馴染みのない警察の部署の男・レイには、マイケル・キートン。最近の『バードマン』などで出てきた初老の姿を見ているから、この頃は若かったんだなあと驚愕します。無駄に若さギンギンな感じで、なんか生理的にイラっとするほどです。
彼はオデールを捕まえようと、運び屋を務めているジャッキーに目を付けます。猪突猛進な刑事、という感じです。熱血漢で実直なキャラでいい奴だと思うのに、なんか生理的にイラっとくるのです。なんか濃いんだよ。


ジャッキー3
そして、そんな豪華キャスト陣の中、ジャッキーと恋に落ちる中年男・マックスを演じるのは、ロバート・フォスターって…誰? ジャッキーと組むことになる準主役級のポジションですが、松本人志の『さや侍』の主演くらい、誰? となるのもまた、渋みの効いたキャスティングです。
保釈金融業を営むマックスは、ジャッキーに一目惚れをしたことで、ジャッキーの企てに協力します。これまで1万人以上もの保釈に関わっているマックスは、さすがに百戦錬磨の頼もしさと冷静さです。ぜひ、清原選手に紹介したい。

さて。

物語は、「オデール一味」「オデール逮捕を狙う警察」「オデールの金を狙うジャッキー&マックス」の、それぞれの思惑が絡まって描かれていきます。
ジャッキーの仕組んだ出しぬき大作戦が、実にアナログです。観客を置いてけぼりにするようなコンピューターなど使いません。ちょっと頭を巡らせれば、誰でも思いつきそうな作戦なのが、かえって良いのです。その作戦に、シレっとした顔で参戦しているマックスは、子供たちのかくれんぼに付き合っている大人のように落ち着き払っています。地味だなあ。けど、これがいい味を出しているのです。
ほんと…タランティーノは晩年にこれを撮っていれば、拍手で迎えられたでしょうに。ちょっと成熟が早すぎて、生意気レベルに落とされたのかもしれませんね。

おまけに。
ジャッキーとマックスの恋愛パートがまた、実にじっくりゆっくりな感じでいいです。口説くこともなく、寄り添うこともありません。言うなれば…生活疲れが溜まった中年の傷のなめ合いような感じ。全くもって気取りません。

ジャッキー7


<ラストのネタバレをします。>


本作最大の緊張場面であるジャッキーとオデールの対峙。事前に銃の取り出しを練習するジャッキーの様子が、彼女の「ど緊張」を表しています。
しかしこの対決も、まーあっさりと解決してしまうので、実に物足りないものです。「緊張」さえ描ければ結果に意味はないとは、ヒッチコックも言ってましたけど。
今だったら、みんなで撃ち合って、脳天が吹き飛んだり、タマ撃たれたり、それはそれは壮絶なラストを描くことでしょうけど、本作のサミュエルは、いつものビブラートの効いた叫び声を上げることもなく、あっさりと床に倒れ込むのでした。…まったく。タラもサミュも…、お と な か。

そして。

ラストシーンが大好きです。
これもまた渋みの極み。
ジャッキーとマックスの最後の場面です。
スペインに一緒に…と誘うジャッキーに、「もう、そんな年齢じゃない」とマックス。
かかってくる仕事の電話を受けると、ジャッキーは寂しそうに事務所を出ます。
いつもの調子で電話に応えながら、マックスはジャッキーを目で追います。

0ジャッキー


電話の相手に「30分後に掛け直して」と告げ、受話器を置くマックス。
そして、追いかけるか!
…と思わせて、やはり悩んだまま立ちすくむのでした。

突如かかるエンディングテーマ「Across110th Street」が最高です! 思い出しただけで鳥肌立ちます。

あやふやなラストを表す、にじむ画面はまるで涙のように。
一人運転しているジャッキーは、寂しさの後、無理に晴れたような顔をして。

一時の感情で突き進む程、若くはないし、馬鹿でもない。経験がないわけでもない。絡めば絡むほど、空回り、いつしか愛情は乾いていく。きっと…どうせ、どの恋も。
もし、マックスがジャッキーに付いて行ったとして、恐らく二人の車中には次第に重苦しい空気が満ちるのかもしれません。それこそ、本ブログで何度も紹介している『卒業』のラストシーンのように。
これは…大人の男女の別れなのでした。(一説には、この後マックスが追いかける見方もあるようですが、それはダメでしょ)

映画史に残したいほど、かっこいいラストシーンなんです。誰も見向きもしないけど、いい映画なんです。不幸にも、当時のタランティーノに向けられていた熱視線には、まるで違う期待が込められていたということ。

↓完全ネタバレ。ラストシーン。もちろんOPから観ていれば、感慨深さはさらに。



   

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Posted on 2016/03/17 Thu. 15:20 [edit]

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コメント

 

タイチさん、はじめまして、ジャッキーブラウンの感想
わー、私の思うところ全部書いてくれてると嬉しくなりました。
撮り順ミス、なるほど、大人~の映画ですものね。
公開時に観に行ってサントラを買って、2年前かな、西鉄ホールの爆音映画祭で本当に久しぶりに観ましたが、やはりしゃれてて、かっこいい映画だと思いました。
今のタランティーノもますますやりたい放題、でもストーリーはちゃんと練ってて面白いですね。
彼のこういう作品もまた観たいです!!
初めて、こちらのブログ拝見したのですが、読んでいてワクワクしました~。楽しみに訪問させていただきます!


URL | ゆーまる #- | 2016/03/30 13:59 | edit

ゆーまる様 

コメントありがとうございます。
わー、地元の名称が出てきて嬉しいです。
爆音映画祭って早速調べてみたけど、魅力的な催しですね!
ぜひ、参加したい!

本作は、もっと評価されていいと思うのです。
ただ、怪物並みの高い評価を得た「パルプフィクション」の後でしたからね…。
仕方ないのかもしれません。
それにしても、これをタランティーノの引退作として観たかったとつくづく思います。
そしたら、泣いちゃうかも。

他にもいろいろ、タラ作品を扱っておりますので、
これからも、よろしくお願いしまーす。

URL | タイチ #- | 2016/03/30 21:07 | edit

 

詳しい解説ありがとうございましたね。
最後は「メキシコに一緒に」じゃなくて「スペインに一緒に」でしたね。具体的にはマドリッドでした。
メキシコは毎日往復しているからジャッキーも飽き飽きしていることでしょう。(笑)

URL | Gato #- | 2017/01/09 00:08 | edit

Gato 様 

ご指摘ありがとうございます、
訂正します。

URL | タイチ #- | 2017/01/09 22:08 | edit

 

初めまして。

最近DVDでジャッキーブラウンを観返していまして、人の感想が気になり、楽しく読ませて頂きました。

ロバート・フォスターに関して『さや侍』の主演くらい、誰?&
マイケル・キートンに関して「なんか生理的にイラっとする」の所に共感し、大笑いしてしまいました。

特別目が大きいというわけではないと思うのですが、ギョロッと見つめてくるあの目力。瞳の色のせいですかね。あと絶妙なおちょぼ口。体の動かし方、独特だと思いました。ちょっと鳥っぽい。まさに無駄にギンギン。

しかし旧バットマンで私の子供時代のヒーローだったのも事実。あまり良い役ではないしイラっとするんだけど独特な味があってな~んか憎めないです。

ラストで泣いてしまいました。
20代半ばで買ったもので渋いロマンスのラスト&Across110th Streetが印象的なのは覚えていたのですが、30代の今観ると込み上げてくるものがあります。
「年齢を重ねると、映画の感想が変わっていく」その通り!

タランティーノ大好きなので一生観ていく映画になると思いますが、
この最高のラストは年と経験を重ね、その時々の感情によってさらに感動する事になるんだろうと思います。

URL | シャイニンゲン #- | 2017/02/01 23:10 | edit

シャイニンゲン  様 

コメントを頂戴し、ありがとうございます。

マイケル・キートンは、最近ではいぶし銀のいい味わいになっていますね。先日観た「スポットライト」も印象的でした。若い頃のギラギラが、ちょうどいい具合に枯れてて良かったです。

ラストシーンは珠玉ですよね。鑑賞当時(学生の頃ぐらい)には、映画自体にあまり印象は持てなかったのですが、ラストシーンだけはずっと頭にこびりついてました。曲が素晴らしくて。けど、カラオケにはないんですよねえ…(あっても歌えませんが

いつしかタランティーノが引退した時、改めて本作を観たいと思っています。泣いちゃうかもしれません。

URL | タイチ #- | 2017/02/02 13:10 | edit

 

このブログを読んだらこの映画がとてもいい映画だと思えました。

URL |  #- | 2017/04/20 18:58 | edit

 

コメントありがとうございます。

始めて鑑賞した当時は、ぱっとしなかったですけどね。
年取ってから見ると、随分印象が変わるものです。

だけど、ラストシーンだけは昔から大好きでした。

URL | タイチ #- | 2017/04/21 12:56 | edit

 

きょうテレビでたまたま放送していて、20年越しにやっと見ました。なぜかジャッキー・ブラウンだけは今まで見る機会があっても先延ばしにしていたのです。なんせ時間が長いし設定が地味に思えて、20年前の若かった自分には退屈そうに見えたからです。

それから20年後の今日初めて見てみて、私もこれは傑作だ!!と思いました。
もしかしたら昔の自分だったらそうは思わなかったかもしれません。
そんな新鮮な感動をこのレビューが全て代弁してくれていて、読んでいて嬉しくなりました。

エンディングテーマも本当に最高です。

URL | mdt #- | 2017/08/19 03:23 | edit

mdt 様 

コメントありがとうございます。
ブログ記事を読んでいただいて嬉しいです。

私も20年前に観たときは、「地味」という印象ばかりでした。

月日が経つと、映画の感想は変わりますね。

本作は、大人の渋み満点の映画です。
エンディングなんて本当に最高です。エンディングテーマの素晴らしいこと!

URL | タイチ #- | 2017/08/19 12:17 | edit

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