素人目線の映画感想ブログ

素人による、素人のための映画感想・レビュー。 映画文法や方程式なんのその。

ゆれる たぶん、ここ近年で最高峰の邦画です。 


 無題
 ゆれる
 (2006年 日本映画)90/100点


感想タイトル数が、ようやく50本目になりました。
50本目を何にしようかなー、やっぱり良い映画がいいなーと思ったので、ちょっと記憶が曖昧になっていた「ゆれる」を再鑑賞したんスけど…
まいった。二度目でも存分に涙するラストカット。ちょっとこんなにすごかったっけ? とあっけにとられました。
これは、大傑作です!


注目の女性監督「西川美和」の長編2作目です。
公開当時は相当な話題となり、様々な映画賞で頂点を飾りました。(相変わらず日本アカデミ―賞を除いて…)

いわゆる、格差ドラマといいますか…漫画の世界でもありますよね。「稲中」とか「アフロ田中君」とか、「ボーイズオンザラン」とか。徹底してモテない男子のみじめな物語。
簡単に言ってしまうと、そっちジャンルを下敷きにしてるんですが、もっとリアルな社会的・家族的な人間関係を織り交ぜています。シャレにならないほどの深刻な心の闇をあぶりだし、女性監督ならではの繊細な演出で作り上げた渾身のサスペンス兼、人間ドラマです。

あらすじは、「東京で暮らすカメラマンの早川猛(たける・オダギリジョー)は、数年ぶりに母の法事のために田舎に帰る。田舎では、兄の早川稔(みのる・香川照之)と父(伊武雅人)がガソリンスタンドを経営し、二人暮らし。法事の次の日、猛と稔は、幼馴染の智恵子(真木よう子)と3人で渓谷へ遊びに出かけるが、ある出来事をきっかけに、智恵子はつり橋から落下してしまう…」というお話。

映画の中で最も功績が高いのは、圧倒的に「香川照之」です。
彼が演じる「早川稔」は、寂しい田舎町のさびれたガソリンスタンドで誇りを持てない仕事に従事し、毎日チンピラの客に絡まれ、女性に全く縁もなく、クダを巻く父親の相手ばかりの生活にほとほと嫌気がさしているんだが、表面上ではにこやかにしている真面目な「兄」です。
冒頭の法事の席で彼は、ひたすらに人の世話を焼いている本当に良き兄であり、頼もしい息子です。ガソリンスタンドでも、部下の智恵子に代わってクレーム客に頭を下げるなど誰の目にも献身的で、いわゆる「いい人」と言われる属性の人柄です。
彼は、実は智恵子への想いを抱え悶々としていますが、その脇で、簡単に智恵子をかすめとっていく「弟」に、憎しみとも羨望ともとれる気持ちを抱えています。
そして…職場で力になり、一生懸命に尽くし、親しくしていると思っていた女性から、実は生理的に嫌われていたことを知った時の救いようのないイタさ…。
智恵子殺害容疑をかけられて以降、1枚1枚と皮を脱ぎ捨て、表層化させる心の闇。
香川照之は、その全てを驚くほど自然に、不気味に、みじめに演じ切っています。
皮をすべてはいだ時の芝居より、はがれかかっている時の芝居が絶妙です。彼の言動から、次第に壊れていっている様子が、よおく分かるのです。
そして終盤。腹の中に抱えていた不平不満が一気に爆発するのは、決してヘルシア緑茶の効能ではありません。(これ、言いたかった!) 
 
オダギリジョーも見事に「弟」の猛を演じています。この人の芝居、うまいと思ったことがありませんでしたが、見た映画が悪かったのでしょう。だって「SINOBI」ですから。大袈裟芝居が必要な大作アクション映画では、大根もいいとこだなーと思ってましたけど、本作の様な自然なスタイルでの芝居が必要な場合は、非常にうまい人なんだと思い直すことができました。
監督の演出もいいんでしょう。都会的でおしゃれ感満載で楽しげでクールでありながらも野獣っぽくて、アート系(カメラ)の仕事に成功しているという、悲しいかな魅力全開に描かれています。翌年には、キャノンのカメラのCMに抜擢のオダギリジョー。何もかもうまく持っていくんですな。

本作の最大の見どころは、「果たして兄は、智恵子をつり橋から突き落としたのかどうか」を、なかなかはっきりさせないところです。
智恵子は「落ちたのか」 それとも「落とされたのか」
その事実は、唯一の目撃者である弟・猛の回想によって示されるのですが、なぜか思い出されるその瞬間の出来事が、(「羅生門」のように)ころころと変わったりするのです。
また、本作の重要なキーワードは、物語が進むにつれて明らかになっていく兄・稔と、弟・猛の間にある兄弟の軋轢です。
小説版では、どうも幼少期から二人の間にはくすぶっていたものがあったようです。(病弱な兄ばかり可愛がられていたことから、弟には嫉妬があったという)
それぞれの正直な思いを、大人になっても内に隠していた二人ですが、それが智恵子をめぐる三角関係を引き金として表面化します。
留置所の接見室での兄と弟の身の凍るような兄弟喧嘩は、まあまあ、お二人さん…ではすまないレベルまで深く掘り下げちゃうのです。
「稲中」で言えば、死ね死ね団結成レベルにまで拗ねきっちゃった兄。
それを、心のこもっていない気休めでおさめようとする弟。
挙句に、兄は弟に向かって、「お前は人を疑うことしか知らないやつだ」とまで言い放つ始末。今にも「やれるもんなら、やてみな」等と言い出しかねない、ゆがみ具合!

さて、本作の結末はいろいろな解釈ができるようになっています。
結局のところ、「兄は智恵子をつき落としたのか?」 どうなのよ?
様々な検討がすでになされきっていることでしょうけど…
先ほど述べた弟の回想は、単に自分に都合の良い解釈をしたがっている「身勝手」が生み出した妄想だと思います。
つまり。
兄が憎ければ「兄が智恵子を突き落とした記憶」を。兄と仲良くしたくなったら「兄が智恵子を助けようとした記憶」を。その場の都合で妄想しているだけだと思うのです。(まさに「羅生門」です)
ゆえに。
結末では、はっきりと「どっちなのか」が示されることがありません。
ただ…可能性の高い方で言えば、兄の腕の傷などから「落としていない」方ではありますけれど。
 
それにしても、本作のラストシーンの巧さはなんでしょう。
兄と弟の幼少期のフィルムを猛が自室で見るシーンは、ノスタルジックに弱い者にはたまらない場面となっています。ラストカットの弟と兄の7年ぶりの再会シーンにいたっては…もう「落とした」とか「落としていない」とか、兄と弟のどっちの方が「ひどい」とか「ひどくない」とか、伊武雅刀の若作り変装が「変だ」とか「ベレー帽やめろ」とか、んなこたー、もうどうでもいいんだよ、君たち!
…ってくらいに、ここ20年の邦画の中で、最高レベルの終わり方じゃないですかね!
 
  無題4
  (最強のノスタルジー映像は、卑怯なほど胸に迫る)


最後に持っていくのは、やはり「香川照之」です。
「兄ちゃん!」 弟の必死の必死の呼びかけに応えたかのような兄の笑顔…この後、彼はどう弟に語りかけるのでしょうか。
「脂肪を消費しやすくするのは…」的な話ではないのは明らかですが、これまた観客には示されません。
この最高のEDへの切り方。その果てに、この兄弟の幸せがあることを願わずにはいられません。
(これがハッピーエンドかどうかもまた、解釈がそれぞれですので…)

  無題5
  (ラスト、弟の呼びかけに兄は…)


洋画邦画を問わず、近年稀にみる「最高」と言わざるをえない大傑作でした。
まだ見ていない人がいるのであれば、それは不幸だと思います。


  

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Posted on 2012/10/08 Mon. 10:11 [edit]

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08

コメント

私もこの作品に感動しました 

タイチ様 こんばんは

普段はあまり邦画は観ないのですが
>ここ近年で最高峰の日本映画
ホントに同感です。最近、もう一度観たいと思っていたんです。
つい最近BSか何かでせっかくやっていたのを録画したのに、ハードディスクを飛ばしてしまって、ショックを受けていたところにタイチさんの詳細な記事を読ませて頂いて、記憶が蘇ってきました。

兄弟の危うさ、というか、愛しさ、というか、生まれてずっと敵であり味方である、というか、そんなあたりがとても上手く表現されていたと思います。
私は姉妹の姉なので、兄・稔に共感しましたが、弟の気持ちも痛いほど伝わってきましたねー。

最後については、「俺はとうとう自由になってやるぜ」という兄の心の声が聞こえてきたように思いました。ちょっと意地悪ですけど、弟は置いてけぼりにされたのではないか、と。
やっぱり「姉」の副作用かな..?

URL | momorex #- | 2012/10/09 21:11 | edit

Re: 私もこの作品に感動しました 

momorex様

コメントありがとうございました。
ブログ開始より、初コメントを頂戴して感激しております。

私も初めてこの映画を見たときは、
兄の笑顔に「悪意」が混じっているような気がしていました。
ハッピーエンドではない、と。

けれど、自分の子供が男兄弟なもので、
「願望」といいましょうか、
ああ、この兄弟には、幸せになってほしいと思ったのです。
オダギリジョーの「兄ちゃん! 兄ちゃん!」という
必死の呼びかけも素晴らしかった。
ぜひ、また見てください。
私、昨日からEDを思い出すだけでも泣けてます。
EDテーマもいいんですよね、これが。

URL | タイチ #- | 2012/10/10 00:32 | edit

 

タイチさん、初めまして。最近こちらのブログを知り楽しく読ませてもらってます。
表現が絶妙ですごく面白い!知ってる映画は共感しながら、知らない映画は本当に観たような気分になります。
昨日ビデオ屋さんで何を借りようか悩んだ時に、タイチさんの中で高評価だったこの映画を借りて観ました。(グッドナイトマミーと悩んだけど、「あれ」が大量に出るとあったんで怯んでしまった)1番下の段で1本しかなかったけど。。いや、良かったです。香川照之はやっぱりすごい!前から好きだったけど本当に上手い。留置場で弟と面会時に唾を吐いた瞬間、自分に吐きかけられたようなショックを受けました。刑期を終えて出所したけど、これからは自由に生きて欲しいな。。
こちらのブログのお陰でいい映画を知る事が出来ました。。て、こんな以前の記事にコメントして読んでもらえるかどうか。。キャナルが好きなんですね。最近全然行ってないから今度行ってみよう。私のオススメは椅子が広いトリアス久山かな?ちょっと遠いけど。

URL | ももたろう #- | 2016/08/21 14:21 | edit

ももたろう 様 

メッセージを頂戴しありがとうございます!

「ゆれる」いいでしょう? 香川照之の良さがすごく光ってますよね。
なんといってもラストシーンのあの表情。
また、ノスタルジーに弱いものだから、
子どもの頃のシーンなんて出てこられると、もう…ね…。

ちなみに、「グッド・ナイト・マミー」はアレが本当に大量に出ます。
ただ、形がちょっと違うのが救いですけど…。
すごく優秀なホラーなんですけどね。

つたない文章の当ブログを見に来てもらえて嬉しいです。
本当に励みになります。

最近は、家から近いこともあって、もっぱらキャナルシティか天神東宝です。
キャナルの映画館では、長いエスカレーターを昇っていく感じが好きでして…。
トリアスでは観たことがないですね。椅子が広い!?
最近トリアス行ってないなあ。昔は「コストコ」に行ってましたけど。
ローカルな話題が出来て、嬉しいです!

URL | タイチ #- | 2016/08/21 16:06 | edit

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