素人目線の映画感想ブログ

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※ネタバレがある時は、必ず<赤字>で標記します。

私は、ダニエル・ブレイク /明日は我が身。 


ブレイク
 私は、ダニエル・ブレイク
 (2017年 イギリス映画)  
 84/100点



子育てには、とにかくお金がかかりますよ。

教育費だけでもバカみたいにかかる。小学生にしたって、学資保険だの傷害保険だのランドセルだの習字道具だの絵の具セットだの。毎月の給食費だって、二人分三人分となればそれなりです。中学にあがって高校受験ともなれば、夏期講習だ冬期講習だで十数万、受験費用でウン万円、私立高校になっちゃったら、入学時だけでナン十万円、大学に進学するなら、毎月の塾代はもちろん、大学受験するだけで際限ない請求の上、私立大学に入ったら、年間100万円近くいるわけで。

そりゃ、少子化になるに決まってるでしょ。
「家族」を持つことは、今やリスキーな選択なのです。理性だけで考えるなら、とても望ましいものではありません。
困難に陥った時、国が、最低限でも手を差し伸べてくれる制度が信頼できなければ、誰も「家族」を持とうとはしないでしょう。それが、言うまでもなく「少子化」の最大要因です。

おまけに、本作に登場する一家は、母子家庭です。
働き口をなかなか見つけられない母親のケイティが、収入のない中で二人の子供を四苦八苦しながら育てている様子は、大層身につまされる思いがしたものです。

本作は、この生きにくい世の中で、経済的に底辺にあえぐ人々を描き出します。
名匠ケン・ローチ監督の傑作。第69回カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作品。

<結末以外ネタバレがあります。>

ダニエルブレイク-iloveimg-compressed


ケイティ一家は、ホームレス用の狭い個室での生活からは逃げ出したものの、長男は心に傷を負っている様子です。夜中に長女がベッドにもぐりこんできて、「貧しいことを理由に学校でいじめられてる…」なんて告白します。
もう、悲しくって目も当てられないんですよね。
親にとって、子どもが貧困でへこたれているなんて、死ぬより苦しい事態です。だから、ケイティが自分の食事分まで子供たちに与える気持ちが、痛いほど分かった。

もうね…、「一杯のかけそば」どころじゃないんです!
もはや、食べるお金が全くないんです!
フードバンクという生活困窮者のための施設で、食べ物を目にした途端、ケイティがあまりの空腹にむさぼってしまう姿が、悲しくて怒りさえ湧いてきます。

ケイティは。
18歳で子供を授かりました。親の反対を押し切っての交際。しかし、案の定、子どもの父親は逃げ出してしまったようです。
若気の至りは誰しも経験があるところなので、一概に彼女を責められませんが、思慮が浅かったのは確かです。
子育てのパートナーは、くれぐれも慎重に選択しないと、本当に後から大変だってば。信じられないほど無責任な輩が、この世の中には信じがたいほど多いんだから。

チャラそうだけど、本当はしっかりしてる。
悪そうだけど、本当はやさしい…
そんなの、ないから。
ギャップ効果にだまされてちゃ駄目だから。
いい加減なやつは、結局はいい加減なもんです。

刺激的な人。
楽しい人。
記念日にサプライズしてくれる人。
そんなの、いらないから。

ケイティのような苦労をしたくないなら、相手に求める最低限の条件は、「逃げ出さない人」 これ一択。

…と、ケイティを見て改めて思うんです。偏見たっぷりですけど。それでも、強く言いたいなあ。

全くもって話が逸れました。

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そんな苦境のケイティが出会うのが、本作の主人公である「ダニエル・ブレイク」なのであります。
ダニエルは心臓病の為に仕事を続けられず、役所に「支援手当て」を申請する初老の男です。
しかし、役所は彼に冷たい対応を取ります。働けないのに、「就労可能」だと烙印を押し、彼に就職活動を強要します。
さらに、煩雑な手続きを強いてダニエルを悩ませます。

これって、「全世界共通の役所あるある」なんですかね。
黒澤明監督の『生きる』のオープニングでも、役所の手続きの煩わしさが描写されていました。橋口亮輔監督の『恋人たち』でも、心無い対応ばかりする役所の職員が、主人公を追い詰めます。

日本には、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」という憲法があります。
かつて政治家の管直人が、「最低不幸社会」を提唱していました。貧困や病気といった世の中にある不幸を、出来る限り最小限に抑える努力をすべきだという考え方です。

国には、生活困難者に対して手を差し伸べる義務があるわけです。

もちろん、予算の限られている中、厳しい目で役所が審査をする必要性もわかります。知人に聞いたところによれば、「生活保護費」をだまし取ろうとする奴は、確かに存在するそうです。

だから、この問題は難しい。

制度の抜本的な改革や人の良心にも期待したいところですが、それを待っているだけではラチがあきません。
とにもかくにも、まずは目先の支援手当を手にする為に、出来る限りの「努力」が必要なのかもしれません。
その点、ダニエルは生粋の職人であるからか、機械に弱く、頑固であり、そこそこ短気であることが災いしています。
インターネットを利用した手続きでは、打ち込みががうまくいきません。周りの人に教えてもらっている割に、あと一歩うまくいかないのです。途中で投げ出すダニエル。…いや、もう少しじゃないかなあ。粘れないかなあ。…やきもきしたのですよね。
病院で診断書を作成してもらい、再度役所に渡すとかできないのかなあ、とか。
とにかく、ごねてごねて、ごねまくる手だってあると思います。ごね得ってあるんです。無作法だし、みっともないかもしれないけど、背に腹は変えられないじゃない。ダニエルは、人が良いんですよ。気位が高いんですよ。タイトルの「私は、ダニエル・ブレイク」には、役所に対して、人間を人間として扱えという意味があります。そう言いたい気持ちはよく分かります。
しかし。
「オレは犬じゃない」と訴えるダニエルですが…、犬になったっていいんですよ。命を守るためなら、プライドも尊厳も糞くらえで、食らいつけ! 

…などと思ってしまったのは、ついに身を売るしかなくなったケイティに、「こんなことはやめろ」とお行儀のいい説教をしたダニエルに、少し反発心が起きたからかもしれません。
ケイティにしてみれば、まさに、「同情するなら金をくれ」と言わんばかりの気持ちだったでしょう。
手段なんて選んでられっか! そう覚悟したケイティの気持ちが、よぉぉぉぉく分かるんです。

生きていくため、子供を守るためなら。
這いつくばって泥水すするくらい、かなぐり捨てたって。

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本作は、そういった彼らの生活の困難を描いていきます。
映画的なカタルシスは皆無です。物語は辛らつに展開していきます。
政治的と言えるほど、社会的なメッセージ性の強い映画です。
だから、人と人とが助け合って、貧乏であっても幸せになりましたプライスレス! …なんて、バカみたいな描写はありません。
そりゃ、フードバンクの人たちは優しいし、役所にも親切な人が存在していました。もちろん、ケイティにとってダニエルとの出会いが、どれほど救いになったかしれませんっていっても、気持ちだけじゃ、喰ってけねーんだよ! という強烈な怒りが、本作からほとばしっているようでした。

何度も言いますが。

子育てにはお金がかかります。とても、かかります。
将来の年金にも期待できない世の中です。
今は何とか大丈夫でも、生活が困窮するかもしれない事態は、いつ誰にでもふりかかりかねない不幸です。個人的に、いつもそのことにビクビクしています。

明日は、我が身。

さあ、生き抜くために勉強しよう。準備をしよう。
本作を観て、そう思いつつ、震えるような思いがするのでした。


 

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Posted on 2017/11/22 Wed. 23:57 [edit]

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