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月に囚われた男 残酷な、あるクローンの物語。 


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 月に囚われた男
 (2009年 イギリス映画)80/100点


デヴィッド・ボウイの息子ダンカン・ジョーンズ初監督作品にして、非常に高い評価を得た傑作のSFスリラーです。
2作目の「ミッション8ミニッツ」も傑作でした。今一番、今後が楽しみなお気に入りの監督です。
本作はSFですけど、「ガタカ」のように切ない人間ドラマになっており、とても見応えがありました。

あらすじは…「月の資源の採掘のため、ルナ産業との3年の契約で月面生活をする主人公・サム(サム・ロックウェル)。たった一人でのさみしい生活もあと2週間で終了。地球では、愛しい妻と生まれたばかりの子供が待っている。しかし、ふとした不注意で事故を起こしてしまい、基地の医務室で意識を取り戻したサムは、その後、事故現場で自分と全く同じ容姿の男を見つける…」という話。

2回ほど鑑賞してみると、「?」な点がいくつか存在することに気づきます。
目覚めたばかりのクローンがなぜ事故の記憶を持っているのか、とか。
しかし、そんなことは気にせず、この切ないクローンの物語にどっぷり浸ってほしいと思います。

とにかく登場人物は、モニター越し以外には、サムと、精巧なAIを搭載したガーティというロボットのみ。
あらすじにもある通り、中盤から、新旧のクローン・サムが互いに葛藤をぶつけ合います。
つまりは、主演のサム・ロックウェルの素晴らしい一人芝居の物語でもあります。
互いに「オレがオリジナルだ!」と言い争ったり、うすうす自分の正体に気付き始めて不安定になったりする姿は、かなり痛々しく、機械であるガーティさえも同情するほどのものでした。
 
 無題2
 (出演はこの二人、というか一人のみ)
 
 無題3
 (人工知能というか、感情ありすぎなガーティ。声はケビン・スペイシーという豪華な配役)


記憶を植え付ける、という発想はSFではよく見かけます。
「トータルリコール」や「攻殻機動隊」とか。
実際に自分が経験していない家族との思い出を植え付けられ、自分の帰りを待ってくれている家族がいると信じ込まされ、それがすべて嘘だったと知る苦しみ。
自分は数多くのクローンの一つに過ぎなかったと知った二人のクローン・サムは、自分の運命を激しく呪います。

究極の「その他大勢」ポジションです。

しかも、そこから抜け出せる可能性一切なし。
「自分」の存在意義が完全にゆらいだサム・クローンのやさぐれようといったら、もう見ていられないほど。
下手な言葉でもかけてしまったら、一瞬でブチギレされそうで…

…。

サム・クローン「…ちょっ、ちょっとちょっと。…いまあんた、個性っつった? 自分ってなんだろー。自分は何のために生きているんだろーとか、そんな青いこと平気で口走った? まー、そーだよねー、オリジナルの皆さんはね、そりゃ、そう思うのは自由ですよ。なんたって無限の可能性ってもんを秘めていらっしゃるわけだから。他人とは違う自分だけの特性ってもんを早く見つけたいって思うよね。いわゆる…自分探しっていうの?
あるいはセカイ系とでも言いましょうかねえ?
…ふんっ。…ま、ないわあ。オレにはそんな考え方はないわ。
個性なんてそんなもん、ほんとに大事ですか。そもそも個性ってなんですか?
奇抜なファッションをまとうことですか? ちょっと周りに反抗してみることですか?
貧相なスクールであくせくお稽古することですか?
あのねえ、そんなことしたってね、結局ほとんどの人は歯車の一つでしかないんですよ。
社会という共同体を維持させていくための装置にしか過ぎないの。
どう頑張ったってね、理想通りの自分であることなんて、まー無理、無理。
いやいやもちろん、みんなが、とは言わんよ。そりゃ中にはすごい人もおるわ。
けど、そんなのって、ひとつまみの人数に過ぎないんですよ。ほとんどの人はさ、いろんな序列で出来たこの社会の中で、せいぜい下位に埋もれていくわけ。
いわゆるさ、その他大勢ってーのに落ち着いちゃうんだよ結局のところ。
だから、変に自分に期待するっつーか、自分を特別視するのは、やめといた方が自分のためでもあると思うけどねー。
…え? 何を言ってんだよ…。ちっ。あのねえ、なにがオンリーワンだよ。何が世界に一つだけの花ですか。
そんなのは、ほら、あれだよ、弱者のお慰めにすぎないですよ。いいわけですよ。いいわけ。もっともらしい言葉でのごまかし。
いーや、そうだよ。いーや、間違ってないね。
ともかくオレの前でさ、そんな生半可なことは言ってほしくないんだけどなあ。
…は?
なんでお前はそんなにやさぐれてるのかって…?
いや、別にそんなつもりはありませんよ。ふつーですよ、ふつー。
…ま、そりゃ、いろいろとありますよ。何って? …それは人それぞれでしょう。
…ま、別に特別なことってわけじゃないけど…
それは、ほら…あれだ…
つまり…

オレって実は、サムのクローンだったんだよー!(号泣)
(ゴロゴロドーン! 注:雷鳴)
 

そーさーぼーくーらは、せーかいーにむーすうーの、サームのくろーおーん。
ひーとーつー、ひーとーつ、サームとーおんーなじ。 
つきのーしげーんを、ほーりだすーこーとに、いっしょーおーけーんめーいに、なーればーいーいー。(作詞:サム 作曲:マッキー)


…すみません。ちょっと深夜のテンションで書いてました。
つまり、サム・クローンの前で「個性が大事」なんて、言わないで絶対。
 
本作は、だから非常に残酷にできています。
クローンの寿命はわずか3年。
これまで3年間働いてきた旧サム・クローンはもう体がボロボロです。
間違って旧クローンと出会ってしまった新しいサム・クローンは、3年後の自分の姿を知ってしまったわけです。
ずっと通信装置の故障ということで、地球とのライブ(生)での連絡が取れなかった旧サム・クローンですが、通信妨害という障害を乗り越え、ついに地球にいる家族と連絡を取ります。
しかしそこでは、さらに信じられない事実がサムを打ちのめすのでした。
そして、旧サム・クローンは生きていく糧を完全に失うのです。

切ない、という表現にはふさわしくないほどの救いのない悲劇。

新旧、二人のサム・クローンにできること。
それは、二度とこんな悲劇を起こさせないようにすること。
果たしてどのような結末を迎えるのか。そこに、わずかでも救いはあるのか。
ぜひ覚悟をして、見届けてほしいと思います。傑作です。

 無題4
 (もうすぐ会える。その日を夢にまで見て)


 

 
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Posted on 2012/10/31 Wed. 07:47 [edit]

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