素人目線の映画感想ブログ

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藁の楯 クズの中のクズを守れ。 


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 藁の楯
 (2012年 日本映画)70/100点


(ネタバレで書いています)

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カンヌ映画祭・コンペティション部門・ノミネート作品です。
…が、退席者続出の酷評を受けたというニュースを聞いて、監督・三池崇の容赦ない「残酷描写」が問題だったのかなあと思いつつ、恐る恐る鑑賞してみたところ…

大変、惜しい作品だなあ、という感想を持ちました。

心配した残酷描写はそれほどでもなく、カンヌでの酷評は、単純に、映画の出来が不完全であったからだと思います。

以前も「悪の教典」の感想で述べましたけど、三池崇監督は作品をかなりハイペースで連発しているため、力を入れている場面と手を抜いていると思える場面が、くっきりと見えるのです。熟慮する時間がなく、えいやーと勢いだけで作っているような…。

とはいえ、見応えのある場面もあります。
まずは、本作の良い所から書いていきたいと思います。

・うちの地元が出てきて良い。
…いきなり超個人的な感想ですけど、ビックリしたのは、犯人・清丸が出頭した警察署が「福岡南警察署」で、その後入院した病院が「九州中央病院」 これがうちのご近所!(福岡市南区塩原) いやあ、身近な地元の名称が物語に出てくるとテンション上がりますな! そうばい田舎モンばい! おまけにミーハーばい!

加えて言うならば、清丸を護送する警察車両が、九州自動車道を通って東京に向かうのですが、ソフトバンクホークスの本拠地・ヤフードーム(福岡市早良区百道浜)の傍を走っています。しかし、「福岡南警察署」から九州自動車道を利用する場合、ヤフードームのところは全くの逆方向! 遠回りにもほどがあるほど遠回りしています。ヤフードームを映したかったんだねえと、土地勘あるとバレバレったいね! 嬉しいっちゃけどね!

・高速道路や新幹線内でのアクションが良い。
日本でのカーアクションはほとんど無理だと言われる中、かなり頑張っている印象を受けました。高速道路でダンプカーが無数のパトカー車両を蹴散らして走る様はなかなかの見応えです。そして、ひっくり返っての大炎上! 無論、ハリウッド映画に比べれば、アップで場所をごまかしていたり(実際は台湾での撮影だとか)、何となくCG臭いんですけど、「よくがんばりましたで賞」ものの凄さでした。(褒めてますよ)

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新幹線内の銃撃戦も見応えがありました。やっぱり既視感のある風景でドッカンバッカンやられると、リアル感が格段に増して緊張します。『ガンツ2』の地下鉄車両内での戦闘シーンも良かったですもんね。もっともっと、日本の都市の、見慣れた風景でのアクションが見られたら嬉しいものです。

さらに、包丁を持った男が少女を人質にし、清丸を渡すように要求する緊迫の場面。普通は絶対に「少女は助かる」場面なんですが、三池崇のことだから、まさか…と思って、かなり手に汗握りました。犯人説得にあたった老齢の刑事が、言ってはならないことを言っちゃった描写は、怖くて怖くて目を覆いそうになるほどです。普段、「悪の教典」みたいなイカれてる映画を作っているから、こういう時に全然信用ならなくて、逆にいい!(褒めてますからね)

・役者陣のアクションもカッコイイ。
主人公・銘苅とヒロイン・白岩が、銃の構え方から、眼光から、かなりカッコイイです。その他、神箸正樹(永山絢斗)のキレっぷり&ツンデレぶりや、前述の老刑事・関谷賢示(伊武雅刀)の演技も、さすがの老練さでワクワクします。
もちろん、蜷川老人(山崎努)もしかり。実際もこんなおじいちゃんでは…、とハラハラさせるほど、命の消えかかった老人を演じきっています。風に負けまいと杖を駆使して歩く姿は、名人芸ですな。

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・クズ中のクズ、清丸が最後までクズでいい。
賞金首をかけられた幼女殺しの清丸。彼は徹底して倒錯しています。恐らく、精神的に異常をきたしていると思われます。彼には、人を慮ることも、状況を把握する能力も、社会性もまるでありません。あるのは、「幼女にいたずらしたい」の一点張り。大変なクズです。ここまでクズだと、逆に気の毒に思えてしまうのはなぜでしょうか。彼だって、「異端」に生まれたくはなかったのではないでしょうか。彼は、性的倒錯の精神を持って生まれてしまった、ある意味「被害者」とさえ思えるのです。ここまでクズだと、もはや彼に罪があるのかないのか、もう判りません。本能のままに生きる、獰猛な熊のようなもので…。
むろん、熊に悪意があろうとなかろうと、町に降りてきて人を襲えば、排除せざるをえないのと同じように、清丸を罰することにためらうわけではありません。…ただ、あまりの愚かさに、なぜか私には彼が気の毒にも思えるのでした。
それは、清丸の母親もしかり。清丸を生み育ててしまい、自決して責任を取らざるをえなかった母親の絶望たるや。
清丸は、母親にだけは人間的な優しさを見せました。
母の死は、彼に人間らしさを取り戻させる最後のチャンスだったと思います。しかし、彼は逆に、タガが外れたように、さらに罪を犯していくのでした。

定番の物語にありがちな、彼に「成長」の兆しを見せるなどということはなく、最後の最後までクズとして描き続け、彼のせいで死んでいった者をあざ笑うような残酷なラストを描きます。設定や主張がぶれにふれまくったり、既定路線の展開で進みがちだった本作で唯一、最後まで一貫してみせた「軸」でした。

おまけ:清丸のクズ名場面(思い出せるだけ)

・自分の犯した罪を忘れ(幼女二人殺害)、「殺されかけた人間の気持ちがお前らにわかるか!」とぶち切れ。
・警護してくれている警官に向かって、「高卒ですか? 大変ですね」と失笑。
・人質に取られて泣き叫ぶ少女を見て、「ブサイクだなあ」と知らんぷり。
・初めて人を射殺してしまい、茫然自失している刑事に、「グッジョブ!」と合図。
・怒りに狂った被害者の父親に向かって、「あの子はぷりぷりしてて、よかったなあ」と追い打ち。
・逃亡のチャンスなのに、少女に気を取られてあっけなく捕縛。おまけに、「いたずらくらい、いいじゃないすか!」と凶器に使うつもりだった鋭利な石を抱えながら懇願。
・終盤まで守り通してくれた刑事をあっさり撃つ。理由は、「オバサン臭いから」
・ラスト、死刑判決を受けて一言。「反省してます。…もっとやっときゃ良かったって」


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さあさあ、お立合い。
ここからは、突っ込み満載でお送りします。
本作の気になる問題点一覧。

・「荒唐無稽」過ぎ。
散々言われていることですが、「10億円で清丸を殺してくれ」と新聞広告を使って、大々的に喧伝することの無意味さがやはり気になりました。何らかの上手な説明があるのかと期待しました。例えば、賞金をかけた蜷川老人は、実は孫のことはどうでも良く、ただゲームがしたかっただけだった、とか。…結局は、何も説明がありませんでした。(1点、逃亡中の清丸をあぶり出す効果はありましたが)
しかし、当然思いますよね。「こっそりと殺し屋を雇えばいいんじゃない?」
おまけに蜷川は、ヤクザ組織はもちろん、マスコミや警察の上層部、…っていうか、主人公以外のほとんどを買収できるほどの力の持ち主です。大々的に暗殺を宣言するから警護が厳しくなるわけで…、秘密裏にやっていれば、清丸暗殺は簡単に達成できたと思いますよ。いや…、だから、ルパン三世の予告窃盗のようにゲーム感覚なのかなあと思ったものですが、蜷川はいたって本気。

・清丸を守る意義について。
これは、物語冒頭で、警察のお偉い人が言っています。
「我々は、清丸を守るのではない。警察の威信を守るのだ」と。
その通りだと思います。
警察の威信というか、法治国家としての威信です。
清丸がいかにクズであろとも、「金で人を殺そうとする人間」はまた、クズです。そんなことが許されるわけありません。金のために人を殺そうとする者を排除するのは、警察として当然のことです。
このことから、「清丸を守る意義」は十分に納得できるはずです。
にも関わらず、皆が「なぜ、こんなクズを守らなきゃいけないんだ!」と自問する姿には、ちょっとウンザリしたのです。
「社会正義」をかざした者が清丸の命を狙う場面もありますが、主人公の銘苅は、正義の名のもとに清丸の命を狙う男に言います。「金の話が聞こえると、あんたの言葉は言い訳に聞こえる
さらにヒロイン・白岩が、「賞金首をかけたのは、蜷川の誤算だ」と続けます。金がからんだことで、清丸を殺す理由が汚れてしまい、清丸を守ろうとする銘苅の意思がさらに強固になるからです。ここは、うまいなーと思いました。

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・繰り返しちゃった油断。
本作最大の突っ込みどころです。
考えてもみてください。ドリフターズだって、1回のコントの中に2回も、「志村うしろうしろ!」を入れ込まないでしょう。
なんのことかと申しますと、ヒロイン・白岩がよそ見をしている隙に、清丸に好き勝手にされてしまうというパターンが、本作で2回も起こるのでした。2回もですよ。に、か、い、も!
見ていてヘナヘナと力が抜けてしまいました。仮にもプロのSPです。1回だけならまだしも、2回も清丸から目を離し、ぼぉぉ…っとするなんて。に、か、い、も!

これ、見ていて本気で頭を抱えました。

2回も同じ場面を繰り返すなんて…、プロの脚本家と演出家だったら、その陳腐さに気づきそうなものです。残念でなりません。もしかして…、「笑い」の要素だったのかしら? てんどん? 
2回目の油断で白岩は死んでしまいました。ここは重要なシーンなわけで、もっと練り込んでほしかった。繰り返しますが、三池崇監督は連作ペースを落とした方がいい。もったいない。

・まさかの説得オチかとひやひや。
終盤での蜷川と銘苅の対決。「ホットファズ・俺たちスーパーポリスメン」ばりの、刑事VS老人の銃撃戦でも始まるのか!? なんたって相手は百戦錬磨の山崎努ですからなー、と密かな期待に胸を躍らせていたのですが…、まさかまさかの説得シーンが始まるとは!? 説得で決着を付ける展開の仕方は、日本のドラマ作りの悪しき習慣とさえ思っていますので、これもかなりキツかった。しかも説得内容が…、「こんなことをして、お孫さんが喜ぶと思いますか」だって! …安っぽいヨー!! 中学生並みの説得です。しかし、銘苅ったら自信たっぷりに、まあ。
蜷川がその言葉に耳を貸さなかったのがせめてもの救いですが、私だったら、この局面でこんなこと言われたら、「マジで言ってんの!?」と聞き返すことでしょう。
さんざん力を持っているはずの蜷川が、最後に託した武器が、「杖の仕込みナイフ」という点も、なんだかなー。

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・ステレオタイプの主人公。
主人公・銘苅が、絵にかいたような生真面目な男で、今一つ面白みに欠けます。
無論、クズの清丸との対比として活きている気もしますけど、見ていて人間味が薄いし…、サムい。
とはいえ、終盤に見せた心の闇「5人の中でお前を一番○○たがっていたのは、このオレだー!」と覚醒した場面では、とても期待したのですが…。
ダークサイドに落ちかかっても、日本のドラマは結局は元に戻るんですよねー。どうしても、よくある展開レールから離れることの出来ない、勇気の無さを感じてしまいました。そこが、韓国の娯楽映画に勝てない部分だと思いますよ。主人公が刺されるのも、「踊る大捜査線」並みの死ぬ死ぬ詐欺のようで…、映画の質を落としていると思います。ゆえに、最後まで、(清丸のクズっぷりを除いて)意外性の足りない結末となってしまったのです。


という具合に、所々で残念な場面の多い映画であることは、事実です。
カンヌ映画祭でノミネートされたこと自体が、正直信じられません。

もちろん、単に「娯楽」として見るなら、楽しめる部分もあるし、実際こんな長文で感想が書けるのは、いろんな意味で印象深い映画だったからだとも…、言えます。

しかし脚本がなあ…。日本の娯楽映画は、どうしてもこの壁を乗り越えられません。


  

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Posted on 2013/09/29 Sun. 00:12 [edit]

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