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鑑定士と顔のない依頼人 傷心のバルボッサ、海を行く(行きません)。 


鑑定士と顔のない依頼人 [DVD]
 鑑定士と顔のない依頼人
 (2013年 イタリア映画) 84/100点


結末に至るまでは、ものすごく面白かったです。

いや、結末が悪いとは断言できません。人それぞれで異なる感想になると思います。
本作は、「結末」が非常に重要です。様々な捉え方ができる稀有な映画なのです。ゆえに、感想の前半はあらすじ的にさらりと。後半で、結末について書きます。

名匠ジュゼッペ・トルナトーレ(「ニューシネマパラダイス」「海の上のピアニスト」)の描く、苦い苦い、老いらくの恋の物語。そうはいっても、週刊○○の「死ぬまで現役」記事とはワケが違います。実に品のいい語り口で、本作の物語は綴られていくので見ていて心地よかった。

あらすじは、「凄腕の鑑定士・ヴァージルは、ある日、資産家の若い女性から家具の鑑定を依頼される。しかし、指定された屋敷に赴いてもその女性は現れない。女性は、対人・広場恐怖症により、壁の向こうの隠し部屋にひきこもっているのであった。壁越しに幾度も会話を交わすうち、次第にヴァージルは彼女を一目見たいと思うようになっていく…」というお話。

鑑定士


主演のジェフリー・ラッシュがいいですね。いい味わいの初老の男を演じています。
あの「英国王のスピーチ」の…とは言わず、ここでは、「パイレーツ・オブ・カリビアン」のバルボッサでおなじみの! と言いたいです。すごい演技幅じゃありませんか。道理で、バルボッサは悪役なのに憎めない雰囲気とカッコ良さがあると思っていました。どことなく品が良いのですよ。
本作でも、ラッシュは偏屈で高慢で神経質で人嫌いという難しい男・ヴァージルを演じますが、品性に加え、どこか愛嬌を感じるのです。

ボルバッサ「財宝より、愛に目覚めたワシ」


さて、そのヴァージル…実は、女性と付き合ったことがないという設定です。おまけに、競売にかけられた女性画を不正に入手し、自分の隠し部屋に飾り付け、一人楽しむのが趣味…というまさかの「二次元女性萌え」設定。

とはいえ、鑑定士として、競売士として大成功をし、裕福な暮らしをしていますので、基本「勝ち組」のはずなのですが…。

その彼が、謎の鑑定依頼人である女性・クレアと知り合う事で、恋心が芽生えます。成就すべく、繊細に二人の関係を育てていきます。男は初老で、相手は若い(27歳)女性ってところが、やや男性願望の匂いが強くてアンフェアな設定の気がしますが、ヴァージルが初めて本物の恋に堕ち、齢60にして、若者の助言を受けながら恋に四苦八苦する様は微笑ましくありました。

その意中の相手であるクレアは心の病を抱えています。極度の対人恐怖です。些細な事で疑心を生み、ヴァージルに唐突にキレて見せます。「髪を染める人は信用できない!」と不条理なことでヒステリックに喚きだしたりします。
もともと人に気を遣うような人間ではないヴァージルは、最初の頃こそクレアの態度にすぐに憤激し、「君とはやってられんよ」と御破算にしますが、その後にクレアから落ち込んだ電話がかかってくると、「いいんだよ、いいんだよ」と…。すでに術中なのでありました。おまけに毛嫌いしていた携帯まで持つ始末。仕事もないがしろにする始末。恋のテクニックを教えてくれる若者の前で、子犬のような目をしてちょこんと座りこむ始末。ヘタすると「ホットドック(ふるっ!)」の「これで落とせる口説きワザ特集」を読み漁りそうな勢いなのでした。

物語は終盤近くまで、この二人の不安定な関係でハラハラとさせます。
ミステリー映画のはずですけど、基本軸は「ラブストーリー」です。コミュニケーション不全という共通項を抱えた二人の恋愛です。ちょっと「世界にひとつのプレイブック」を思い出します。…が、あちらのアメリカンで破天荒なストーリーとは違います。しっとりとした大人の恋愛なのです。
私は予告編を見た時、姿を見せないクレアの居場所と正体を探る映画かと思っていましたから、序盤ですぐに女性の居場所が判明して、あらら? と拍子抜けしたものです。なんだ、そこは重要じゃないんだと。
ただ、女性の居場所を突き止めるくだりは、結構ワクワクしましたけれど。
クレアは、人と出会うことのないよう屋敷内のとある壁の奥の隠し部屋で生活していたのです。
しばらくは、壁を隔ててヴァージルとクレアは家具の鑑定の打ち合わを含め、会話を交わし交流します。
次第にヴァージルは、どうしても彼女を一目見たいという想いにかられます。そのために、ヴァージルが子供のいたずらのような騙し打ちを仕掛ける場面は、結構ドキドキしました。
些細な事でも逆上するクレアに見つかったら、そらあんた…。心の病をそういう風に扱っていいのか賛否ありそうですが、そのあたり、結構スリラーでした。

物語はその恋愛の成り行きと並行し、数々の「謎」や怪しさの匂い立つ「伏線」を積んでいきます。
・女性の屋敷で見つかる「オートマタ(機械人形)」の部品。
・ヴァージルに恋愛指南を行う修理技師の不穏なプライベート。
・屋敷の傍のカフェに居座っている天才的な数字の能力を持つ女性。
・ヴァージルが旧友の協力のもと不正に入手する女性画の数々。
・その旧友をドナルド・サザーランドが演じているという胡散臭さ。
・クレアが電話している相手。小説家という肩書。彼女が病気を抱える以前に訪れた思い出の場所。


鑑定士2


本作のウリに「二度目の鑑賞」では印象が変わるという点がありますから、実に目を皿のようにして、重要な伏線を見逃すまいと、それこそヴァージルの鑑定のように神経質に鑑賞していたものです。

果たして、ヴァージルはクレアの閉ざされた心を開くことはできるのか。
果たして、宣伝でも示されている「どんでん返し」とはなんなのか。

物語は実に興味深く、観客を終盤まで一切飽きさせずに引き付けるのです。
紛れもない傑作だと思います。

そう、この結末を知るまでは…。

ということで、本作を語るには「結末」がどうしても必要なもので。

ここから、完全に「結末」に触れたいと思います。

鑑定士3


本作には実は、二つの「結末」があります。

一つ目。
「全ては嘘でした」

そう、クレアも、級友も、修理技師の若者も、みんなグル。全ては、ヴァージルが秘密の部屋に隠している女性画コレクションを奪い取るためのミッションだったのです。
つまり、彼は鑑定士として、絵画の嘘は見抜けるけれど、人間の嘘を見破ることはできなかったんです、っつーオチなわけ!

そのどんでん返しに、私は当初、完全に白けてしまいましたよ。

だって…あまりにもちゃぶ台返しがひどすぎる。
「全てウソでした。」ってのは夢オチのようなもんです。
これまで積み上げてきたものには、何の意味もなかったということです。

特にクレアの心の病気設定が全てウソ…ってのは、あまりにひどい。
人嫌いのヴァージルの心理を手玉にとり信じ込ませるには、これほどの手順が必要だったということかもしれませんけど。
それにしたって、犯人側の目的に対してあまりにも作戦が突飛過ぎるではありませんか。
「名探偵コナン」の犯人の手口のようなもんで。そんな複雑な仕掛けで人を殺すくらいなら、普通に狙った方が楽じゃね? という感じに似ているのでした。
特にオートマタのくだりはいる? 

ただ、クレアが狭い隠し部屋から外の世界に解かれた時、私は同じように狭い部屋に隠されている無数の女性画も、きっと解放されてしまう(失う)に違いないとは思いました。
そういう意味で、その他の伏線含め、いろいろな示唆で組み立てられたオートマタのように精巧な構造だったのだろうとは思います。本作は、それこそ現実的な辻褄よりも、映画的な辻褄を重視した映画なのだと理解せねばならないのでしょう。

1.png


と、まー、そうはいっても、なかなか一つ目の結末に納得がいかないのは、全てを知ってしまったヴァージルの憔悴しきった様子に強く同情したからなのかもしれません。

が!

二つ目の結末。本作の極めて秀逸な点が、実はここにありました。

「ハッピーエンドか、バッドエンドか」

さあ、人によって様々な解釈ができます。
一つ目の結末でうんざりした私ですが、この二つ目の結末には、この映画の仕掛けにおののいたのでした。

事件後、ヴァージルは生きる意欲を失ったかのように介護施設に入所します。ほんと、気の毒。
やがて彼の秘書が、手紙を持って訪れます。
その直後、彼はリハビリに奮起し、クレアがかつて話してくれた思い出の場所「ナイト&デイ」というカフェを訪れます。
入り口正面の席に座り、「おひとりですか」と尋ねるウェイターに、彼はしばし黙り込んだあと、「連れがいる…」と答えて映画は終わるのです。

本当に、連れがいるのか。

この解釈が様々なんですなー。

秘書から渡された手紙は、ひょっとしてクレアから再会を希望する手紙だったのかもしれません。
いや。
全ては妄想なのかもしれません。
または。
たとえクレアが現れなくても、彼には美しい愛の記憶が残ったのかもしれません。
もしかすると。
彼は、一筋の希望とともに生きる決意をしたのかもしれません。

鑑定士としての、かつての彼のセリフ。
「贋作の中には、ごくまれに本物がある」
つまり。
「偽物だらけだった作戦の中で、クレアの愛だけは本物だったかもしれない」
とつながるのです。

かつてクレアが、自分の書いた小説を「ハッピーエンドに書き換える」と話すシーンもありました。

そういった示唆にヴァージル自身も気づいているかのように、ラストシーンの彼は希望に満ちていたように見えます。
「ナイト&デイ」に飾られたカラクリ時計が、ヴァージルの願いの通り、幸福だったあの頃に時を戻してくれているようにも見えたのでした。

そうはいってもね…

wanted!!
顔 顔3 顔2


ヴァージルは、奴らを血の果てまで探し回る、賞金首狩りの旅に出るのでした。チャンチャン。
ボルバッサ「ワシの絵と青春を返せ!」


  

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Posted on 2014/08/31 Sun. 22:05 [edit]

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