素人目線の映画感想ブログ

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※ネタバレがある時は、必ず<赤字>で標記します。点数の説明はこちら。

バートン・フィンク /売れっ子作家のスランプあるある。 


 無題
 バートン・フィンク
 (1991年 アメリカ映画)
 85/100点



ジョエル・コーエン監督、イーサンコーエン脚本、いわゆるコーエン兄弟の描く不思議な物語。
カンヌ国際映画祭で大絶賛された本作は、平たく言うと「上質な世にも奇妙な物語」といったところです。(平たいなー)

あらすじは、「劇作家のバートン・フィンク(ジョン・タトゥーロ)は、ハリウッド映画の脚本を依頼される。執筆の場としての滞在先は、人の気配のない安ホテルだった。社会派の作品を得意とするフィンクに、映画会社は『レスリング映画』の脚本を依頼する。全く得意としない分野のため、遅々として執筆が進まずに焦るフィンク。ホテルの自室では、気を散らす様々な物音などに悩まされ、挙句にスランプから抜け出せない状態に陥ってしまい…」というもの。


隠れたマフィア映画の傑作『ミラーズ・クロッシング』の脚本執筆中に、実際にコーエン兄弟が苦しんだ経験を基にしているとのこと。

ホテルの隣から聞こえる笑い声や喘ぎ声、はたまた「ぷーーーーん」と飛び回る蚊の羽音、不気味な液体を滲ませベロリンと剥がれる壁紙。

全てが意図しているかのように起こり、フィンクの神経を逆撫でします。

芸術を生み出すことの苦しさ…、天才と謳われる男の息の詰まる葛藤。
フィンクは悩みます。

悩みます…けど…ま、でもー、フィンクが依頼されているのは「レスリング映画」 
いわゆるB級映画です。


映画会社の社長は、「良いヤツが主人公(孤児ならなお良し)で、悪いヤツが敵で、途中でアクションあって、ロマンスあって、最後にハッピーエンドってストーリーで!」って単純明快に依頼しているのに、フィンクはどう勘違いしているのか、そのアドバイスが全く耳に入っていかない様子。

このズレた感じが、ずっと続いていきます。

頭に何も浮かばないフィンクに反し、「なんて才能のある奴だ」と根拠のない厚い信頼を寄せる社長。

この社長、一癖も二癖もありまして、フィンクに無礼を働いた側近を罵倒し、「代わりに謝らせてくれ」とフィンクの前でひざまずいて靴にキスまでする始末。
…あー、この社長はこうして人をたらしこみ、動かし、自分は何もせずに財を築いた人なんだなー、と思わせる一幕です。いるいる感が凄い。

この社長に飲み込まれ、フィンクは「書けない」などとは口に出来ず、どんどんどんどん追い詰められていくのです。

無題1
(ばーん! でーん! どどーん! と作ってくれりゃーいーんだよ!)


本作は、この社長をはじめ、実に奇天烈な登場人物たちがオモロ怖いです。

フィンクが助けを求める有名作家のメイヒューは、紳士然としていますがアル中の男。
アドバイスをやるよ(キリっ)」と言われ、救われる思いでメイヒューの家に行くと、部屋からとんでもなくヒステリックなメイヒューの怒声が聞こえてきます。
普段は冷静な趣きをしていながら、このギャップの恐ろしさ。
フィンクのみならず、我々観客も「おいおい、冗談だろ…」と閉口します。

フィンクの部屋の隣に長期滞在しているチャーリー(ジョン・グッドマン)は、怪しげなほど気さくな巨漢の保険屋の男。
当初、フィンクは隣の部屋から聞こえてくるチャーリーの笑い声に悩まされ、ホテルマンから苦情を伝えてもらったことから、知り合いとなります。

図々しく部屋に入り込んでくるチャーリーを、初めは完全に煙たがっていたフィンクですが、フィンクの創作への想いをチャーリーが理解する素振りを見せるや、フィンクは話し相手が出来たとばかりにマシンガントークを展開します。

チャーリーの会話を遮ってまで自分の話ばかり始めるフィンクは、「自分勝手」で「空気の読めない」芸術家なのでした。

しかしチャーリーは、そんなフィンクに大変優しく、人懐っこい笑顔を向けるのです。
フィンクはチャーリーを大の親友とまで思い、信頼を寄せるのですが…

終盤で明かされるチャーリーの正体には、全く予想していなかったので驚きました。
あの会話、あの表情、あの優しさ、あの預け物…、瞬間、すべてが脳裏に蘇って背筋がぞぞぞと凍りつきました。

無題3
(クレームつけられたことなんて、ちっとも気にしてないよー!)


さて。

不思議な雰囲気が面白い本作ですが、ホテルでの奇妙な出来事というと、キューブリックの『シャイニング』を思い出します。あちらと比べれば、まだ可愛らしいですが。

『シャイニング』の主人公はタイピングで恐ろしい記述を連ねていましたが、本作の主人公・フィンクは、脚本の出だしからいつまでもタイピングが進みません。

マンハッタンの貧民街。早朝の町のざわめき
タイプできているのは、これだけ。

いくらなんでも進まなさ過ぎ。ある意味、これも呪いなのか。
同じような文筆業の人には、ほんとに「あるある」な映画らしいです。

無題4
…何も思い浮かばない。

無題6
…先に進めない…。

無題4
…ああ、ほんと何も浮かばない。


…浮かばない…


…浮かばない…



…浮かば…


…お?


…おおっ? …おっと、これひょっとして。

無題7
きたきた、浮かんできました!

無題8
3行目が!


って遅いよっ!


フィンクが入り込んでいる迷宮は、私のように、ただ無責任に思いついたことをツラツラ書いているような者には、決して分からない境地なのでしょう。

本作は見ようによっては、とことん深く見ていける映画です。
果たして、どこまでが現実で、どこからが幻想なのか。
チャーリーはフィンクの悪意の具現化なのか。
ハリウッド映画界への痛烈な皮肉、ファシズム批判とも言われています。

本作で一番印象的だったのは、ホテルの壁に掛けてあり、何度もフィンクや私たちの視線に入り込んでいた「海辺の女性」の絵です。これが、非常に効果的にラストにつながります。
それは、見てのお楽しみ。

もう20年くらい前に本作を観賞していたのですが、ラストシーンと、チャーリーの終盤の形相だけは、今でも鮮明に覚えていたほど強烈でした。

これは、はっきり言って傑作!


  

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Posted on 2013/01/09 Wed. 23:59 [edit]

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