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ゼロ・ダーク・サーティ これは、すっきりしない「忠臣蔵」 


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ゼロ・ダーク・サーティ
 (2013年 アメリカ映画)85/100点


これが、すべて実際に遭ったこと…というのが、とてつもなく衝撃的です。(ま、多少脚色はあるでしょうけど)
ビンラディン暗殺までのCIAの緻密な捜索活動が余すところなく描かれていますが、ノンフィクションであるからこそ驚かされることばかり。
・えー! こんな気が強い女性が活躍してたのー! (脚色ありかな)
・えー! こんな少人数で捜索してんのー!?
・えー! こんな拷問やってんのー!?
・えー! こんな自爆テロでCIAが殺されてたのー!?
・えー! こんな捜索技術があるのー!?
・えー! 暗殺作戦の時にヘリが墜落してんのー!?


これらが現実に起きていることだって? …冗談でしょ。リアル「24(トゥエンティーフォー)」じゃないすか。
アメリカって、いろんな意味ですごい。
今から日本が憲法改正して、実戦経験積んで、核配備までしたって…アメリカの水準に追い付くにはもはや手遅れよ…と気持ちがひれ伏してしまうほど、アメリカの軍事作戦に対するレベルの高さ(いい意味でも悪い意味でも)には、驚愕してしまったのです。
 
女性監督キャスリン・ビグローは、前作『ハートロッカー』でもそうであったように、観客と距離感を保つ演出が特徴です。
本作でも、過剰な演出は控え、劇映画になることを極力避け、事実をそのまま映し出すことに奔走しています。
そのため、ビンラディン側の動きやドラマなどは一切なく、ひたすら捜索側の苦悩や焦りや地道な活動のみを描きます。
一部の意見では、アメリカ至上主義に描かれていると言われていますが、なんのなんの。しっかりアメリカ側の犠牲や暗部を描いていて、極めて中立な目で撮られていると思います。
ゆえに、政治的な匂いも消すために、暗殺の強襲作戦に最終決断を下したはずの「オバマ大統領」の姿(彼の決断までの苦悩とか)も一切映し出されることはありません。(ニュース映像のみ)

中東を舞台にした近代戦争映画って、砂っぽい風景が乾燥した空気感を出していて、余計にヒリヒリした緊張感を煽っています。その点は、『アルゴ』にも似ているかな。

いつ、どこで、誰が、誰に殺されるかわからない恐怖。

2時間40分の長い時間、ずっと緊張しっぱなし。
やや冗長な場面もありましたけど、それゆえに、終盤でいよいよビンラディンのアジトに強襲する作戦が開始された時は、鳥肌が立ち、画面に食い入っていました。

主人公は、ジェスカ・チャステイン演じるマヤ。非常に優秀なCIAの分析官です。
これがまた異常なほどの気の強さを見せます。序盤こそ、CIAが秘密裏に行っている拷問に目を背けていますが、中盤、親しくしていた同僚を自爆テロで失くして以降は、正気を失ったかのように、ビンラディン捜索に執念の炎を燃やします。…ここは、脚色部分なのかなあ。そんなやつおらんへんやろーってぐらいの気の強さでしたよ。
・言うこと聞かない上司を恫喝。
・行動の遅い上層部への抗議として、上司の部屋のガラスに、毎日毎日過ぎ去っていく日数をラクガキ。
・同僚にアメリカに帰ることを奨められても、完全拒否。
・ビンラディンがアジトに隠れている確率を100%と断言。(後に遠慮して95%と訂正)


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   (自信満々)


しかも、ジェスカ・チャステインの魅力でしょうけど、やたらかっこいいわ美しいわ。
映画はひたすら長く、小難しい感じなので、長セリフが始まると付いていくのに少々疲れるのですが、マヤが画面に現れると、なんかほっとします。そのおかげで途中で集中力が途切れずにすんだと言えます。
まさに、頼れる姉貴って感じっす。(5つも年下ですけどね!)

さて、映画の冒頭は「拷問」から始まります。
拷問方法がまたリアルで怖い。
映画でよく観る手法とはちょっと異なります。「痛み」ではなく、「苦しみ」を与える感じです。
タオルを顔にかぶせて、水を注ぐ…という、ちょっとどんな感じになるのか正直分かりにくいっちゃ分かりにくいんですけど、それが逆にリアルで怖いです。
次に、小さな箱に閉じ込める…これも、実に分かりづらい!
それだけに、本当にこんなことしてんだなーというリアル感がひしひしと伝わってきて、怖い。アメリカ怖い。薄々知っていたけど、奴らは怖い。もはやデーブスペクターさえ信用ならん。(信用していたわけでもない)

拷問の末、だまし討ちのようなマヤの作戦で、ビンラディンに近い連絡係の名前を聞き出します。
マヤはとにかく日数をかけ、その連絡係の行方を捜していくのでした。
名前は、…ええと、アブ・ア…ええ…(ちょっとwiki見て)アブ・アフメド!
あのお、私の勉強不足なのですが、アルカイダ側の中東の方々の名前が覚えにくいです。
途中で本名が分かっても、途中で名前が変わるし…おまけにCIA側とか強襲部隊の人とか、顔が似ててわかりづらいです!
と、とにかく話に付いていくのに必死でしたよ。

本作で緊張感がずっと続くのは、爆破テロが突発的だからでもあります。
ホテルの爆破シーンが一番ひどかった。
まさに不意打ちで、久しぶりに体がビクっとしました。
それからというもの、常に緊張です。
あーくるよくるよ、これはくるよって感じで終止安心できません。
卑怯っちゃ卑怯な演出なので、ここは賛否両論かもしれませんね。

で、マヤが求めてやまない連絡係の素性が徐々に明らかになっていくのですが、しまいには、その連絡係の携帯電話の電波を捉えられるようになります。
けれど、「なぜ、そんなことができたの?」という説明は不足していたような…見過ごしていたのかな。それとも秘密なのかな。その部分を省かずに説明してほしかったけれど、いつの間にか技術屋の黒人さんが「できたよ! すげーだろ! オレに惚れんなよ!」って笑顔で話していただけでした。

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   (執念)


そんなこんなで、ついに発見した「ビンラディンの隠れ家」と思わしき場所を衛星から監視する内に、マヤはここに間違いないと断言します。
そして、終盤の強襲作戦のシーンが訪れます。
待ちに待ったシーンです。
ここでふと私は、「吉良邸討ち入り」の忠臣蔵の世界を感じてしまいました。
不謹慎ながらも、ふつふつと内面から沸き立つ高揚感を感じてしまったのです。
日本人のDNAがざわつくのでした。
「おのおの方! いざ出陣でござる!」
赤穂浪士ならぬ特殊部隊シールズのメンツが、レーダーに映らないブラックホークという特殊なヘリに乗り、飛び立ちます。
ここからの描写が、またリアルです。
モニター越しに、その瞬間に立ち会っているような気になります。
タイトルにもある通り「ゼロ・ダーク・サーティ(深夜0時30分)」に、明りのないパキスタンの町に降り立つわけですから、とにかく画面が暗い。
隊員たちは暗視スコープをしていますので、我々観客も暗視カメラからの映像を見せられ続けます。
あんなごっついスコープ付けて、よく立ち回れるなあ、プロだなあと妙に感心しきり。

さて、ここから先は、実際に行われた作戦が緻密に描写されていきます。
それがまた信じがたい展開で…。
・仕方ないことだけど、ブラックホークが凄い騒音を立てながらアジトに近づくから、モロバレじゃないかと心配させます。
・前述したように、そのブラックホークが1機墜落したのにはビビりました。
・発砲音等に気付き、周辺住民がわらわらと近づいてくる場面も手に汗握りました。
・無抵抗の女性を射殺したのも、やっぱりかーと思いつつ凍りつきました。
・子供たちは誰一人傷つけていませんが…ほんとかなー。
・けど、子ども達の精神的トラウマはひどいものでしょう。それがまた憎しみの連鎖を作り出すのではないでしょうか。(戦国時代の世界だと、連鎖を起こさないよう敵の大将の子供も殺してしまいますよね)
・ビンラディンの射殺はあっさりな描写。さすがビグロー。観客にサービスしません。本当に彼なのか? と隊員たち以上に我々の方が懐疑的になります。


   無題2
   (子供の犠牲がなかったことが幸いだが…)


これは、ノンフィクションです。
ですから、ラストがどうなるのか我々観客は知っています。
それでも、ここまで緊張感が高まるのは監督の手腕です。

ビンラディンの遺体を映さなかったことで、最低限のルールを守っているように思います。
「忠臣蔵」のようだと書きましたが、決してこれは「痛快な仇討映画」ではありません。
果たしてアメリカが「正義」で、ビンラディン側が「絶対悪」なのか。(無差別テロは絶対悪だけど)
本作は、もちろん単純な勧善徴悪の物語ではありません。
テロ戦争の悲しさ、むなしさ、恐ろしさを描いており、結局鑑賞後に残るのは、何とも言えない苦々しさです。

それは、ラストに流れるマヤの涙にも象徴されているのでした。

   無題


↓詳しい感想はこちら。
報復の末に「ゼロ・ダーク・サーティ」/カゲヒナタのレビュー

↓本作鑑賞後に見ると、興味深いです。
ウサーマ・ビン・ラーディンの殺害


 

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Posted on 2013/02/20 Wed. 11:55 [edit]

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コメント

はじめまして 

タイチさん、はじめまして。

僕は『ゼロ・ダーク・サーティー』を劇場で見たときから、同作品が対テロ戦争支持のプロパガンダや、諸々の事前批評があることを耳にしていましたけども、ビグロー監督は巧く政治色を回避しながら、ドキュメント風の緊張感と臨場感が続く秀逸な軍事サスペンスアクションに仕上げているなぁ、と思いました。

当初は拷問聴取立会いでショックを感じていた主人公が、任務と執念の境目のなかで成長し、任務達成後に帰国便のなかで涙したシーンはおっしゃるとおり、苦々しいですし、テロの時代に生きる人の象徴と思いました。


URL | 泰然 #O94H/Fdo | 2016/12/28 21:25 | edit

泰然 様 

コメントを頂戴し、ありがとうございます。

この過酷なテロとの闘いを見事に映像化していましたね。
ぼんやりと生きている私には、あまりに信じがたい「仕事」だと思えたものです。

あの「涙」は、しかし、複雑な彼女の感情を表していたと思います。

「善」VS「悪」とは、決して割り切れない「何か」を感じました。

URL | タイチ #- | 2016/12/29 20:22 | edit

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