素人目線の映画感想ブログ

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別離 イラン発 法廷劇の傑作。 


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 別離
 (2011年 イラン映画)95/100点


面白い!

素晴らしい!


ちょっと感動しました。イラン映画は恥ずかしながら初めてです。イランの過去作にはいろいろと名作があるようですので、今後チェックしていこうと思いました。

さて、本作。タイトルやイラン映画というイメージから、「地味で真面目で重苦しい人間ドラマ」かと思いましたので、退屈と感じなければいいけどな…とこわごわした気持ちで見始めたものです。
実際、冒頭から中盤までは、イランの中流階級の家庭における離婚問題や介護問題、そして下層階級における労働賃金の安さや子供を抱えての労働の大変さや、イスラム教との関わりなどといった重苦しいテーマの人間ドラマが、イランの生活文化を垣間見せながら展開され、予想通りの映画かな…と思わせます。しかし俄然、映画が面白くなるのは、とある事件が起きてから法廷劇の様相を見せ始める中盤以降。
確かにそれでも暗い雰囲気でドラマは進みますが、ピリピリした生々しい人間関係の緊張感やミステリー風味も加わって、非常に興味深く楽しむことが出来たのです。
どころか!
物語、芝居、演出全てが超一級のレベルの映画です。
第61回ベルリン国際映画祭で金熊賞、女優・男優ともに銀熊賞を獲得し、第84回アカデミー賞では外国語映画賞を受賞しております。

これは、オススメ!

無題9


あらすじは、「ナデル(夫)とシミン(妻)夫婦は、11歳の娘テルメーとテヘランで暮らしている。夫婦は離婚の危機である。ナデルはアルツハイマーを患う父のことが心配でならない。ナデルは父の介護に、敬虔なイスラム教徒であるラジエーを雇う。ある日、ラジエーのいい加減な仕事ぶりに怒ったナデルは、ラジエーを家から押し出す。しかし、その拍子にラジエーは階段に倒れ込み、その夜、妊娠していた胎児を流産してしまう。ラジエーとその夫・ホッジャトは、ナデルが胎児を殺したのだと告訴し、ナデルの裁判が始まる」というお話。

ちょっと複雑な物語に聞こえますね。
確かに登場人物それぞれには、様々な「しがらみ」や「こだわり」が絡まっていて、物語冒頭はその説明の描写に力を入れており、難所かもしれません。
ちょっとまとめますと…


無題
ナデル(夫)
銀行員。中流階級。アルツハイマーの父親を心底大事にしている。むろん娘のテルメーのことも。
理にかなわない事、納得できない事には、頑として首を縦に振らない頑固者。


無題3
シミン(妻)
娘を連れて、情勢の良くないイランを出たいと考えるが、夫に反対されたため離婚を考えている。


無題2
テルメー(ナデルとシミンの娘)
11歳…には、ちょっと見えないけど、中学1年の女の子。聡明な雰囲気。
両親に離婚してほしくないという一心。


無題5
ラジエー(30代女性)
小さな女の子を連れて、ナデル宅でアルツハイマーの父親の介護の仕事を引き受ける。
何をするにもイスラム教の教義に反していないかが、彼女の最大の関心所である。
ナデルに突き飛ばされた事で流産してしまい、夫とともにナデルを訴える。


無題1
ホッジャト(ラジエーの夫)
気性が荒い男。失業しており、金貸しから訴えられている。
彼はとにかく…お金がほしい。


上記の下線部の部分が、物語を複雑にしてしまう要因(こだわり)です。

人は「絆」が必要だと申しますが、時に「絆」が生活を拘束し、苦しめます。
人は「信念」が強い方が良いと申しますが、時に「信念」を通すことは他者の「信念」をゆがめる必要に迫られ、対立を生みます。
人によっては「信心」が何よりの生きる糧になると申しますが、時に「信心」が理不尽な縛りとなることもあります。

ようは…好きに生きようと思っても、必ずそれを遮る反対の想いが存在するということ。
そしてそれは、一方が「善」「正」で、他方が「悪」「誤」とは言い切れないから難しいということ。

本作にも「悪人」はいません。
みんな、自分の生活や家族を守る為に必死なだけです。

昔誰かが言ってました。人類40億人がみんな幸せに生きていくなんてことはありえない。
得をする者がいれば、そのために必ず損をする者が生まれる。
それでも他者を気遣ってばかりじゃいられない。自分が食ってくためには、例えば平気で「嘘」もつく。

本作では、その為に生まれる「嘘」が、さらに事態を混乱に落とし込むのでした。

無題8


前述のように、本作は中盤から法廷劇に変わります。
「ラジエーが流産したのは、果たしてナデルが突き飛ばしたことが原因か。そして、ナデルはラジエーが妊婦であると知っていた上で、突き飛ばしたのか」
これが争いの議題です。

誰かが「嘘」をついています。もちろん、一人とは限りません。
ここからが非常に面白い。
ちょっと、「羅生門(黒澤明)」を思い出します。
この「嘘」で作られた「謎」の行方を我々は見守るのですが、その「嘘」がバレる瞬間のリアルさといったらもう! そうそう、ウソってそんな感じでバレるよね! と既視感を覚えて冷や汗ものです。

役者陣の芝居もすごく良くて。
主演のナデルとシミンの言い争い(夫婦喧嘩)も素晴らしく、完璧な犬食わぬっぷり。
そして、ラジエーの夫が短気過ぎて怖いです。ひたすらリアルです。います、こういう人。何気に素晴らしいキレ芝居だと思います。ハラハラします。気を使わせます。ラジエーが不器用なもんで、さらにハラハラします。夫を怒らせる達人です。見てらんない。
そういう、あるあるな緊迫感にもまた既視感を覚え、非常に息苦しいという見事な人間描写。

また、中東というと砂っぽいイメージばかりでしたが、本作の主人公たちの生活風景は極めて近代的だったので、それもまた勉強になります。
イランの簡素な裁判風景も面白かった。
弁護士とかはいないのです。
仲介人である判事が、双方の事情を聞きながら、時々突っ込んだりして判断するような感じでした。
本作に出てくる判事は、完全に「法」に忠実で、凛とし、ちょっぴり人情も見せるカッコよさもあり、なかなかおいしい役割だったように思います。
それから、イスラム教のコーランへの忠実さもなかなか見ものでした。
「嘘つくな! コーランに誓えんのか!?」
とぶちキレた人でも、相手があっさりと「誓えます」と言うと、「あ、じゃ嘘じゃないんだ」とすぐさま納得します。
「コーランに嘘をつくわけがない」というこの感覚は、とうてい日本人には理解できないものでしょう。

さて、最後にハッキリと言いますが、本作はスッキリとした終わり方をする映画ではありません。

最後の最後まで、しっくりとした終わり方をしません。
観客の想像に任せる映画って賛否あると思いますが、私は結構好きです。
おおお! そこでエンドロールか! という大好きな終わり方でした。すっげーセンスだと思います。痺れました。

それにしても、人間関係のぶつかり合いとは、どこの国でも似たようなものだということですね。
時々、「信念を貫いてやったわい!」と豪語している人がいますけど、「バカヤロー。周りが我慢してあげてんだ、感謝しろ!」と教えてあげたくなることがあります。これ、今度「怒り心党」に投書しようかな。

「こだわり」も何事も、ほどほどが一番だと思います。はい。


無題7


↓こちらの感想がオススメです。
・苦しくて、辛くて、哀しい映画「別離」ネタバレなし感想/カゲヒナタのレビュー 


  

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Posted on 2013/05/14 Tue. 00:22 [edit]

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14

コメント

同じ監督。 

こんばんは。レスをありがとうございました。
調子にのってコメントを書かせてやってくださいませ。すみません。
わー、これも見逃したのだった!とお陰で思い出しました。
観なくちゃ!と思わせていただくのは、とーってもたのしいです♪

イランの映画、わたしもメジャー作品を1本観たのみですがコレです。
http://www.cinematoday.jp/movie/T0009035
テイストは似ているように思います。と思ったら、同じ監督でした。

ジャッキー・コーガンに出ているオバマにも関係するのですが、
古いドラマで「ザ・ホワイトハウス」にすっかりハマっております。
「ソーシャル・ネットワーク」や「マネー・ボール」を書いたアーロン・
ソーキンが書いているのですが、その彼が書いているドラマを
今WOWOWでやっていまして、ジャーナリズムのドラマなので
こちらもやや政治がらみです。目下これがたのしみです。

アメリカに対する感情は複雑ですが、アカデミー賞にオバマ夫人が
お出ましで、かつ「アルゴ」というのにはややげんなりしました。

裏切りのサーカスはよくわからないけどいいわーと映画館で観ました。
WOWOWで今月やっているので、では2度目視聴といたします。ぺこり。
長々と、失礼しましたm(_ _)m

URL | あ き ら #dI6DO0LA | 2013/05/14 01:16 | edit

あきら様 

コメントありがとうございます。

「彼女が消えた浜辺」ですか。
あらすじ、面白そうですね。チェックしてみます。
ありがとうございます!

「ザ・ホワイトハウス」も興味があります。
ちょっとドラマにハマってみようかなと思っている所でして。
やっぱり映画の尺ではできない細やかな描写で、登場人物たちに
どっぷり感情移入できるところが、ドラマの良さですな。

「アルゴ」は劇場で見て、面白かったですが、
アカデミー賞はやや意外でした。
他にあんだけの強豪がありながら…といった感じで。

またのお越しを!
今度こちらからもお邪魔いたします。

URL | タイチ #- | 2013/05/14 10:36 | edit

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