素人目線の映画感想ブログ

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ヴァンパイア 岩井俊二らしい「ヴァンパイア」 


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 ヴァンパイア
 (2011年 日本・カナダ・アメリカ合作)79/100点


大人の事情のうんぬんは分かりませんが、岩井俊二監督が表舞台からぷつりと消えたかと思いきや、いつの間にか地元・福岡では上映されなかったほどの、単館系の新作を持ってひっそりと戻っていたのですね。
学生時代、「スワロウテイル」にハマって以来、結構な数の岩井俊二作品を見てきました。
驚くほどの映像美と繊細な演出、かと思いきや鮮烈なバイオレンスも見せつけながら、どこか学生映画のような青々しさも匂わせて…。その細やかさと粗さを、ぎゅうっと握りつぶしたような作風が魅力でした…。

本作でも、その空気感は健在。良くも悪くも、岩井俊二の映画だったのです。

あらすじは、「人間の血液を求める自称ヴァンパイアのサイモン(ケヴィン・ゼガーズ)は、自殺願望を抱えた女性の血液を抜き取っていた…」というお話。

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物語には、あまり大きな波はありません。派手さもありません。しかし、稀有な程の映像美の上に、腫れものを扱うように繊細で丁寧な演出が続きますので、個人的には退屈を感じることはありませんでした。もちろん、岩井俊二の映画に対するひいき目があり、岩井俊二の映画を知らない人に自信を持って薦められるかというと、実はちょっと躊躇する気もします。

以下にその理由を述べてまいりましょう。

まず本作は、「ヴァンパイア系映画」といえるのかどうかが、怪しいです。
何しろ、主人公・サイモンが果たしてホントにヴァンパイアなのかどうか、その描写は極めて希薄だからです。
ちなみに、ヴァンパイアの常識的な特徴はというと…
・血を欲する。
・八重歯が鋭利にとがっている。
・太陽の光を嫌う。
・十字架を恐れる。
・ニンニクだめ。
・コウモリに変身する。
・超長生き。
・「~ざます」と言う。(古っ!)


等がありますが、ほぼ、どれもサイモンに当てはまる様子が見られません。
冒頭にこそ血を飲み干す描写がありますが、なぜかその後吐き出す始末。
正直、「ヴァンパイア」というよりも、ただの「変人」として捉えるべきなのかもしれません。
つまりは、他人と交われない「異質な」主人公の苦悩と救済の物語なのです。

また、岩井俊二の映画には、これまでにもアブノーマルさがありました。
本作でも、サイモンは「自殺ほう助」という倫理違反を冒しています。
ネット上の自殺サイトで、自殺を望んでいる女性と出会い、『一緒に死のう』とだまして連れ出し、同意を得た上で、極めて手際のよい施術で血を抜き取る事で死に至らしめます。
しかし、たとえ相手の願望であったとしても、サイモンの行為は決して許されるものではありません。少なくとも人間社会では。

前述のように、物語自体に波はなく、やたらと静かな描写が続きます。正直、サイモンの葛藤や心の変化、本質、周囲の人物のサイモンへの想いなどが描き切れているのかなあ…という疑問符も浮かびます。「それは観た人の印象次第」というような本作のスタンスには、当然賛否があると思うのです。
しかも、テンポがゆったりな割に、上映時間が短くない点も受け入れられない人はいるでしょう。

退屈じゃねーか。芸術分かってる気になってんじゃねーよ…と本作をお薦めした相手に、このような感情が見え隠れしそうで怖いです…。ゆえに、とても人にはお薦めしにくい映画です。

それと、唐突で極めて残虐なバイオレンスシーンも一か所あります。サイモンが直接手をくだしていないとはいえ、かなり倫理違反な描写で嫌悪感を感じる人もいることでしょう。

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しかし。

捨てきれない何かが本作にあることも確かだと思います。
それは、終盤に訪れます。
サイモンにようやく訪れた一時の安らぎの後に、突然飛び込んでくる「ある光景」
無音の中、サイモンの目の前に起きた信じがたい光景。
おおおおっ! さすが岩井俊二じゃんか! と一瞬の身ぶるいがありました。
詳しくは書きませんが、これまで頑なになりを潜めていたカタルシスがふんだんにぶちまけられたこの場面は、本当に鮮烈です。
これだけ見ると、本当に良い映画だなーと思えてくるのです。

その他、登場人物の感情を表しているように、白い風船を上手に使っています。役者陣の表情も、非常に印象的で良い抜擢だと思います。それから、音楽は岩井俊二作曲らしいのですが、結構耳に残ります。

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意味わからん、暗いやん。と放り投げるには、もったいない要素がたくさんあると思います。

やっぱ岩井俊二、やるじゃん。と正直思ったものです。

それから、蒼井優も出てます。蒼井優じゃないと駄目かなあと思う役柄ではあるものの…外国人だらけのキャスティングの中で一人日本人ですから、うまい具合にミステリアス加減が出てたかな。

時間軸を戻したラストシーンも好きです。ただし、やはり抽象的なので「だから何?」と思わせます。もうちっと意味をはっきりさせたらいいのだけれど。(ラストシーンの女性は、実は白い風船を身に付けていたあの女性ではないのか…? という凄い考察もあるようですね。それくらいの謎を、もっとはっきりと提示していたら面白かったように思いますが…)

うーん。
抽象的な映画の感想は素人目線には正直難しいですが、岩井俊二の映画を一度でも好きだと思った人にならば、結構お薦めできる不思議な作品です。

今日は、そんなところで。


  

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Posted on 2013/06/21 Fri. 00:38 [edit]

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21

コメント

私も最近観たんです 

こんにちは。
私もこの不思議な作品を最近観たところでした。
冒頭のシーンから洋画でありながら日本人が作った作品なのを感じられました。
岩井俊二監督作は初めてだったんですが、こういう綺麗なお伽噺系なんですねー。
役者さんたちもいいですね、自然な感じが。
タイトルはずばり「ヴァンパイア」ですが、サイモンは違うんじゃないかな-、と。
中盤に出てくるヴァンパイアの集いがいかにもちょっと怪しい「なりきりの集い」みたいだったですし。

>時間軸を戻したラストシーンも好きです。ただし、やはり抽象的で
ラストシーンについては、その意味が理解できなくて、もう一度観なくちゃと思ってたんですがレンタルの期限がきて返してしまいました。もう一度観ることができたらレビュー上げたいと思ってます。

URL | momorex #- | 2013/06/21 13:01 | edit

Re: 私も最近観たんです 

momoさん

コメントありがとうございます!
お久しぶりですね。最近は、ちょっと激務で、
なかなか更新できなくてつらいです。

「ヴァンパイア」は、まさに、おとぎ話ですね。
意味があるようなないような…風船のようにふわりと掴みどころのない
物語です。けど、実は結構好きでした。
音楽が、なんか邦画っぽく、いわゆる「セカイ系」を表していました。

岩井俊二は、「スワロウテイル」がお薦めですよ。
まー、良い演出してます。あの頃は10年に1人の天才なんて言われてました。
機会があればぜひ。

URL | タイチ #- | 2013/06/22 12:51 | edit

 

はじめまして。今日ヴァンパイアを初めて視てとてもいい映画だと思いましたが、ネット上で酷評ばかりされていたのでこのブログを拝見して安心しました。
静かに進行するストーリー、心落ち着く音楽、そこに挿入される不釣り合いな残虐さとアイロニーが絶妙なエッセンスになっていて全く退屈しませんでした。
スワロウテイルは未見なので今度視てみようと思います。

URL | しー #- | 2016/03/06 14:22 | edit

しー様 

コメントを頂き、ありがとうございます。

岩井俊二は私の学生時代は大ブームでして、当時はハマって見てました。

「スワロウテイル」は学生映画みたいなノリで、青臭いんですけど、
映像演出に相当なパワーを感じると思います。
へー、こんな映画アリなんだーという。
是非どうぞ!

URL | タイチ #- | 2016/03/07 21:28 | edit

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