素人目線の映画感想ブログ

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風立ちぬ 宮崎駿は、まだまだ本気だ。 


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 風立ちぬ
 (2013年 日本映画)95/100点


映画鑑賞前に、緊張してしまったのは初めてかもしれません。
思い起こせば公開一ヶ月前、テーマソング・荒井由実の「ひこうき雲」を聞いた矢先に心を掴まれ、この曲がエンディングに流れるなら、それだけで面白いに決まっていると、瞬間、確信してしまっていました。
そして、少しずつ明かされる作品の詳細と主人公の声優が「庵野秀明」という驚異の事実。
公開前に見た、珠玉すぎる4分間の予告編。
試写を見た著名なクリエイターたちの絶賛の声。
「風立ちぬ」への期待値は否応なく高まり、高まり過ぎて、かえって恐ろしくなったのでした。
これで、面白くなかったらどうしよう…。
仕事のトラブルを早々に処理し、1時間前に劇場に入り、トイレに2回行き、万全の鑑賞体制を整えて刻一刻と迫る上映時間を待ちました。
ほんと、緊張しました。

結果。

試写会での一般客の感想は、賛否両論と聞きます。
それには納得がいきました。
・地味な物語性。
・またもや戦争が描けていない。
・全てのエピソードが中途半端。
・繰り返される夢のくどさ。
・エキストラの希薄な存在感。
・庵野秀明のセリフの棒読み。(後で、反論しますが)
・戦争の道具を作っている主人公の葛藤のなさ。

否定的な気持ちで見れば、いくらでも出てくる粗があります。
それは確かです。
それでも、あえて言いたい。声を大にして言いたい。

本作「風立ちぬ」は、恐ろしいほどの傑作です。
信じがたいほどのクオリティです。
ベクトルは全く違いますが、ナウシカと並ぶ宮崎駿の最高傑作とさえ思えます。


わかります。見る人によって、きっと感想はバラバラでしょう。
こんなのジブリアニメとは認めない! って声も聞こえてきそうです。
けれど、私には、間違いなく激しい激しい感激が巻き起こったのです。
このブログを読まれている方の中にも、「本作とは全く合わない人」もいるでしょうけれど、それでも言いたい。
こんな凄い映画は滅多にあるもんじゃない!

風8


あらすじは、「1920年代、関東大震災や戦争の足音が聞こえていた混迷の日本を舞台に、ゼロ戦の開発者・堀越二郎と、その妻・里見菜穂子の、懸命に、大切に、日々を生き抜こうとする姿を描く。」というお話。

いやー、まいった。
あまりにも感動して、帰りの車の運転が随分ふらふらになってしまって危なかったほどでした。
さあ、本日から様々な感想がネット上に上がっていくことでしょう。
酷評もあるでしょう。
絶賛もあるでしょう。
まさに、なんと表現すべきか…ええと…、そうだ! まさにアベノミクスのような! (…違うなあ)

何度も申し上げますが、私にはすっげー良かったんす。
キャラクターが好みだったと言われれば、それまでです。
非常に折り目正しい主人公が、本当に有能できちんとしていて見ていて気持ちが良いのです。「もののけ姫」のアシタカが好きな人だったらイケると思います。

庵野秀明と宮崎駿のタッグに興奮しただけだと言われれば、それまでです。
確かに興奮しました。公開直前の特番で、馴れ合いと言ってもいいくらいの二人の蜜月ぶりにワクワクしないなんてことはないでしょう。あの様子を苦々しく見るなんて奴は、宮崎吾郎だけだ! (たぶん)

劇場の迫力に気圧されただけだと言われれば、それまでです。かつて「ブラックスワン」の時、散々人に勧めまくった結果、DVDで鑑賞した人から「そこまでじゃない」と言われたことがあります。ただ、確かに劇場で見た方がいいです。風や地鳴りの音の凄さはやはり劇場ならでは。今回、そういったSEは人間の口で表現されていますが、ここも賛否両論か。私は一切気になりませんでしたが。というか、むしろ効果的とさえ思いましたよ。特に余震のたびに唸り出す音は、何とも言えない「怖さ」でした。

物語は、確かに地味かもしれません。基本路線は、少年時代から飛行機に夢を馳せていた主人公・堀越二郎が、青年となり、実際に飛行機の制作に取り組むというものです。要所要所で派手なシーンが入り込みますが、それは大体が夢の中の話なので、物語自体に大きな波を打ちません。
とはいっても、この演出の力強さは一体なんなんでしょうか。
熟練の域というには表現が足りない。誤解を恐れずに言えば、この「演出力」は「世界一」かもしれないとさえ思います。
どうして、宮崎駿はいまだ新作ごとに、ぎらついた野心と狂気を見せ、進化を求め続けるのでしょう。
風の吹き方ひとつ、震えてしまうくらいの迫力があります。
人の細かな動きに、いちいちこだわりが練り込まれているのがよくわかります。
人の表情は、愛嬌と計略を帯びて、これでもかと魅力的です。(特にカプローニ)
航空機の疾走感も半端ないです。(飛んでる姿を目にするだけで、なぜかウルッとくるのはなぜ?)

これらの化け物級の演出がほぼ全編に渡って散りばめられているので、物語の地味さなど消し飛んでしまうのでした。

風


さて、ここで、庵野秀明の芝居について言及します。
初登場シーンはビックリした!
キャラクターの顔と合わな過ぎです! 間違いなくミスキャストだと思わせました。庵野秀明の顔が完全に頭に浮かびましたから。少年時代の描写では、ぴったりの子供の声だったからなおさらです。中学時代、突然クラスメイトが声変わりしたみたいな衝撃。
うわー、もしかして…失敗? そう思った瞬間でした。
けどね!
またもびっくり! 終盤でびっくりなのです! 
なるほどー! 棒読みしてたのはこのためかー! 狙いかー! 計算かー! さすが、したたかなオッサン達やでー! (褒めてます)
最後には、「この役は庵野秀明以外ではダメだったのだ」と思わせる見事なキャラクターとの同化。庵野の芝居にグッとくるとは、まさか予想もしなかった。
この庵野秀明の芝居を肯定的に捉えられるかどうかで、全く作品の感想は変わるでしょう。否定的に見れば、そりゃあ、「棒読み」ですから、つらいことでしょう。だって役者じゃないもの。そこの狙いを感じられるか感じられないか。もちろん、人それぞれの「好み」の問題だと思いますよ…けど、「棒読みだ」「酷い」と言っている人たちに、ちょっと反論したい気持ちもあります。そうじゃないじゃん。そこが狙いだったじゃんって。終盤でそれがわかるじゃんって! あの朴訥さ! 純粋さ! 健気さ! あの「ありがとう」は! …素人だからこその味わいじゃんって。でも、それを狙ってないようで、しっかり計算してるんだから、したたかやでー!
逆に、周りの脇役の方々の芝居は本物です。「最近のジブリは有名俳優ばっかり使ってダメだ」という意見もありますが、本作では有名俳優さん達がとても良いです。野村萬斎、西島秀俊、國村隼、西村雅彦、大竹しのぶ… 存在感をばっちりと醸して見事に演じきっているため、さらに庵野秀明の特異性を際立たせます。物語では、脇役達が堀越二郎を支えていますが、お芝居では、名優たちが庵野秀明を一生懸命に支えているかのようでした。

風6


堀越二郎の人物描写にも賛否の渦が見えます。
二郎は、頻繁に「美しい」という言葉をこぼします。
サバの骨の曲線にまで、「なんて美しい」と魅入られます。
戦争の道具を作った実際の堀越二郎は、「ただ美しいものを作りたかった」と呟いたと言います。
本作では、堀越二郎に戦争兵器の開発に対する葛藤は全く描かれていません。「機関銃を乗せなきゃ、もっと機体を軽くできるのになあ」と皮肉でもなく、ただ純粋に述べる程度です。ここも評価の分かれどころです。「人殺しの片棒だ」「葛藤が全然描けていない」という意見が多くありそうです。しかし、もともとこの映画に「戦争はダメ」とか「仕方なかった」とか、そういった政治的な思想は関係ないのです。ただ純粋に、二郎の「美しい航空機への憧れ」を描いているだけです。理屈を抜いて、それを受けとめられるかどうか。
私は、二郎のキャラクターが批判されていることが怪訝に思えて仕方ありません。まさか、アニメの主人公は精錬潔白でないといけないとでもいうのでしょうか。
「飛行機は呪われた夢」だと劇中でもハッキリと言っています。そう、二郎は悪夢に身を売っているのです。それが彼の罪だと言うならば、終盤できちんと報いも描写されているではありませんか。
例えば、二郎は自分勝手にも、療養所に入院させるべき妻を、自分の身近に留め置きます。責める人々に対し、「一日一日を大切に生きるためだ」と反論しながら。妻はそんな彼の「美しさへのこだわり」の為に、犠牲になってしまったのです。
ただ。
妻自身は「美しいまま」終われたことに幸せを感じているのかもしれません。おおよそ他人が口をはさめることではないのです。「もののけ姫」のジゴ坊ならこう評するでしょう。「やれやれ、バカ(純粋)には勝てん」

風5


さあ、そろそろ終わろう。

ラストシーンは、もちろんここでは書きません。
ただ、ひとつだけ。
「ひこうき雲」は反則なのかも。
ラストシーンは、宮崎駿らしく、「泣かせよう」という感傷的な終わり方ではありませんでしたが、「ひこうき雲」の爆発力は、案の定、殺人的でした。不思議な魔力があります。もうパブロフの犬状態で、この曲を聴くと涙が出るようになってしまいます。
エンディングの「ひこうき雲」があったために、こんなにも映画の全てが「美しく」まとまっているように思わされ、感動できただけじゃないのかと言われれば、ま、実はそうなのかもしれません。

とにかく。
凄い映画に出会った。心から、そう思っています。

風4


さて。最後にひとつ苦言がありまして。
「(反転で)『鑑賞後に読んでください』と書かれた小さな手紙を劇場窓口で渡されました。鑑賞後、感激に震えながらこの手紙をワクワクして開いたところ…「映画の感想をくださいね。鈴木敏夫」という名前が…。瞬間、悪名高い鈴木さんの顔が脳裏に浮かび、危うく興ざめかけてしまいました。本作の4分間予告では、他の映画の余韻を奪ったと批判を受けた鈴木さんですが、最後は、な、なんと、『風立ちぬ』の余韻まで奪いよったで!

さてさて。

巷では、「ひょっとして本編より素晴らしいのでは」と言われていた4分間の予告編を下部に。





  


↓オーディオコメンタリーで、庵野監督がナウシカ全シーンを解説してます。
数年後、まさかその声で、「風立ちぬ」の主人公をやるとはねえ。↓
 
  

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Posted on 2013/07/21 Sun. 03:54 [edit]

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 |  # | 2013/08/12 01:22 | edit

tarte様 


コメントありがとうございました。
共感して頂いて、ほんとに光栄です。

風立ちぬ、面白かったでしょー。
けど、昔からのジブリファンとか、細かな辻褄を気にする人には、評価がいまいちのようです。
賛否両論の激しい映画だろうなーというのは、鑑賞しながら感じました。

理由の一つは、戦争が劇中で全く描かれていない点。
もう一つは、堀越二郎に葛藤が見えない点が、よく批判されてます。

けど、私が思うに、本作のテーマは「戦争」ではなく、
ひたすら「美しいもの」を求めた男の話に過ぎないのだから、
あえて戦闘シーンも葛藤も描いていないのだと思います。意図的に、です。
個人的に、映画を倫理的に見ようとするのは、視野が狭いのじゃないかと思います。
ましてや、主人公に倫理観を求めるのなんて…ナンセンスとさえ思います。

映画の表面上では、「いい人」っぽく描いているため、誤解されているようですが、
宮崎駿も言っている通り、堀越二郎は、実は「変人(世間の常識で見たら)」なのです。
恐らく、兵器を作っている「葛藤」などなく、ひたすら「美しいもの」を
追い求めるだけの人です。
主人公が「常識的であるべき」なんてことは、絶対にありません。
もちろん、そのために、妻の死期が早まったのかもしれません。
けれど、短くても「美しい時」を、「最も愛する人」と共有できることが、
あの映画の中で「善」として描かれているなら、
素直にそのことに感動したら良いと思います。
映画の中で、二郎と妻が、「これで良い」と感じているなら、
それが、ただ一つの「真実」なのだと思います。

庵野監督の声も、私、大好きですねー。
あれが、有名イケメン俳優の声だったら…あそこまで感動的だったかなあ。
序盤が、感情の波のない、機械的な「棒読み」だったからこそ、
終盤で、一気に感情が込められた、あの「ありがとう」のセリフがいきてると思うのです。
私は、庵野監督の声だったからこそ、あそこまで感動したのだと確信してます。

tarteさんは、素敵な感性を持っていらして、素晴らしいです。
いたらない文章で恐縮ですが、
今後も、何か気づいたことがありましたら、ぜひコメントください。
よろしくお願いします。 

URL | タイチ #- | 2013/08/13 01:07 | edit

4回見に行きました! 

こんにちは!僕も風立ちぬは最高傑作だと思いました!最高でしたね!

URL | カズ #- | 2013/10/15 13:52 | edit

カズ様 

またまたコメントありがとうございます。

4回ですか!
すごいですねー。
私は2回です。
2回とも隣のおっさんが、退屈らしくてソワソワしてて、
気が散りました。
賛否両論なんですよねー…。

URL | タイチ #- | 2013/10/17 19:16 | edit

宮崎駿の汚点 

まず、ポスターを見た時点で駄作を確信しました。96戦の形が小学生のお絵描きレベル。アニメの中でもとにかく飛行機の描写が酷過ぎる。

ストーリーも無茶苦茶。宮崎駿さんの思い付きで進んでいく。夢の中での飛行とか何の意味があるんでしょう?魚の目になる意味は?

千とぬ千尋までの宮崎作品は文字通り国宝だと思いますが、ハウル以降は日本の恥だと思います。

URL | hirocbrs #/.OuxNPQ | 2013/11/23 14:18 | edit

hirocbrs 様 

コメントありがとうございます。

あまりにも抽象的、感覚的、と言いますか、
思いつきで進むストーリー…という意見はごもっともだと思います。

ただ、その粗さ・お粗末さに、たぎる「勢い」を見いだせる場合もありまして。
なんだ、まだ若いなあと。

それゆえに、引退はショックでありました。

URL | タイチ #- | 2013/11/27 11:35 | edit

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