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愛、アムール 老いは、静かに訪れた。 


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 愛、アムール
 (2012年 オーストリア・フランス・ドイツ合作)80/100点


「世の中は生きるに値する。」
という宮崎駿の引退会見での発言が称賛されています。
美しい言葉だ、励まされる、と世間は言います。
しかし、そこに違和感を感じずにはいられません。
まるで人生礼賛のように思われているようですが、よーく言葉を噛みしめてみると、これほどネガティブを全面に出した言葉もないものだと思います。
この言葉の裏側には、意識的にか無意識にか、「人生は、生きるに値しないと思えるほど過酷だが」という、宮崎駿らしい皮肉のメッセージが隠されていると思うのです。
ゆえに、常々「子供たちのために」と言っている宮崎駿の想いは、実は子供たちには「過酷すぎて(難しすぎて)」伝わりにくいということは、これまでの作品からも分かる通りです。
同じように。
本作「愛・アムール」のキャッチコピーは、「人生はかくも長く、素晴らしい。」
これまた人生賛歌のようなキャッチコピーで、美しい人生の物語のように思わせますが…映画の内容は、真逆にも実に過酷なものでした。
油断して鑑賞すると、えらい目に遭いますよ。

   無題


「白いリボン」に続き、本作でも「カンヌ映画祭 パルムドール(最高賞)」を獲得した巨匠ミヒャエル・ハネケ監督。彼は、現実の過酷さから目を背けることを徹底して嫌って本作に取り組んでいるかのように、丁寧に、ある意味大変に意地悪く、こと細かに、「現実の過酷」を浮き彫りにします。

そのテーマは、「老老介護」
ちょっと、「長門裕之」と「南田洋子」の話を思い出しました。かなり似ている気がします。ある日を境に、知的で優雅であった妻が痴呆になり衰弱していくのです。その妻を、夫は周りの反対に耳を貸さずに自分で献身的に介護に尽くすのでした。

映画は実に物静かに進みます。「白いリボン」の時には、心の奥底にまで手を突っ込んで「人の悪意」を掻きだしてみせ、見る者を実に不快で複雑な気持ちにさせていたハネケ監督ですが、今回は、どこにでもある「普遍な日常」を描くように、極めて「淡々」としています。まるで、「特別なことではないのだから」と言わんばかりです。
「そう、人生は当然過酷なのだから」と。澄まし顔で。…意地悪いですな。
ゆえに。
本作に対し、何か物足りなさを感じる人がいるかもしれません。
起きている出来事は、息を飲むほどに過酷ですけど、ハネケ監督によって、まるでただの「日常」を見ているかのように感覚を狂わされるものだから。

主人公であるジョルジュとアンヌは二人とも音楽家です。家庭は裕福だと思います。アパートメントが素敵な間取りでした。玄関に入ってから部屋に入るまでのエントランスが広くて、落ち着いた空間だと思いました。とても印象に残りました。それから書斎の椅子の配置とか、紅茶カップのデザインとか、いちいち気持ちが良かったです。
何不自由ない暮らしをしていた二人。二人でコンサートに出かけたり、仲睦まじく、ささやかに暮らしている二人。しかし、次第に「老い」の足音が聞こえ始めるのです。

   無題2


妻・アンヌが突然痴呆に陥る場面からして唐突でいて…静かです。
椅子に座ったかと思いきや…空を見つめるばかりなのでした。
序盤では、まだ回復してみたり、しっかりと会話も出来たりするのですが、次第に体のマヒが進み、会話もままならなくなっていきます。意味不明な言葉を発したり、失禁してしまったり…。アンヌ自身、屈辱に体を震わせるのですが、それ以上に、理知的だった母の見たこともない老いた姿に、娘のエヴァはたまらず涙を流します。
アンヌを施設に入れよう、別の医師に見せよう、何とかして治そうと、焦燥感丸出しでジョルジュを責める娘・エヴァの焦りの気持ちは分かりますが、この夫婦には、すでに実の娘でさえ入り込めないほどの特別な領域が出来上がっていたのでした。
周りの声に耳を貸さず、自分ひとりで介護をしようと心に決めた夫・ジョルジュは、ピアノ講師でもあり、気高かった妻のあらぬ姿を人目にさらしたくはなかったのではないでしょうか。娘の言葉をはねのけるのも、乱暴気味でデリカシーのない介護士を解雇するのも、まさにアンヌ自身の気持ちを代弁したのかもしれません。
ただ…
もちろん、全ては夫ジョルジュの独りよがりに過ぎなかった可能性も存分に残されていると思います。
そして最後の選択は、まさに独善の極みと言えるかもしれません。
妻も望んでいたことかもしれない。しかし、そうでないかもしれない。それは、誰にも分かりません。
が。
私は思いたいです。きっと夫・ジョルジュには妻の気持ちが分かったのだと。「現実的」な映画とはいえ、映画なのですから、せめてそれくらいのファンタジーがあっても良いと思いますが…。

それにしても、夫・ジョルジュも実に淡々としていて、いいです。
時折苛立ちを隠せない時もありますが、感傷的に陥るでもなく、不満や気持ちを口に出すでもなく、基本的に静かです。静かに妻を見つめています。静かに、妻を抱えます。静かに、妻の願いを聞いてあげます。静かに、妻のそばに佇んでいます。静かに、妻を抱きしめます。静かに、妻に昔話を聞かせます。静かに。本当に。何事も変わったことのないように。

   無題4


終盤に、二人で出かける不思議な場面。
二人は「永遠」を手にしたのでしょうか。
夫の行方は、映画では語られませんでした。

この結末に、「美しさ」を見出すか、それとも「悲しさ」ばかりを見出すか。


果たして。


 

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Posted on 2013/09/24 Tue. 22:16 [edit]

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