素人目線の映画感想ブログ

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リンカーン 犠牲のない改革はありえないのか。 


 リンカーン
 リンカーン
 (2012年 アメリカ映画)80/100点


奇しくも、先日「特定秘密保護法案」が衆議院で強行採決されました。
世間では、「世紀の悪法だ」「戦前に逆戻りだ」「戦争の準備に入った」と反対派が多いようです。
一方、この法案の賛成派の意見を聞いてみると、「この法案がないとアメリカから重要情報を得られない」「日本でのスパイ活動を防止するために必要だ」と、こちらもなかなか真に迫っています。

もちろん、この場で政治的なお話はあまりしたくありませんが。

どちらの意見が正しいのか、極論を言うと、「結果論」でしか分からないと思っています。
賛成派も反対派も、どちらも一理あるからです。
「どちらかが100%正しい」なんてことは、恐らくありえないでしょう。
よりメリットが多く、よりデメリットが少ない方が正しいということになりますが、それは結局、政治の素人にとってはなおさらのこと、「結果論」でしか分からないのだ。…と、そう思います。

さて。
本作で取り上げられている法案(というか憲法改正の話ですが)は、「アメリカ合衆国憲法 修正第13条」というもの。
つまりは、「黒人奴隷制度の廃止法案」です。

こちらは、大変分かりやすいですね!

なぜならば。
「黒人奴隷、ダメ、絶対」ということは、今では当たり前の常識的感覚なのだから、映画を見る側としては、「黒人奴隷制の廃止派」であるリンカーン側(共和党・北軍)を「正義」、反対する民主党側・南軍側を「悪者」と、はっきり区別できるわけです。ゆえに本作は、小難しい物語のように捉えられている向きもありますが、目的成立までのハラハラと、ラストでの達成の爽快感もあって、「単純娯楽」として鑑賞する事も出来ると思います。
実際の政治も、これくらい、「善・悪」がはっきりしているならいいんですけど…。

しかし。

実は当時の人たちの感覚としては、「黒人奴隷制の廃止」は、当然に「善」と「悪」に分けられる問題…はなかったのかもしれない、と個人的に思うのです。
「奴隷制維持」を望み、そのために南北戦争を続けた南軍の人たちは、「奴隷制」により「農業」を維持しているという事情がありました。また、「奴隷制」そのものを否定しながらも、一気に黒人を解放した後に巻き起こる混乱を心配し、慎重に判断しようとする人もいました。
いつの時代にも、その時代ならではの「常識」があります。今の感覚では「絶対悪」でも、当時の感覚からすれば、容易に判断できるものではなかったのかもしれないのです。
ゆえに。
今では偉業として、「絶対正義」として語られるリンカーンの「奴隷制廃止」は、当時はまさに、近年の日本の国会のように、賛否両論の大論争を巻き起こしていたことでしょう。本作はまさに、その政治の大混戦を描き出すのです。

そして本作は、リンカーンが、この法案成立のために実行した「政治的手法」に着目しています。それは、本当に「最善の手法」であったのかという点を、淡々と、それでいて正直にありのままに浮かび上がらせるのです。

「娯楽作」として見れる、とは言ってみたものの…渋みの濃い、実に大人の映画です。
おまけに。
スティーブン・スピルバーグ監督作にしては、いつになく静かな描写が続きます。
人によっては、「退屈かも…」となる可能性は大です。
実は、私も中盤まで眠気を抑え、「勉強になるし」と自分を鼓舞して鑑賞していました。
南北戦争が舞台ですが、激しい戦闘シーンは冒頭にわずかにあるのみ。後は、ほとんどが会話による政治劇です。
ただ。
リンカーンを演じるダニエル・デイ・ルイスや、スティーブンスを演じるトミーリー・ジョーンズの実直な芝居は大変に引き込まれます。激情的でなく、心の内にたぎる熱い熱情を、じわりと滲ませる重みのある姿は、実に丁寧で、見応えがあります。

無題


さて。

リンカーンは、「修正第13条」を成立させるために、一体どのような手を施したのか。
成立を阻む困難な課題は、以下の2点。これが、物語の軸です。

1:成立させるためには、民主党(いわゆる野党)からも20票の賛成票が必要。
あの手この手で20票をかき集める側近・部下の暗躍。失職間近の民主党議員に、就職の斡旋をちらつかせることで、味方に付けようとします。時にリンカーン自ら動きます。そして、リンカーンと反目する同じ共和党内の議員・スティーブンスも、百戦錬磨の交渉力を見せ付けます。

2:南北戦争が平和的に解決しては、「奴隷制維持」を目指す南軍に譲歩せねばならず、「修正第13条」が成立しない。
これが、本作最大の注目点です。
厄介なことに、戦争を容易に終わらせるわけにはいかないのです。しかし、戦争が長引けば長引くほど、当然「犠牲者」は増えていきます。リンカーンは、理想の実現・人類の発展に「犠牲は仕方ない」という発言さえします。しかし、自分の息子が兵隊に志願してしまう大いなる「葛藤」も抱えています。実はリンカーンは、息子が戦争に行かないよう、頑なに拒否していました。「身勝手」な話です。

これは、リンカーンの「罪」の部分です。

今の時代から見れば、容易に和平を受け入れなかったリンカーンの政治的判断は、「仕方ない」「妥当」だと断言できるかもしれませんが、あくまでこれも「結果論」に過ぎません。
当時、それによって「犠牲」になった人々には、「正義の為だから」と割り切れるものではなかったはず。リンカーンの判断を、激しく非難した人も多かったのではないでしょうか。リンカーン自身、物語終盤で地獄のような戦地に赴き、無数の戦死者を目の当たりにしたことで、憔悴し、うなだれるのです。

無題2


そして。

リンカーンは、暗殺されます。

それは、リンカーンへの「罰」だったのでしょうか。

本作では、リンカーンの「影の部分」を、ねっとりと描写しているわけではありませんが、「黒人奴隷制廃止のために、戦死者の数を増やした」という事実は、本当に仕方がなかったといえるのか。他の方法はありえなかったのか。「正義の戦争」を胡散臭く感じさせる意図が、リンカーンの暗く沈んだ横顔から垣間見えるような気がするのでした。


  

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Posted on 2013/11/28 Thu. 22:16 [edit]

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コメント

初めまして。 

素敵なブログですね!
私は、映画に関するイベントをしています。
よかったら、参加してみてくださいね。
http://yaplog.jp/eigatalkcafe/archive/17

URL | MIHO-MIHO #- | 2013/12/01 00:27 | edit

MIHO-MIHO 様 

コメントありがとうございます。
早速ブログ拝見いたしました。
イベントは都内なんすね…。
福岡でなんかある際は、ぜひ教えて下さい。

URL | タイチ #- | 2013/12/01 10:05 | edit

 

福岡でしたかあ。。
残念。。

はい また機会があったら
よろしくお願いします^^

とても内容がおもしろいので、
また遊びに来させてもらいますね!

URL | MIHO-MIHO #- | 2013/12/01 18:48 | edit

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