素人目線の映画感想ブログ

素人による、素人のための映画感想・レビュー。 映画文法や方程式なんのその。

※ネタバレがある時は、必ず<赤字>で標記します。

ファニーゲーム ハリウッドよ、これが暴力だ。 



ファニーゲーム [DVD]
 ファニーゲーム
 (1997年 オーストリア映画)10、または90/100点


み…見てしまった。
かねてから、映画史上最も「後味の悪い映画」とは聞いていました。
日常に潜む人間の闇を描き出すことに長けた名匠・ミヒャエル・ハネケ監督作品です。

カンヌ映画祭上映時には、その「衝撃」に退出者が続出したそうです。
納得。
私も、途中から、俯きながら画面をちらちらと見るような、怯えた鑑賞スタイルになっていました。
前回観た「嘆きのピエタ」の残酷さも、大島優子が泣き出すのも無理ないと思った「悪の経典」も、不謹慎だと糾弾された「明日、ママがいない」も…本作に比べればオママゴト程度にさえ思えます。

とても人には薦められない。

しかし。しかしです。

この「むごたらしい」ものを見せられてしまったという感覚は、単にハネケ監督の悪趣味や悪ふざけ、過激な暴力の直接描写によるものではありません。超A級の演出と役者の芝居によって生み出されているわけで、映画としての価値は、とんでもなく素晴らしいと断言せずにはいられないのです。

ゆえに、人には本作の点数を10点と言いたいのですが、映画としては、実は90点以上の大傑作なのです。

これは、単なる残酷な「バイオレンス映画」ではありません。

「衝撃」という杭は、映画に随所に隠された「真意」というハンマーによって、より深く突き刺さってしまうのです。

あらすじは、「湖の別荘に遊びにきた夫婦と一人の子供。そこへ、二人の青年が現れる。突然夫の足をゴルフクラブで打ちのめし、家族全員を監禁する。青年の一人が言う。『12時間後に、君たちが生きているか死んでいるか、賭けをしよう』と…」というもの。

ファニー


思い切って、完全ネタバレでいきます。


さあ。
のっけから凄いのですよ!

一台の車に3人の家族(夫・妻・子供)が、避暑地に赴いています。車中ではクラシックやオペラが流れ、夫婦は曲名をあてる「ファニーなゲーム」を楽しんでいるのです。和やかだなあ…と思わせて直後、悲鳴のようなヘビメタな音楽が流れ出し、オープニングタイトルが浮かびます。まるで、覚悟せよと言っている警報のように。
この「突然の暴力」を象徴しているオープニングからして、本作の異常性が付きつけられるのでした。

ほいでもって。

別荘で、夫と子供はボートの準備中。
妻は台所で料理をしていると…
一人のぽっちゃりな青年が突然訪問してきます。
「卵をください」
彼がそう頼むと、妻は気前よく「卵」を分けてあげます。
直後、卵を落として割ってしまう青年。
まだ笑顔を見せる余裕のある妻は、「大丈夫、大丈夫よー」と気遣います。

「新しいのもらえませんか?」

多少の遠慮さを出しながらも、ずけずけと要求する青年。
妻は、「ま…、まあ、いいけど…」と、何とか表情を取り繕います。
と思ったら、「あらっ」と青年。
台所に置かれてあったこの家の携帯電話機を、うっかり水の中に落としてしまうのです。
「あっ!」と妻の表情が凍りつきます。

防水ではなかったのです。

おっと、ここはまだ太字にするほどのことではありませんでした。
書きながらも緊張してしまい、うっかりタイミングを間違えてしまいました。
こんな程度のことを太字で強調していたら、後半の太字なんてそらもう、地球規模の大きさになってしまうってもんですよ。(懲りずに太字)

携帯を壊された妻は憮然とします。
「ほんと、すみません」と平謝りつつも、「あの…卵は?」とのたまう青年。
ひぇー。
暴力シーンでもないこの場面から、もうこんなにもヒヤヒヤさせる見事なシチュエーション。
しかし、こんなところからヒヤヒヤしていたら、映画終盤なんて、もー(以下、略)
しかししかし。それでも何とか冷静さを保ち、卵を渡してあげる妻。
と、そこへもう一人の青年が現れます。
「旦那さんのゴルフクラブ素敵っすね。ちょっと使わせてください」と、こちらは図々しさ丸出し。
ついにブチ切れた妻は、「帰って!」と叫びます。

家の不審に気付いた夫と子供が戻ってきます。

そして、いよいよ本性を現す青年二人。

夫の足をゴルフクラブで痛めつけて折り、家族3人を監禁状態にするのでした…。

ふぁにー2


引いたカメラでの長回しの演出が多く、非常に淡々と描かれていきます。
日常のちょっとしたスレ違いを描いているだけのようにも感じます。
序盤はまだ、この青年二人が、ただの「いたずらっ子」程度であるような希望が流れています。
引っぱたかれて、ちょっと「キレちゃった」だけなんだよね…と。

しかし、その希望は打ち砕かれます。

「12時間後に、君たちが死んでいるかどうか、賭けようよ。ま、死んでると思うけど

耳を疑う家族3人なのでした。

私、その瞬間に、この映画は「やばい」と思いました。
この手の監禁モノに珍しく、「子供の存在」があるからです。
そりゃ、「パニックルーム」にも「トータル・フィアーズ」にも、窮地の中に「子供の存在」がありましたよ。けど、あちらはあくまでエンタメ。最後はハッピーエンドに終わる保証があります。

しかし、本作は史上最高の「後味の悪い」映画と喧伝されているわけで、そこに「子供」がいると来たら…。後半、私の悪い予感は、信じがたい的中を果たすのでした。げげげげげー!

骨折の激痛の中でも、子供を心配させまいと、無理に笑顔を向ける父親の気持ちが悲しくてたまりません。
そんな家族の愛情を踏みにじるように、青年たちの振る舞いは段々に凶暴さを増していきます。

ふぁにー4


それにしても…本作が凄いのは、とにかく役者の方々なのです。
全くもってけしからんほどの演技力。その熱演のせいで、本作を「虚構」と捉えにくく、本当にあった凄惨な出来事のように感じてしまうのです。
骨折した足も本当に痛そうで…
妻の嘆きも…夫の嘆きも…


この後、壮絶にネタバレします。



…。



演技に付いて言及するからには、もう書かなければなりません。
あえてサラリと言いますが、後半、子供が射殺されます。

ハリウッド映画よ、これが暴力だ。

そう、史実モノ以外で子供が射殺される映画は…私、記憶にありません。(あと、『○ス○』もそうだった。)

息が詰まりました。

初めはテレビに飛び散った血を見せます。
私、この時点では、「ひょっとして、弾は悪い奴らに当たったんじゃない?」とのんきに思ったものです。

その直後、血を流してテレビ横に倒れている子供と、奥には微動だにしない妻(母)の姿…。

青年たちは逃げて行き、今度は残酷な「静寂」が場を支配します。

しかし、無闇に泣き叫ぶのではありません。

完全な「虚無」です。

ようやく、おもむろに妻が動き出します。

子供の遺体に近づきます。

テレビ台の角で、手の束縛テープを切り取ろうとします。

気が狂ったりするような安易な演出だってありません。(いっそ、その方が救われるが!)

ここから見せる夫婦の芝居は、耐えられない程に「凶悪」です。
本作で最も怖いのは、実は二人の青年ではなく、この夫婦の「演技」です。
だって、こんなにも「残酷で「むごく」「ひどい」バイオレンス映画だと言われながら、実は本作は、直接的な暴力描写を見せているわけではありませんから。誰かが射殺される場面でも、撃たれたところは見せません。音だけとか、画面に映っているのは発砲する側の姿だけ。しかし、役者陣の見事なほどの芝居が、余計にリアルな惨劇を脳内再生させてしまうのです。
妻・スザンヌ・ロタールと、夫・ウルリッヒ・ミューエ(善き人のためのソナタの主人公)
この二人、恐るべし。

私ね…しばらく、「実は生きてました」とならないものかと希望を探ってましたよ。
ハネケ監督のこと、よく分かってなかったんですよ。まだまだ素人ですよ。
それほど…受け入れがたい描写だったということです。
あの時、卵を渡してあげていれば…あの時、彼をひっぱたかなかったら…。夫婦は、そう後悔をしていたかもしれません。しかし、そんなことは関係なく、きっと青年たちは初めからこうするつもりだったのです。

夫婦は青年二人に問いかけていました。「どうしてだ」と。
しかし、青年二人は「さあ…なぜだろう」と答えません。

まさに、無差別殺人のゲーム。彼らにとっては、それが「ファニーゲーム」でした。

ふぁにー5


物語は、痛々しくも、まだまだ続きます。

最悪な事態ながらも、久しぶりに訪れた「静寂」の中で、夫婦は何とか落ち着こうと試み始めます。しかし、二人と我ら観客を、さらに地獄に叩き落とす展開が待ち受けているのでした。

ええ加減にしなさーい。

思わず明るく突っ込みたくなりました。

実は本作、アメリカのスリラー映画のパロディとも評されています。
これがパロディ? 笑えないのに…? と思ってしまいますが、実は冷静に観れば随所にそういう点が見られます。

1.逃げることができたー! と思いきや、あっさり捕まった…。それを妻と子供で2回繰り返します。妻なんか外に逃げ出して、「おーい助けてー」と近寄った車が、この青年たちの車だったって…確かにギャグかも!

2.敵は台所だ。油断しているぞ。今の内に束縛テープを剥がし、そこのゴルフクラブでぶん殴って逆転だ! と思わせといて、剥がす前に敵が戻ってきて間に合わず。

3.奇跡的に壊れてた携帯電話が直ったー!、…いや、直ってなかった…。でも再度直すように試みたら、やっぱり直ったー! さあ通報…っていっても警察署の番号がわからーん! (110番ってないのかな…)

4.偶然にも転がっているナイフを見つけたー! これで束縛テープを切って悪漢どもを串刺しにしてやるんだなー! と思いきや、あっさり取り上げられる。

などなど。

ハリウッド映画ならば逆転に至るシチュエーションを、あえていくつも見せつけながら、「現実はそんなうまくいかんよ」と梯子をあっさり外す意地悪さ。確かに、パロディと言えなくもありません。撮り方によってはコントになるような要素です。しかし、それを見せられる度に、祈るような気持ちで観ている観客の気持ちは、いとも簡単に奈落に落とされるのです。ハネケ監督は、「見ている者が不快になるように」作ったそうですが、ほんと天才的なほど周到な計算力です。

さらに驚愕なのは…
5.敵の散弾銃を奪ってようやく青年の一人を始末します! よっしゃ、こっからが逆転の本番だろ! ってガッツポーズをとるほど高揚させるのですが、もう一人の青年が何やらリモコンを操作すると、なんと場面が逆再生され、散弾銃が奪われる直前に戻ります。 なに、それ!? ま じ で !? そして青年は、二度と散弾銃を奪われないようにするのです。
本作最大の謎のシーンと言われています。
本作では、こういう描写がいくつもあるのです。
青年が時折、カメラ目線になって観客の方を向くのです。そしてウインクをしたり、「みなさんはどっちに賭けますか?」と尋ねたり、「どんな結末を望みますか?」などと問いかけます。これは、専門用語で「メタ発言」と呼ぶそうです。
この狙いはなんなのでしょうか。
まるで我々観客を見下ろしているような視座。
ハネケ監督は、この映画を通して、「映画」における英雄的な暴力や、快楽的な暴力を批判したかったといいます。
まさに「暴力映画」を見ている我々も、暴力を楽しんでいるこの二人の青年と同じ穴のムジナなのだ、と言いたいのではないでしょうか。

ただ逆に考えると、このメタ描写は、本作がフィクションであると悟らせるわけですから、本作唯一の「救い」の描写と思うこともできます。そういう意図ではなくたって、そう思い込みましょう。思わせてください。

余談ですが、私またもや、このリモコンでの逆再生を目の当たりにした時、「もしかして、このリモコンを妻(母)が利用し、平和なあの頃に戻るって寸法か!?」と期待してしまいました。
けど全くそんなことないんだよねー。
もし、ハネケ監督がそういうエンディングバージョンのDVDを作ったら、迷わず買います。

そして、青年二人はこの家族をすべて葬った後、間を置かずに次なるターゲットの家に現れます。よく思い出すと、物語序盤で、この夫婦が隣人に声をかけた時、隣人たちは「おかしな態度」をとっていました。その傍には、この青年たちがいたのです。…そうか、この青年二人は、この別荘地の人々を殺して回っているのか。

青年はまた言います。「卵をください」と。
「卵」
…それは、儚く、もろく壊れる「命」のよう。

そしてまた青年の一人がカメラに向かって、ニヤリと笑いました。

さあ、みんなでファニーゲームを楽しもうよと。

ふぁにー3


 

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Posted on 2014/03/09 Sun. 02:13 [edit]

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09

コメント

 

このレビューを読んで、あのとき戦慄がよみがえりました。

「ノック・ノック」という映画を観たときにまずこの映画が浮かびましたが、同じ胸糞でも笑って楽しめる要素が救いになっていたので今でもまだ自分の中の胸糞洋画部門ナンバーワンは「ファニーゲーム」のまま更新されていません。
(後味悪い洋画部門は別にあって、当然「○ス○」は上位です)

当時、レンタルVHSでこの作品を観たのですが、自室で観ていることを親に知れるのが気まずいような、とても不謹慎なものを見ているような気持ちになったものです。
もう二度と観ることはないと思っていましたが、このレビューを読んで、デジタルリマスター版などがあればもう一度観てみたいという気持ちになりました。

URL | mdt #- | 2017/08/19 12:42 | edit

mdt 様 

またまたコメントありがとうございます。

『ファニーゲーム』は恐ろしかった…。私はもう、ちょっと見られないかも。

けれど、結構「メタ的」なんですよね。表現が。カメラ目線でこちらに問いかけてきたり。
これは作り物だ、ということが意識できる構成なので、
それが救いと言えば、救いです。

ああ、確かに、『ミ〇ト』も意地の悪い結末でしたよねえ…。

URL | タイチ #- | 2017/08/19 15:08 | edit

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