素人目線の映画感想ブログ

素人による、素人のための映画感想・レビュー。 映画文法や方程式なんのその。

偽りなき者 それでも僕はやってない。 


偽りなき者 [DVD]
 偽りなき者
 (2012年 デンマーク映画) 90/100点


大傑作です。
ですが…見ていて、何ともいえぬムカムカ感に悩まされました。
腹立って、腹立って。

特に園長!

半沢直樹だったら100倍返しにしてやりたいくらいに腹が立ったものですよ。
だから私、教育に携わる人って、かねてから「あやうい」と思っているんだよなー。エセ正義感といいますかなんといいますか。(自分もそれ関係の仕事だけど)


あらすじは、「デンマークの小さな村。幼稚園で働く主人公・ルーカスは、園児である少女・クララの作り話によって、性的虐待の変質者として村中の人々から糾弾される…」というお話。

 偽り4


これは、「冤罪」の物語です。

腹立った…と前述はしましたが、冷静に考えてみると、観客側の我々は主人公が「完全に無実」であることを知っているからなのかもしれません。
もし、何も分からない状態で、年端もいかない少女から「虐待の告発」をされたら…果たして主人公を信じることができたかどうか。恐らく…際限のない疑いの目を寄せることでしょう。少なくとも、自分の子供を彼に近づけようとはしないかもしれません。私だって噂に流されてしまうかもしれません。簡単には村人たちを責めることはできな…といっても腹立ったわ!

デンマークの諺に「酔っ払いと子供は嘘をつかない」というものがあるそうです。
実際は逆ですよね。
酔っ払いの上司が宴席で偉そうに語る「営業の今度の方針」ほど、アテにならないものはないし、子供は悪意なく欲求のままに「嘘」を吐きますよ。

ただ、子供の証言というものには、「信じてあげなきゃ」という強迫性があります。
年端もいかない無垢な子供が言っているのだから、「そうだねー、そうだねー」と言ってあげるのが大人の責務のような気がしてしまうわけです。

今回の証言というのが、「性的虐待」だったから、さあ大変。

主人公に全く非がないわけではありません。
少女・クララは、優しい主人公・ルーカスを好きになりラブレターを送ります。それに対し、普通なら「ありがとー。おっきくなったらまたおいでー」みたいに上手に交わすのが筋ってもんです。それを、ルーカスったらマジな顔してこう応えます。

「この手紙は他の男子に渡しなさい  (`・ω・´)キリッ」ってマジメか!!

子どもの可愛い「チュー」に対しても、こう。
「二度としないで ( ー`дー´)メー」ってシビアか!!

園児の好意に対し、コテンパンにフッてしまうルーカスなのでした。
クララは完全に意気消沈。ふと声をかけた園長に「ルーカスが嫌い」と話し、兄に見せられたアダルト画像とルーカスを重ね、ないことないことを放言してしまうのです。

女心を踏みにじったルーカスの非、それが最大の彼の反省点でしょう。

とはいえ。

その話を聞いた園長は、完全に「鵜呑み」
これはいけない。
偏った正義感を確信してしまった教育者ほど、厄介なものはありません。
自分が100%正しいと信じ込み、ルーカスの言葉に耳を貸さず暴走を始めます。

一番納得がいかなかったのは、ルーカスに「事情・理由・真相」を一切聴取せず、独断で休職させ、保護者会で暴露し、ルーカスの家族にまで告げ口した点です。怒り心頭のルーカスに園長は吠えるのです。

「あんな無垢な少女が、ウソをつくわけがない!」

本作最大に腹の立つ場面でありました。
ルーカスを失脚させるための策略であるなら、まだマシかもしれません。
園長は、心から正義のつもりで言ってるから余計に腹立つってもんです。

その他、カウンセラーがこの少女に事情を聞く際に、明らかに誘導尋問をしている点も腹立ちました。
子供ってのはよく分からないことを聞かれたり、答えるのが面倒臭くなったら、適当に「うん、うん」と頷くものでしょう。その点に配慮せず、「こんなことされた?」「うん」…「あんなことされた?」「うん」という証拠能力のまるでない言質を取っていく様が、本当に子供の専門家なのかと、残念がっかりでした。

 ituwari 2


本作の特徴は、「ルーカスに、法的な無罪が確定する」という点です。「それでも僕はやってない」のように、裁判や調査が行われることはありません。
一時、警察に連行されますが、証拠不十分で釈放されます。

ゆえに、主人公が落とされた不遇は、すべて「噂」だけから生じたものなのです。
村人たちは、「やったに違いない」と集団ヒステリーを生じさせます。
スーパーの店員は、ルーカスに限らず、彼の息子にも商品を売らず「出ていけ」と差別し、暴力をふるいます。
保守的で情報や教養に疎い田舎の人々が、いったん「異端」とみなした者への迫害意識は、そうとうに強烈です。「都会の人は冷たい」「田舎の人は温かい」という固定観念がありますが、あれだって怪しいものなのです。

そして、もっと怖いのは、さすがに事態のまずさに気付いたクララが「あれは嘘だよ」と告白しても、大人たちが「嫌な思い出を消そうとしているのだろう」と勝手に決め付けることでした。つまり、真相究明の糸口を断ち切られてしまっているのです。ルーカスに真実の光が灯ることはないのか…? 見ている側は本当にハラハラです。

そして、主人公を最もへこませたのは友人の反応でした。
友人とは、実はクララの父親です。
心から信頼を寄せていた友人が、彼を突き放すのです。

心を病みかけるほどに落ち込んだ主人公の姿が、苦しくて仕方ありません。
もしや自暴自棄になってとんでもないことをしないだろうか…と緊張しました。

それは、教会での会合の時。

クララ含む園児が歌を歌う式典でのこと。

クララの家族も参加しています。
ルーカスは、おもむろに立ち上がり、友人であるクララの父親のもとへ歩みよります。
息を呑む場面でした。

中盤までは、不条理な仕打ちへの怒りで我を忘れ、誰にでも乱暴な態度を見せるルーカスに対し、
話し合えば分かるよ。
とか、
冷静に行こうよ。
とか、
そんなんじゃ味方がいなくなるよ。
とか、
心の中で語りかけていた自分は甘かったと恥じました。

ルーカスが、心の奥底から絞り出した友への凄まじい怒り。

友は、その怒りをどう受け止めるのか…?



(以下、ネタバレします)

 偽り


泣けた。
大いに泣けた。
友人は、その怒りを受け止めます。
「あいつは…本当にやっていないのでは…?」
ようやく我に帰る友人。
事件発生前に、友はルーカスに「お前は嘘をつく時には目が泳ぐからすぐ分かる」と言っていました。
ルーカスはぶちキレながら、「オレの目を見ろ!」と叫んだのです。
それが、頭から離れない友人。
そして。
眠っている娘のクララに近づきます。
クララは…夢うつつの中で言うのです。
「本当に、ルーカスは何もしていない」と。

泣けたー。

「友を傷つけてしまった…」と悔恨するクララの父親の表情。

泣けたなー。

そこから、あれよあれよと疑いが晴れ…おや? ハッピーエンドなんだ? と意外にもあっさりな結末を感じていたのですが…実は、物語はまだ続くのです。

以下が、本作の本質であり、本当に言いたかった事。

1年後、ルーカスは家族や友と狩猟に出かけます。
このまま和解して終わるのだなと思わせておいて、突然嫌な予感をたっぷりと滲ませます。

突如、ルーカスに向けて放たれる1発の銃弾。

銃弾は間一髪逸れるのですが、ルーカスは戸惑いながらも逃げ去る一人の姿を目にします。
それが誰かは、物語では伏せられています。
状況や姿から察すると、クララの兄でしょう。

しかし、それは「象徴」です。

一度こびりついた疑心は、簡単に洗い流せるものではない。彼を疑う者の存在は、きっと、まだまだ大勢いるのです。たぶん、あの園長もね!

皮肉をたっぷりに含んだ見事なラスト。思わずうなり…身震いしました。


↓こちらのようなラストの見方もあるんだと勉強になりましたよ。
ノラネコの呑んで観るシネマ/偽りなき者・・・・・評価額1650円


 

記事を読んで頂きありがとうございました。
↓よかったらランキングにご協力ください。
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ 

 <スポンサードリンク>

高評価(人間ドラマ)の関連記事

 <スポンサードリンク>

Posted on 2014/03/21 Fri. 23:59 [edit]

TB: 1    CM: 8

21

コメント

 

はじめまして。わたしも大傑作と思います。
ただただ不条理なコトのなりゆきを見守るしかない本編(?)目が離せないとは このことですね。息子とひとりの友人が僅かな救いでした。
それがびっくりするくらいの変わりよう。あれっ!??

>以下が、本作の本質であり、本当に言いたかった事。

そうですね。ここからが見る人それぞれに想像を働かせるこの映画の凄いところだと思います。
パーティ会場でクララと向き合ったルーカスの気持ちだって わたしなんか何かするんじゃないかと最初は思ったけど、あとからあの場面でクララを抱き上げるルーカスの勇気ってスゴイ、とも思い、さらには潔白の証だったのかな~と いやらしく考えてもしまいました。
銃弾の件もしかり。犯人捜しをしている方もたくさんいましたが 主さまの「象徴」がしっくりきます。 
>いったん、こびりついた疑心は、簡単に洗い流せるものではない
実はルーカスの妄想だっていうのもアリだと思うのです。
長くなってしまいましたが、最後に 犬好きのわたしには死んでなおご主人様を守る忠犬の話しとしても 涙ナミダなのでした。

URL | Q #- | 2014/08/11 08:32 | edit

Q様 

コメントありがとうございます。

私は教会のシーンはほんとハラハラしましたよ。
ルーカスが、なんかとんでもない暴挙をしでかしそうで!
しかし、あのシーンを観て、
やってないことは、やってない!と毅然とすることは
大事なのだと気付かされました。
時に我を忘れて暴力的に怒ることも大事なのかな…?とさえ。
とかく日本人は、「謝罪しておけば済むんじゃね?」
と考えがちですので…。
犬はかわいそうでしたね。
何の罪もないところにヒステリーが向かう怖さ。
ルーカスの子供も被害者だし。
たとえルーカスが犯人だったとしても、許せない部分ですね。

URL | タイチ #- | 2014/08/11 13:11 | edit

 

私もクララの兄だと思います!

とにかくキャスティングが素晴らしかったです。
名優とはまり役のみで仕上げた映画。

特にクララは、幼いだけにまだ明からさまではない異常性が容姿にでていて、はにかみ笑っている顔にゾッとしました。
兄も同様、マルクスと違い、少し異常な感じをもった少年でした。

ストーリー見なくても、キャストの顔を見れば展開がわかるくらいです。
すごいと思いました。

おっしゃるとおり、ムカムカ感を相当刺激する映画でした。
なにより、幼稚園児ほどの幼い子供相手に 「なに?このキモい女・・」と感じたのは人生で初めてでした。
子供なら100%可愛い眠気眼のシーンでさえキモかった。ものすごいブサイクで目をそらしてしまいました。

URL |  #- | 2014/08/11 23:11 | edit

コメントありがとうございます。 

クララには、そういう気質があるんですかねえ・・・?
とすれば、素晴らしい演技力であり、天才子役と言えますね。

私は、断然、「園長」が嫌いです。

URL | タイチ #- | 2014/08/12 13:15 | edit

 

初めましてコメントさせていただきます
園長は確かに感情的で軽率な面もありますが、彼女が性的被害を知ったときの「嘔吐」という反応、これは少し第三者としては過剰演出な気もします。そこで私はもしかすると彼女自身、過去にそういう被害を受けたことがある、そのために行き過ぎた行動に出てしまったのかとなと想像しました。
ルーカスのクララへの拒否は、性的虐待を疑われることへの恐れから
過剰になってしまったのかもしれませんね。
じゃあもう、なんで幼稚園で男性は少年、女性は少女と世話役を分けたりしないんだよ
とも思いますが。

クララは線の上しか歩けない、周りが見えない、行きたい場所にいけない、
大人の意志に翻弄され誘導されてしまう、無力さ未熟さが描写されています。
本当は一人で歩く力もあるんでしょう、しかしそれを阻むのは大人です
ルーカスもその意志を拒否して一人で尋ねてきた彼女を追い返しました。
それに、たくさんの線を自ら選べず、外部の圧力で道を歩んでしまうのは大人も同じですね。
最後にルーカスは線がいっぱいあって動けないクララを抱き上げて、線を飛び越し、彼女の父の元へ送りますが、これはどういう意味なのでしょう。
最初にクララが線を見て、ルーカスが前を見て幼稚園に連れて行く描写がありましたが
これは、ルーカスこそ彼女を正しく導ける という意味なのでしょうか。



URL |      あ #- | 2015/10/15 11:55 | edit

あ様 

コメントを頂きありがとうございます。

確かに園長の過剰な反応は、彼女のこれまでの経験が関係しているのかもしれません。
もちろん、それだからといって、「やったにきまってる」と決めつけるのは、
上に立つ者としては軽率です。
「まさか、あのルーカスが…」という疑問さえないのは、もともとルーカスに
対する信頼もなかったということなのでしょうか。
ルーカスは黙々としたタイプなので、感情が読めず、誤解を受けやすいのかもしれません。
だからこそ、御指摘のように、クララと距離を置いたのかもしれませんね。

「線」の御指摘について、考えさせられます。
たくさんの線があって前に進めない描写には、クララの苦悩があるように思いました。
考えてみれば、クララも相当に悩んでいたと思います。
夢うつつで、真実を思わず口にするくらい、心がヘトヘトになるまで、
悩んでいたんじゃないでしょうか。
ルーカスが抱き上げるのは、「許し」のように思います。

URL | タイチ #- | 2015/10/15 17:47 | edit

 

兄貴がやったとして、妹クララにアダルト画像見せた張本人=イタズラをクララに植え付けた黒幕が撃つっていうのも。メッセージですね、軽はずみな行動で狂ってしまう人生と同じですな。

URL |  #- | 2016/03/14 22:51 | edit

 

コメントありがとうございます。

小さな小さな行動が、大きな歪みを作ることってありますよね…。

しかし、考えてみると、兄貴は人を責められる立場じゃないんだなあと、改めて。

URL | タイチ #- | 2016/03/15 12:36 | edit

Comment
list

コメントの投稿

Secret

Comment
form

トラックバック

トラックバックURL
→http://eigamove.blog.fc2.com/tb.php/184-19d7f210
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

偽りなき者・・・・・評価額1650円

無垢なる者は、存在しない。 幼稚園教師として平凡な人生を送っていた男が、親友の幼い娘の小さなウソによって破滅へと追い込まれてゆく。 「光のほうへ」で知られるデンマークのトマス・ヴィンターベア監督による、とても恐ろしく、スリリングな不条理劇だ。 人々が善意である事を前提とするコミュニティにおいて、反社会的人物のレッテルを貼られる事が何を意味するのか。 原題の「Jagten」とは、デ...

ノラネコの呑んで観るシネマ | 2014/03/25 22:46

Trackback
list