素人目線の映画感想ブログ

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機動警察パトレイバー 2 the Movie 第2弾の先見テーマは、「集団的自衛権」 


EMOTION the Best 機動警察パトレイバー2 the Movie [DVD]
 機動警察パトレイバー 2 the Movie
 (1993年 日本映画) 89/100点


押井守監督の大ヒットアニメ「機動警察パトレイバー」の劇場版第2弾です。
全く知らない人には、ただのロボットアニメという認識かもしれませんけど、これ、ほとんどロボットなんて出てきません。

有名原作の名を借りて製作資金を手に入れた押井守が、観客二の次で自分自身の嗜好をフル回転させてしまったという…例のアレ。
前作「機動警察パトレイバー the Movie 」では、「コンピューターウィルス」に関する物語で、現在のコンピューター犯罪を見事に予見してみせました。
本作では、昨今、賛否渦巻く論争を巻き起こしている「集団的自衛権」を真っ向から取り上げ、またしても驚きの先見性を見せつけます。これ、20年以上前の作品ですぜ。

当時、初めて本作を観た高校生の時には、余りの「大人向けの内容」に全然付いていけず、「退屈だな…」と思ってしまいましたが、今見返してみると素晴らしい演出と骨太い物語で、まービックリ。まず間違いなく人を選ぶ作品(特に男子向きですね)ではありますが、今ではあまり見られない押井守の鬼才ぶり、神がかりぶりが見事に発揮されています。

あらすじは、「東南アジアのある国にて、柘植行人(つげ ゆきひと)率いるPKO活動中の日本のレイバー部隊が敵の攻撃にあうが、発砲することができずに壊滅する。それから月日が流れたある日、横浜ベイブリッジが爆破される事件が勃発。その時、偶然に撮影されたビデオカメラには、上空を飛ぶ自衛隊の戦闘機が映っていた。警察と自衛隊の対立、謎のスクランブルなど、徐々に不穏を増す東京。それは、平和ボケの日本人を目覚めさせるために、柘植が仕掛けた東京戦争だった。特車二課第2小隊は、その鎮圧に動き出す…」というお話。


もー、あらすじからして難しい。
つまりは、「海外で活動する自衛隊員が武器の使用制限のために応戦できず、多数の死傷者が出て、その指揮にあたっていた男が集団的自衛権を認めない政府や日本国民に復讐するべく、あえて東京に戦争状態を作り出す」ってお話。
…これのどこが「パトレイバー」なのかがさっぱりわかりません。
おまけに本来の主人公である「泉野明(いずみのあ)」という女の子キャラが完全に脇役です。
というか、レイバー自体が脇役です。
それもそのはず、レイバーが活躍してみせるのは終盤のみ…しかも仕方なく入れ込んだよ、という感じ。
全般的には、レイバーの警察部隊である「特車二課第2小隊」の隊長・後藤と、その盟友である刑事・松井、そして柘植(つげ)を追う不気味な男・荒川という、中年のおっさんばかりがむさ苦しく動き回る、まさに三匹のおっさんムービーなのであります。
こんだけ好き放題に作品が作れた時代って…いい時代があったもんですなー。

しかし、前述したように演出は本当にピカイチ。
「東京」に迫りくる戦争の緊迫感を、ありふれていない演出技で描き出します。
しかも、抑えの利いた大人の渋みがたっぷりです。

さて。
その東京戦争への序幕は、「ベイブリッジの爆破」で開かれます。
「アバター」のジェームズ・キャメロンが自身の映画の宣伝で来日した際、ベイブリッジを見て、「ワオー! アレガ、パトレイバーデ、コワサレタ、ベイブリッジデスネー」と興奮したとかしないとか。「踊る大捜査線」の監督が、「押井守はベイブリッジを爆破したのに、俺たちはレインボーブリッジの封鎖だけでいいのか!?」と悩んだとかどうとか。
各映画人になかなか影響を与えまくりの押井監督なのでありました。

パトレイバー2


秀逸なのは、ベイブリッジ爆破事件を取り上げたニュース映像のリアルさ。本職のアナウンサーさんにニュース原稿を読ませたような、リアル感満載のニュース映像とアナウンスが続きます。海外メディアを含んだ様々なニュース映像の後、一層リアルにアナウンスするアナウンサーさんが、カメラに映った謎の飛行物体についての原稿を読み上げます。画面には、どす黒い影である一機の謎の自衛隊機の映像が不条理に何度も繰り返され、その不気味な演出が不安を煽ります。

とにかく名場面だらけの本作ですが、最も素晴らしいのは「幻の爆撃」シーン。
この場面のセリフはとにかく専門用語が多く、また説明が少ないので何やっているのかわかりにくいんですけど、ようするに、航空監視システムの画面上に、またもや謎の自衛隊機が現れ、まさに首都圏に向っているという情報が流れてくるわけです。
ベイブリッジのように首都圏が攻撃される可能性が…そう危機感を募らせた防空司令官は、ついに撃墜命令を出します。
この場面が凄いのは、結局一発のミサイルも発射されるわけでも、戦闘シーンがあるわけでもなく、ただ、画面上に映し出される「戦闘機のマーク」の動きを追っているだけ、というところ。そのマークが、味方側のマークに徐々に近づいてくる恐怖感を、司令官二人の緊迫したセリフのやりとりや、徐々に高鳴っていく音楽の巧さだけで創り上げていることに驚くのです。

パトレイバー24


ただ、とにかく専門用語が多くて、専門知識がないとすぐに理解できない事が多いんですけどね…しかし、なんやかんやとありまして…柘植のたくらみ通り、警察と自衛隊・政府の仲が悪くなり、政府は治安維持のために自衛隊を東京の街に展開させるのです。
東京の街並みに戦車が並ぶ姿は、東京がついに戦場になったかのような不安を人々に与えるのでした。

パトレイバー26


さあて。
結局この映画って何の映画なのか…初見では本当にわかりづらい。
柘植の今回の目的も、「平和ボケを目覚めさせるため…」と書いては見たものの、はっきりとした描写はありません。
しかし、それを推察させるのは後藤隊長と荒川の二人の会話です。荒川の方は、結構な長台詞です。実は、荒川役の声優は竹中直人。実に渋い声で、後藤隊長に、長々と、淡々と語ります。

地味です。哲学的です。暗いです。難しいです。でも…この場面、なぜか非常に興味を抱かせます。
人によるけど。
セリフ…以下に掲げてみました。これが、まさに本作のテーマ!


荒川
「後藤さん。警察官として、自衛官として、俺達が守ろうとしているものってのは何なんだろうな。前の戦争から半世紀。俺もあんたも生まれてこの方、戦争なんてものは経験せずに生きてきた。…平和…俺達が守るべき平和…だがこの国のこの街の平和とは一体何だ? かつての総力戦とその敗北、米軍の占領政策、ついこの間まで続いていた核抑止による冷戦とその代理戦争。そして今も世界の大半で繰り返されている内戦、民族衝突、武力紛争。そういった無数の戦争によって構成され支えられてきた、血塗れの経済的繁栄。それが俺達の平和の中身だ。戦争への恐怖に基づくなりふり構わぬ平和。正当な代価を余所の国の戦争で支払い、その事から目を逸らし続ける不正義の平和…」

後藤
「そんなきな臭い平和でも、それを守るのが俺達の仕事さ。不正義の平和だろうと、正義の戦争より余程ましだ」

荒川
「あんたが正義の戦争を嫌うのはよく分かるよ。かつてそれを口にした連中にろくな奴はいなかったし、その口車に乗って酷い目にあった人間のリストで歴史の図書館は一杯だからな。だがあんたは知ってる筈だ。正義の戦争と不正義の平和の差はそう明瞭なものじゃない。平和という言葉が嘘吐き達の正義になってから、俺達は俺達の平和を信じることができずにいるんだ。…戦争が平和を生むように、平和もまた戦争を生む…。単に戦争でないというだけの消極的で空疎な平和は、いずれ実体としての戦争によって埋め合わされる。そう思ったことはないか。その成果だけはしっかりと受け取っておきながらモニターの向こうに戦争を押し込め、ここが戦線の単なる後方に過ぎないことを忘れる。いや、忘れた振りをし続ける。そんな欺瞞を続けていれば、いずれは大きな罰が下されると」

後藤
「罰? 誰が下すんだ。神様か」

荒川
「この街では誰もが神様みたいなもんさ。いながらにしてその目で見、その手で触れることのできぬあらゆる現実を知る。何一つしない神様だ。神がやらなきゃ人がやる。いずれ分かるさ。俺達が奴に追い付けなければな」


パトレイバー22


ということで…
「不正義の平和」というのが最大のキーワードなのでした。
日本の繁栄は、血塗られた上に成り立ち、平和は、他の国の代理戦争によって保たれているという論理。

柘植が東京に戦争状態を巻き起こした目的は、このテーマを日本人に気づかせるためでした。
かつて本物の戦場で死地を経験した柘植は、その現場から目をそらして武器を使用させず、偽りの平和を演出している日本政府に対し、逆に、偽りの戦争を叩き付けたのでした。

パトレイバー23


まさに現在の「集団的自衛権」の問題に酷似。この先読みに驚きました。
もちろん、本作は柘植の論理を正当化しているわけではありません。後藤は、荒川の「不正義の平和」への批判に対し、「正義の戦争」よりよっぽどマシだと反論しています。
日本人の多くの考えの代表だと思います。それもまた、ありなのです。「イラク戦争」しかり、正義の名を借りた戦争は巻き起こります。平和ボケの反対側は、やはり、きな臭い戦争だったりするのです。だから、この問題は難しい。

そう、荒川の言っていることも分かる。
日本人は血を流さず、自分の手を汚さず、汚いものに目をつぶり、当たり前のように「平和主義」を叫んでいる事はまったく滑稽なことなのだと。「戦争反対」「軍隊反対」「集団的自衛権反対」を唱えるのならば、アメリカ軍の解体も声高に叫べるのでしょうか。アメリカが、「世界警察やーめた」と軍備を放棄し、ついでに先進国みんなが軍隊をやめたら、今まで抑圧されてきたいろんな小国の軍隊やゲリラやテロリストや暴走国家が、好き放題を始めるかもしれません。所詮、日本を含む先進国の「今ある平和」とは、強大な先進国の軍事的圧力によって保たれているに過ぎないのかもしれないわけです。それなのに、「日本は戦争しません」…ってのは、ようは、他の国の軍隊におんぶにだっこでいいじゃないかと言っていることに等しい。もちろん、恥も気にせず、他国にバカにされることも厭わず、それを貫き通す道もあるのでしょうが。
あまりに悲しい現実です…って、くり返しますが、こんな主張を20年以上前にアニメでやってたんですねー。


おおっと、長々とマジメに書いてしまって…ああ、つまらない。

最後にちょこちょこと本作の問題点を。
それがあって、得点90点を割りました。押井だけに、惜しい! …って。

・最大の問題点は、「死者多数、被害多数」と言われる今回の戦争で、さほどの被害描写がなかったこと。
人が死ぬ場面などは皆無です。この点は「逃げた」のか、「あえて」なのか。ただ、湿っぽさや感情っぽさを排する目的だったのかなあとか、仮想的な戦争を演出する為かなあとか思ったりもしますが。

・終盤のレイバー場面が蛇足的。
本当はやりたくなかったんじゃ…と思えるほど、終盤のレイバー同士の闘いが淡泊だったように思います。これは、「イノセンス」の終盤にも感じました。「機動警察パトレイバー the Movie 」の終盤が凄すぎたのかもしれません。

・作風がアンバランス…?
無機質な空気感の中で、なぜか柘植と柘植の元愛人であった第1小隊・南雲隊長、そして第2小隊・後藤隊長の三角関係が描かれます。ほのかな描きにすぎませんが、「黄昏流星群」のような中年の恋物語は、この作風にはちょっとアンバランスな気がしました。雪の場面はかなり綺麗でしたけど…

・柘植が途中で作戦放棄。
ちょっとわかりにくかったです。中途半端に作戦を止め、投降してしまうとは…。尺の問題? 何がしたかったの? となってしまいます。前述したテーマ性が、セリフではよく語られるんだけど、肝心の「描写」が弱い気がするのです。

・音声リニューアル版が、改悪。
オリジナル版は、とにかく素人臭満載の声優さんを使っています。素人の醸す「無機質な芝居」がリアルで良かったのに、本職の声優さんを使っているリニューアル版では、演技過剰で、ただのアニメの1シーンのように成り下がっている気がしました。残念です。ゆえに、オススメはオリジナル版です。

パトレイバー27


ということで、かつての押井守の凄さが分かる本作は、作家性の強い作品が好きな人には結構オススメです。

ところで、最近「パトレイバー 実写版」なるものが公開されているようですね。
…ちょっと怖くて見れません。面白くなさそ…どーなんだろーか?


  

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Posted on 2014/05/25 Sun. 09:00 [edit]

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25

コメント

間違いがありますよ 

ベイブリッジ爆破のニュースの「本職のアナウンサーさんに〜読ませたような」のくだりですが、あれは実際に本職のアナウンサーさんに読んでもらっていますよ。
クレジットを見ればわかりますが、文化放送のアナウンサーさんが実際に読んでいます。
失礼しました

URL | it.geruhin #- | 2017/07/04 17:50 | edit

it.geruhin  様 

ご指摘ありがとうございます。

そうですよね。あれは本物ですよね。
それを含め、素晴らしい演出だったなあと思います。

URL | タイチ #- | 2017/07/04 18:07 | edit

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