素人目線の映画感想ブログ

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そして父になる /子供はいつも、親を見ている。 


そして父になる DVDスタンダード・エディション
 そして父になる 
 (2013年 日本映画) 95/100点


実際に子育てをしているので割増の評価かもしれませんけど…大傑作でした。
これはすごい。カンヌ映画祭で、「全米が泣いた」ではなく、「スピルバーグが泣いた」という、これ以上ないような気がしないでもない称賛を得て、早速スピルバーグ率いるドリームワークスでリメイクが決定したということです。そして、アート系映画では異例の大ヒットなのですから、「スピルバーグの涙」は、はっきりと素晴らしい宣伝効果があると証明されたのでした。

それはいいとして。

本当に、素晴らしい映画です。
是枝裕和監督はもともと好きな監督です。自然体の描写がとっても特徴的な人で、過剰な演出はないんだけど、時折、登場人物の感情の奥にあるものを、ほのかに燃やして小さく煌めかせるような描写が、ハッとさせられるのです。

さて、あらすじは簡単に。
「野々宮家(福山雅治、尾野真千子)と斎木家(リリー・フランキー、真木よう子)の6歳の子供が、産婦人科で取り違えられていたことが判明する。果たして、子供を交換すべきなのか。両家族の葛藤が描かれる」というお話。

 父5


(すみません。今回も完全ネタバレです)

実際6歳の子供がいるものだから、随分身につまされましたよ。淡々として物語は流れますが、実はとっても酷な話です。
6年間というのは短いようですが、子どもが6歳になった頃は情が移る最大の時期でもあります。その時に取り違えが発覚するなんて、本当に背筋がぞっとします。

「実は自分の子供ではなかった。」
その事実を知らされ、両家族は戸惑います。しかし、受け取り方は家族でそれぞれ。
リリーフランキー側の家族は、冷静に受け止めているように見えます。兄弟が多いからなのかもしれません。対して、福山雅治側の家族は戸惑いが大きいです。一人っ子だからでしょうか。特に尾野ママは、しょっちゅううなだれて涙を流します。
感情を押し殺していた福山パパが、踏切待ちの車中で突然怒りが湧き、ウインドウをドンと叩くシーンの鮮烈さ。

さて。

物語は、取り違えた子供を、正式な親の元に帰すべきかどうかが、大きな軸ですが、もう一つ、福山パパの父親としての成長物語でもあるのです。

福山パパは、一流企業に勤めるバリバリの仕事人間です。家族に向き合う事が少ないタイプの父親です。
そのため、子供との関わり方をよく知りません。自分自身も厳格な父親と再婚相手の義母に育てられ、家族の愛情に飢えていた時期があった様子です。
また、言葉は冷たく、いつも冷静で、傲慢です。エリート意識が強く、街の小さな電気屋であるリリーパパをどこか見下げています。

どうやら彼は、子供にまだ情が移りきっていないように見えます。
だから彼は、平然と交換すべきだと主張するのです。
そんな彼に、真木ママは棘を含めて言います。
「そんなのは、子供と繋がってる実感のない男の考え方よ」

 父6


福山パパの主張は、「血」を重んじているところからきています。
子供は大きくなれば、当然血のつながった方の親に似てくるものだ。だから、早い内に交換しないと後でつらくなってくるのだ、という理屈。
しかし、ここには、福山パパのもっと残酷な考えが隠れているのでした。それは、取り違えが発覚した時に如実に表れていたのです。
彼は、「やっぱりか」とつぶやいたのでした。

やっぱりか。

…つまり。
(だって、オレの子にしては…、能力が低いと思ったもの。)
ということ。

この言葉を、尾野ママは聞き逃していませんでした。
彼女は、怒りに満ちた顔で福山パパに言います。「その言葉を、一生忘れない」

 父2


かくして、次々に女性陣より恨み節を頂戴する福山パパなのでした。
(そんなはずはないさ~♪ それはわかって~る~♪) …わかっていないのでした。 (『HELLO』より)

子供の問題は、母親にとってはとてもナイーブです。そのことを知っておかないと、どこかの都議会議員のように、愚かなヤジで大惨事を招きますので、肝に銘じましょう。

さてさて。

そうはいっても、取り違えのミスを犯した病院側の弁護士も言っていたように、こういうケースでは100%交換するとのこと。(ほんまかいな!?)
そういうわけだから。
葛藤を抱えながらも、まずは週末だけの「慣らし交換」から始めようとするのですが…

一生懸命、本当の子供との生活に慣れようと…、愛そうと努力する大人たち。
「今日から、お父さん、お母さんと呼びなさい」など、新しい家庭でのルールを教え込む福山パパ。
事態を呑みこめていない子供は、当然のことながら、「なんで、なんで?」と聞き返すばかりなのでした。

…痛い。

無理があるのが、見え見えなのです。

おまけに演出上の理由なのか、本当の子供が、とても本当の子供には見えません(福山に似てないわー)。

 父4


そして。
この物語の終盤からようやく語られるのですが、ここまで決定的に欠けている重要なものがあります。

それは「子供の視点」です。

大人たちには飲み込めても、「子供」にとって、この事態がどれだけ不条理で理不尽で許し難い事であるか。その気持ちを、誰も考えていない! これが、どれだけの心の傷になることか!

福山パパと尾野ママに慣れようと努力する子供が、ふいに流れ星に祈ったこと。それは、「お家に帰れますように」という当然の願いでした。

福山パパは次第に気付き始めます。「血」よりも濃い、6年間という「時間」の密度に。表現こそ乏しかったけれど、福山パパだって、6年間過ごした子供を、やはり愛していたのではないか。
(愛と知っていた~のに~♪ 春はやって来る~のに~♪ 夢は~今~も、夢の~ままで~♪) …現実を生きましょうよ。 (『桜坂』より)

強烈だったのは、福山パパが手放そうとしたその子供が、いつのまにかこっそりと福山パパのカメラで、福山パパの後ろ姿や寝顔を撮っていたことでした。それを見つけた福山パパは、驚きとともにようやく理解します。自分はこの子供に慕われ、信頼され、甘えられ、見つめられ…、愛されていたのだということを。そして、愚かにも、無残にも、自分がその想いを踏みにじるように、素知らぬ顔で通り過ぎてしまったことを。…福山パパの目には、涙が溢れるのでした。
(友達~では♪ いられないこ~とも♪ 父親には~戻れな~いこ~とも♪ 分かって~るよ♪) …だから、わかってないよ、まだ戻れるよ! (『はつ恋』より)

 父


ラスト。福山パパは、交換してしまった子供のもとへ向かいます。しかし、子供は思わず逃げ出してしまいます。
「パパなんか、パパじゃない!」
初めて福山パパに浴びせた、積み重なっていた感情でした。
そして初めて、福山パパは子供の気持ちに向き合い、彼にたくさんの言葉を投げかけ、そして最後に抱き合うのでした。

素晴らしい結末。もう、たまりません。

ただし、エンディングシーンは、果たしてこのまま交換をやめるのかどうなのか、はっきりしていません。(福山パパは、「ミッション(交換)なんか、もう終わりだ」と話していたので、恐らく元に戻るのではないでしょうか)
こうして、福山パパは本当の「父親」へと成長したのです。

「そして、父になる」のでした。



(「100年経っても好きでいてね」
みんなの前で困らせたり
それでも隣で笑ってくれて
選んでくれてありがとう。
 
どれほど深く信じ合っても
わからないこともあるでしょう
その孤独と寄り添い生きることが
「愛する」ということかもしれないから…

いつかお父さんみたいに大きな背中で
いつかお母さんみたいに静かな優しさで
どんなことも越えてゆける
家族になろうよ)


これエンディングテーマでいいんじゃない? …ま、結婚の歌だけれども。  (『家族になろうよ』より)

ということで、本当にすごい映画です。超オススメです。

他に、とにかく役者陣のうまさが際立ちます。
リリーパパが特にすごい。なんでこんな自然体の芝居ができるんだと驚嘆します。それでいて、福山パパの態度に怒りを表す場面のなんとも言えない不器用さといったら! (頭ペシって!)
真木ママの肝っ玉母さんもすごい。頼もしさ全開です。一部には美人過ぎてミスキャストでは? という声も聞きますが、そんなことないけどなあ。3人を育てるたくましさに溢れていました。(前と後ろに子どもが乗れる自転車がリアル)
尾野ママの貞淑な妻っぷり。前述のように、心を壊すのではないかとハラハラするような脆さや、夫への怒りと不信を募らせているかと思いきや、涙を流す夫にさりげない優しさを差し伸べたり。
本作の福山雅治には、某推理ドラマでの大根さが微塵もなく、溢れる涙の嗚咽の場面は、もらい泣きを誘うほどの素晴らしさ。

そして、子供たちもすごい。是枝監督の真骨頂です。とにかく自然。何でもないセリフのほんの一つでも泣けてきます。この演出あってこその、この感動なので、リメイクされたって果たしてなんぼのもんじゃい、と訝しげです。

とにかく、非の打ちどころもないくらい、この映画は傑作だと断言するのでした。

 父3


  

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Posted on 2014/06/24 Tue. 22:34 [edit]

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コメント

今頃ですが、 

はじめまして。
この映画を観たときより今これを読みながら流した涙のほうが多いかもしれません。そんないい映画だったか?と思いながらも涙にくれています。
いい映画でしたねー。

URL | kei #l/VZmCVM | 2014/07/07 17:41 | edit

kei様 

コメントありがとうございます。
思わず自分の子供を投影して観てしまいまして…
そうなると、たまらず泣いてしまうのですよね。

どうも、そんな感情移入が激しく、子供関係の映画は見るのに覚悟いります。

ちなみに「ホタルの墓」は見ていられません。

「父親」も日々成長です。
愛し足りていないのではないか、子供の気持ちに寄り添っているだろうか…
これを観ながら、いろいろと考えてしまいました。

けど…この淡々として、ドキリとさせる演出が大好きです。

URL | タイチ #- | 2014/07/07 21:24 | edit

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