素人目線の映画感想ブログ

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※ネタバレがある時は、必ず<赤字>で標記します。点数の説明はこちら。

夢と狂気の王国 /宮崎駿は、やっぱりやる気だ。 


 夢と狂気の王国 [DVD]
 夢と狂気の王国 
 (2013年 日本映画)
 85/100点



初めて宮崎駿監督作を観たのは、『天空の城ラピュタ』でした。
テレビ放映です。

アクションのカッコよさとド派手さ、物語の面白み、音楽の高揚感、キャラクターの魅力、ほのかに匂わす官能性…すべてが完璧で、いったい何度見返したことか。

むろん、ロボットを動かす長い呪文の言葉もソラで言えます、はい。

それ以降、『カリオストロの城』『風の谷のナウシカ』で完全にのめり込み…、我々の世代では珍しいことではありませんが、宮崎駿の虜となったのでした。

その宮崎駿の最新作『風立ちぬ』は、賛否はありますが、私には驚くほどの大傑作。
70歳を超え、まだ最高傑作と言わしめるものを作るエネルギーの強さには、頭が下がる思いだったわけです。

その監督が、どういうわけか引退宣言をし、記者会見まで開いてしまい…
残念さを通り越し、脱力感を覚えるほどだったわけですが。

ジブリのドキュメンタリーである本作を観て、改めて思いました。

ほんとは、まだまだやる気なんでしょ!?

じぶり


さて。

本作はドキュメンタリーなので、あらすじはありませんが…、「スタジオジブリの『風立ちぬ』制作現場を映し出し、そこから宮崎駿の引退会見までを追っています」という物語。

物語…いや、ドキュメンタリーなんで物語ではないはずですが…、美しい映像と音楽、情緒ある演出にあふれ、優れたドラマのような感動がありました! 
ジブリ好きなら、必見です!

ただ。

本作では、ジブリの知られざる一面といった、新しい発見はありません。全て、これまでの他のドキュメントや書籍でおおよそ見知っていたか、想像できていたものに過ぎません。
本作の監督・砂田麻美監督がジブリにお邪魔し、その風景を淡々とカメラに収めているだけです。

この点に関しては、NHK制作のドキュメンタリーの方が突っ込んでいます。
なにせ、激高してスタッフを叱り、恫喝までしている宮崎駿の姿をおさめていましたから。撮影者まで、「君は無神経だな!」と激怒されていますし。

本作には、そういった震え上がるような緊張場面はありません。
若干、息子の宮崎吾郎がスタッフと揉めてる場面が出てくるくらいです。

本作のキャッチコピーに、「ジブリに忍び込んだマミちゃんの冒険」とありますが、冒険というよりも、お泊まり会に参加したみたいな感じかな。

ゆえに、タイトルのような「狂気」はあまり感じなかったです。

…ま、そうはいっても、今や偏屈者の代名詞・宮崎駿に付いて回るということは、確かに冒険といえば冒険か。
普通の神経の人なら、胃がシクシク痛みそうなものですね。

さて。

前述した通り、本作の特筆すべき点は映像の美しさです。

映像が美しいのか、そもそもジブリが美しいのか。
窓からの風景が、こんなにも絵になる職場はなかなかあるものではないです。
四季折々の風景が、その窓から見て取れます。
宮崎駿のアトリエも、シンプルでいて、こだわりの調度品が並んでいます。
緑の生い茂った屋上も憧れます。
階段のてすりの曲線さえ、まさに『風立ちぬ』で主人公が見惚れた魚の骨のごとく、美しいです。


じぶり5


乱雑に見える制作現場も、所々に気の利いたデザインのスケジュール表や励ましのお便りなんかが並び、観ていて飽きません。時間に追われるお仕事でしょうに、こんなにもひと手間かけたデザイン画をよくも作れるものだと感心します。奇跡のような美しい本作のポスターも、もともと現場に張られていたものと聞いて、驚きました。

本作で見ものだったのは。

すでに一度テレビで放映された場面ですが、『風立ちぬ』の主人公・二郎の声優が庵野秀明に決定した瞬間でした。
(庵野秀明とは、言わずもがな、『エヴァンゲリオン』の監督です。今や宮崎駿と双璧をなすアニメ作家ですね。)

「庵野はどうだろうか…?」と宮崎監督が思い立ってから、本決定までの流れは見応えがありましたよ。
あり得ないほど夢の競演だと思うのです。
二人は師弟関係といえど、お互いの作品は常に批判し合ってますので、共同で同じ作品に携わるなんてあり得ないと思っていましたもの。

…その他のスタッフのみなさんは、別の意味で「あり得ない…」という顔をしていましたけど…。

けれど、これは、我々世代の「夢」ですよ。

これ…
さすが鈴木さんだと思います。(鈴木さんとは、ジブリの名プロデューサーです。)

きっとこれ、推測ですが、鈴木さんによる、「ワクワク」を作る仕掛けだったのだと思います。
だって最初に、「(主人公の声は)素人がいいかも…」と口にしたのは鈴木さんです。

そのあと、「庵野どうだろうか…」と思案する宮崎監督に、「彼がやったらリアリティ出ますよ」と追い打ちをかけています。
それも、実にさりげない言い方で。うまいなーと思いましたもの。

そして、本決定した直後の「笑いをかみ殺すような感じ」の鈴木さんの顔。
そこに、「してやったり感」を感じたのです。

これを観て、「あー、この人はこうやって、宮崎駿という偏屈者を操縦してきたのだなあ」と感心しました。

直接的に言わない。説得しようとしない。仄めかし、考えてもらい、宮崎監督自身で決めたように仕向ける…。
頑固な人や素直さに欠ける人に効果的な方法です。

ただ。

これは話題作りの戦略だけではなく、鈴木さんにとって単純に、「それってワクワクするよね」という発想だったのだと思います。
鈴木さんは以前のインタビューで、「やっぱり宮崎駿の活劇が見たい」と漏らしていたように、元来、ジブリファンと同じ感覚を持っているのだと思います。

じぶり6


ところで、本作には、もう一人の巨匠「高畑勲」の姿はほとんどありません。
ありませんが…

皆が口々に語る、「高畑勲の大変さ。」が印象的です。

何年も付き合っているプロデューサーからこぼれ出る、「高畑勲の大変さ。」
『かぐや姫の物語』の記者会見でも滲みでる、「高畑勲の大変さ。」
宮崎監督も、「あの人がいたおかげ」と言いながらも語る、「高畑勲の大変さ。」

終盤にとうとう現れた「高畑勲」の姿に、ラスボスのような貫録を感じたのは、「高畑勲の大変さ。」が、まんまと刷り込まれたからでしょうな。

じぶり2


(以下、ネタバレします。)


序盤や中盤は結構淡々としていて、やや退屈を感じることもありましたけど、終盤、怒涛のように、叙情たっぷりな演出が始まったあたりから、ちょっと涙腺がゆるみまくりだったものです。

それが以下の2点。

・宮崎駿が空襲の思い出を手紙にしたため、砂田監督が読み上げる場面。
ジブリに全く関係ないことですけど。
美しいピアノの盛り上がりとともに、否応なく気持ちが高ぶります。大昔の写真も使ったりしながら。
そういった過去を乗り越え、今につながっているという感じで。

面白いエピソードとしては、宮崎監督は空襲の際に人に助けてもらえたが、高畑勲は誰からも助けてもらえなかったそうです。
その違いが、二人の違いを生んだと宮崎監督。

・宮崎駿監督の衰えぬ空想力。
ここは、凄いんですよね。
まるで打ち合わせたかのような。台本があるかのような。

引退会見の本当に直前のこと。
高いビルの窓から見下ろし、家々の屋根を眺めながら、宮崎監督は言うのです。
「キャラクターがあの屋根をつたい、配管工を通り、電線の上を走っていくのを想像すると、このつまらない街が、とたんに素晴らしい映画の舞台になるんだ」

そして、その語りとともに。
ルパンが! ナウシカが! パズーが! ネコバスが! ハウルが! ポニョが! 
まさに懸命に、奔放に、自由に、優雅に、力の限りに、全力疾走していく場面が次々にインサートされていくのです。

…すごい演出とタイミング。
よくもまー、宮崎監督からドラマティックな語りを引き出したな!

じぶり7


それにしても…、宮崎監督の想像力たるやちっとも衰えていないものです。
この終盤の語りは、まるで宮崎監督が、「まだまだ、まだまだ」と再始動の予告をしているような…、そんな期待を持たされたりしたのでした。

『風立ちぬ』のアフレコが終わり、鈴木さんに車で送ってもらっている車中で、庵野監督は言います。
「宮さん、もう一本いけそうですね。そんな勢いですよ…」

先程の、キャラクターが疾走する想像を巡らせた時、宮崎監督も言っていました。
「そうして…どこまでも、走っていける気がするんだよなあ」

じぶり3

その他、印象的なところ。

・引退会見の映像は使わず、宮崎監督と鈴木さんが会見場に入って、ドアがパタンと閉まったところで暗転する演出がニクい。

・ラストカットも映画的でニクい! 巧い! ぞくっとしました。

・猫のウシコと警備員のおっちゃんとのやりとりが、なんだか面白い。

・若い力を吸い取って自分のエネルギーにしている宮崎監督…って、ほぼ妖怪です。

・庵野監督は、元気ないですね。「真・エヴァ」大丈夫でしょうか。

・逆に宮崎監督は、元気すぎるくらい元気。養分吸い取ってんなー。

その他もいろいろあるけど、この辺で。
うーん、まだまだ観ていたい。
ジブリの風景が、まだまだ続いてほしいと願うのでした。

※そして! 2017年、宮崎駿長編映画再始動が、案の定、名言されるのでした!


  

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Posted on 2014/07/13 Sun. 21:11 [edit]

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