素人目線の映画感想ブログ

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ソナチネ(2度目) これが、北野映画の最高傑作。 


 ソナチネ [DVD]
 ソナチネ
 (1993年 日本映画) 85/100点


北野武監督の17作目の新作「龍三と七人の子分たち」の予告編を見て、「なんじゃこりゃ?」と思いました。まーカラフルでにぎやかで楽しげだこと。「アウトレイジ」でも、武は随分撮る映画が変わったなーと思いましたが、もはや…ゴースト監督じゃないかと疑っちまうくらいの振り幅です。

様々な意見はありましょうが、北野映画が海外で評価をされ出したのは4作目「ソナチネ」からだったと思います。イギリスのBBCが選ぶ「21世紀に残したい映画100本」の中に選出されるなど、本作をきっかけに「キタニスト」なる海外ファンが増えていきました。また、独特の映像美が「キタノブルー」と呼ばれるようになったのも本作からです。

   ソナチネ5


本作は、北野映画の最高傑作だと思います。
本作を見ずして北野映画は語れないのです。決して、「『アウトレイジ』程度で『世界の北野』ってどうよ?」などと誤解してほしくないのであります。
今回、たまたま再鑑賞してみたら、やっぱり凄い映画だと再認識したものだから、何がそんなに良いのかをオススメシーンをあげながら書こうかなと思いました。なぜなら、だ~れも見たことがない映画だから悔しくって。

あらすじは、「村川組組長・村川(ビートたけし)は、トラブル処理の為に上層の親分から沖縄へ行くことを命じられる。大した揉め事ではないはずだったが、次第に死の危険が迫って来る…」というお話。

ま、お話自体はシンプルです。何もひねりがありません。
本作の醍醐味は、忘れ難いほど鮮烈な映像・演出が醸しだす特異な空気感にあります。


ちょっと文が長いので、本作のメインテーマを聞きながらどうぞ。



○安心できないトイレ
序盤は都会が舞台です。北野監督の9作目「BROTHER」でも、アメリカに舞台が移るまで若干だれる面がありましたが、本作でも比較的単調です。
が、トイレ内で突発的に巻き起こる暴力シーンには目が覚めるような恐怖を感じました。村川が自分を舐めきった上層の組の幹部・高橋をメッタメタに殴りつけます。拳の勢いと効果音がすごいものです。ついさっきまで緩慢な高級クラブシーンだったもので、余計にドキリとします。
面白いのは、その後に村川が会合にてケロっと高橋の前に姿を現すところ。
こういうのって「アウトレイジ」でもありました。歯科医院で散々に痛めつけられた石橋蓮司と痛めつけた張本人のたけしが普通に顔を合わせてる場面…。おかしさもありますが、何か大人の腹の探り合いをしているようで面白いです。

「オレが沖縄に行ったら嬉しいだろ」と軽口を叩く村川に、「ああ。安心してトイレに行けるしな」という高橋の返しが100点ですな。

   ソナチネ


○沈むクレーン
村川組へのショバ代要求をはねのけた雀荘の主人がクレーンに吊るされます。
吊るして…そして海中に沈めるのです。
この顛末に至るまでの淡々とした流れも怖いですが、「殺す」という感覚がマヒしている村川らヤクザたちの凍るような残酷さが表れていてヒヤリとします。
「まず2分沈めてみっか」
と2分海中に沈めてから引き上げたら、まだしっかり生きてるもんだから、「なんだ生きてんじゃねーかよ、じゃあ次は3分な」と気分はリアル・お笑いウルトラクイズみたいです。「聞いてないよー」という声が聞こえてきそうです。おまけに、3分と決めておいたのに、別の話題を相談している間に「あら、3分過ぎちゃったな」となるあたり。コントならよくあるネタを、現実にマジでやって「死」に至らしめるという恐ろしさ。
雀荘の主人が「やめてくださいよー」とばかり連呼するセリフもまた、余計にリアルで恐い。


○スナックでの銃撃戦
沖縄にやってきて、事務所が爆破され、不穏な空気が流れる中でスナックに行く一同。
極めてローテンションです。だったらホテルに籠ってればいいのに…ってくらいに沈んだ一同。
その空気を読まず、能天気に「女の子を呼びますね」と言う小さなマツコ・デラックスみたいなママが気まずいです。
と思っていたら。
突然の銃撃。
当初、最初から店内にいた複数の客を怪しいと睨んでいた村川。その後、さらに怪しい客が入ってきますが…。我々観客は銃撃が始まるまで、どこの誰から弾が飛んでくるのか分からず、身構えるヒマもありません。
武映画の銃撃戦はとにかく特徴的です。バカなの? ってくらいに隠れたりしません。ぬぼーっと突っ立って「パン、パン、パン」と撃っているだけ。これが無機質でものすごく怖い。誰に、いつ弾があたるかわからないのです。
ひっきりなしに鳴る銃声。敵も味方も次々に倒れていき、最後にシンとなる「死」の静寂。
撃たれた仲間の荒い息が段々と静まり、カックリと落ちる頭。「死の淵」を生々しく描きます。

   ソナチネ4


○沖縄の海とヤクザ
実はここから本作の素晴らしさが、これでもかと綴られていきます。ここからなんです。
海辺のボロ小屋に身を隠す村川らヤクザ一同は、何にもやることのないこの広い浜辺でヒマをつぶします。村川のキャラクターが序盤とまるで変っている気がします。冷徹だった村川が、次第に童心に還るように無邪気になっていくのです。

・ロシアンルーレット
浜辺にて銃でウィリアム・テルごっこをする二人の若手組員・ケン(寺島進)と良二(勝村政信)に割って入り、村川がロシアンルーレットを強要します。ここ、大好きなシーンです。ここから、映画は不思議な匂いを立ち込めらせていくのです。
にこやかに、とんでもないことをやらかしそうな村川の凶暴性と、その反面に純粋さが光ります。

・落とし穴
渋顔で大真面目なヤクザ・片桐(大杉漣)の落ちっぷりが楽しいです。片桐は当初、物語序盤で死ぬ予定だったらしいですが、見事な「いじられキャラ」を披露したためか、終盤まで生き残ります。

・紙相撲
ヤクザ者たちが部屋でこっそりとやること。それは大抵は「花札」や「麻雀」とかでしょうけれど、彼らは「紙相撲」をやります。トントントントントン・・・負けた村川が「よおし、じゃあこれだ」と小さな紙の関取を取り出し、「何すか、それ」と聞かれて「舞の海」と答えるあたりが、緊迫した渦中だからこそ、なおさら微笑ましいです。

   ソナチネ6


・花火
打ち上げ花火は人に向けてはいけません。しかし、彼らヤクザはそうはいきません。それを使って浜辺で銃撃戦ごっこを始めます。結構長く撃ちあいます。地味ですが、印象に残る名場面です。というか、こんな「遊び」を今まで見たことがありません。絶対にやっちゃダメなやつです。テンションが上がりきった村川は、本物の拳銃を撃ち始めます。「ひゃー人殺しー!」と逃げ惑う手下たち。楽しそうです。

   ソナチネ7


これらの意味のない遊びがしばらく続くうちに、危険が遠ざかっていくような錯覚を覚えます。
彼らの「無邪気さ」は次第にエスカレートしていき、もはや子供が浜辺で遊んでいるようにさえ見えるのです。
このまま和やかなひと時が過ぎていけば良いのにと思わせておいて…。彼らが抱えていた「現実」は、突如として返って来ます。村川たちだけではく、我々観客にも叩きつけられたような悲しみを感じさせます。

○エレベーター内での銃撃戦
本作はもともと「ダイハード」みたいな映画を目指して製作されたそうです。実際は全く違います。これは、北野監督がプロデューサーから製作資金を捻出させるための方便だったようです。
が。
面白いことに、「ダイハード3」よりも先に、「エレベーター内での銃撃シーン」をやり遂げました。
アクションとしての名場面、本作でも1,2を争う衝撃を与えます。
村川が、仲間の仇打ちに高橋を訪ねてホテルへ入ります。混みあったエレベーター内で、たまたま高橋や殺し屋と遭遇し、狭い空間でのめちゃくちゃな銃撃戦が始まるのです。遮蔽物なしの銃撃戦は北野映画のお約束ですが、これほどまでに逃げ場のない先に撃ったもん勝ちの銃撃戦をやらかすとは。このショッキングな発想が、「アウトレイジ」での奇想天外な暴力シーンにつながっていくのです。

   ソナチネ10


○復讐のマシンガン。
ラストの討ち入りです。すべての元凶である上層組の親分の会合で、村川はマシンガンを撃ち続けます。といっても、無論、ここでも普通には銃撃戦を描きません。一番派手に見せられるはずのこのシーンですが、なんと、この見せ場のほとんどを窓の外から見える光のフラッシュで表現しています。チラチラと暗闇で炸裂するマシンガンの煌めき。建物の外からその光景を見つめる良二は、恐ろしさのあまり逃げ出すのです。


○素晴らしい役者陣。
とにかく今見ると豪華。でも、当時はまだみんな無名。北野映画は男優は出世します。悲しいかな女優は失速します。
寺島進、勝村政信、大杉漣がめちゃくちゃいい味のヤクザを演じます。とにかくファニーです。大杉漣だけがきちんとした(?)やくざ気質で、時折相手に怒鳴りつけてキレてみせますが、不思議な沖縄のオーラに巻かれて完全に浮いた感じになっているのがまた面白い。それから、殺し屋を演じたチャンバラトリオの南方英二の凄味。素晴らしいキャスティング能力です。意外にも、津田寛治が冒頭のウェイター役だったことにはビックリした。


○印象を擦りつけてくるBGM。
アカデミー音楽賞を獲得していたと思います。日本の、ですけど。
これまた凄い名曲の数々だと思います。
メインテーマの恐るべし重量感。暴力と悲しみ、まさに映画と同じ印象の曲です。
また沖縄民謡をアレンジした曲が良い塩梅のとぼけた味わいです。その曲に合わせ、殺し屋が標的を求めてさまよう場面の不思議な空気といったら。

   ソナチネ11


というわけで。

本能で「死」に向かって突き進むレミングのような面々が、最後に直面した光景はまるで「浄土」でした。
乾いた物語にも関わらず、沖縄(石垣島)の熱量とともにじわりと伝わってくる緊張感。降りかかる「損」にあがらうようにおどけてみても、結局拭えない喪失感などなど。北野映画独特の「暗み」が病みつきになります。

この頃の北野映画は、無駄な描写だらけのように見えて、実は極限まで「無駄」を排除した引き算の演出が見事なのですが、北野映画はこれ以降、「これ見よがしな感傷」が滲むようになり、「観客迎合ともとれる娯楽性」が見え隠れしていきます。
それはそれで面白いのですけど…本作のような神がかり的な「自分勝手」な映画を、是非もう一度見たいなと切望してやみません。

   ソナチネ13


 

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Posted on 2014/12/13 Sat. 19:44 [edit]

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コメント

 

はじめまして。
この映画は演出と間、映像美が最高の映画だと思います。

私が印象に残ってるのは浜辺でリアル紙相撲をするシーンです。
カメラが水平を保ったまま上がっていく。
この映像を作れるのは北野さんだけですね。

ラストもカメラが上がっていくが、これがかっこいい。
引き算の法則というか、光の点滅だけでこんなかっこよくなるのかと衝撃をうけました。

私としては90点以上の作品です。

URL |  #- | 2014/12/13 22:01 | edit

 

コメントありがとうございます。

リアル紙相撲は斬新だし、遊び心が芸術性をともなった素晴らしいシーンだと思います。
「あの瞬間、観客が『神の視座』となり、運命に翻弄される者の悲しみを…」
などと分析する海外のインタビュアーがいたらしく、
解釈がかっこいいので、武は「そう、そんなんだよ」と採用したとか。

ケンが殺し屋に撃たれ、それまで和んでいた空気が「罰」のように締め付けられるのが心に残りました。

本当に名作なんだけど、ほんとに誰も見ていないので広めたいなあと思うのですが。

ただ、女の人の描き方だけはやっぱりダメで、これだけはVシネマレベルのような気がします。
それさえなければ95点でもいいですよ。


URL | タイチ #- | 2014/12/13 22:59 | edit

感想を読んで 

はじめまして、ジャックというものです。

一度この映画を観た時に「言葉にはうまく表せないけど面白い」という感想を抱き、記事にもしましたがはっきりとどう面白いかがわかりませんでした。

ですが、こちらの記事で場面や出来事について詳細に良さを語られることで「ああ!そうだ!こういうとこがよかったんだよ!」と再確認できました。



本作ではトイレのシーンの他にも、「こんなガキども連れてくのか?遠足じゃねえんだぞ!」と言って刺されたヤクザが刺した奴にアイスをすすめられて「腹がいてえからいらねえよ」という切り替えしをしたシーンもナイスだと思っています。

「龍三と七人の子分たち」で感じましたが、北野作品は「アウトレイジ」レベルの意図的な娯楽性を含ませるまでは良かったのですが、本人の老いもあるからか計算でなく本気でキレというか尖った感じが消失したように思えます。

URL | ジャック #- | 2015/06/22 13:51 | edit

ジャック 様 

コメントありがとうございます。

切り替えしのシーンはよかったですね。
全く他人事のように「アイス食べます?」って聞く若造がいいです。
とぼけてるわけでなく、天然なのがいいです。

監督、人が好きなんだなあ、と思わせます。

それから。

昔の作風は、「映像ありき」だったのです。
ソナチネも、「エレベーターの銃撃シーン」がまず
頭に思い浮かび、そこからストーリーを作ったと聞きました。

「こういう映像が見たい」という発想が全てだったのです。
だから、北野映画は極めて感覚的な映画でした。

それが、今や「論理」に走るようになり、
ストーリーに走るようになっていて、
いまいちノレません。

まあ、好みの問題なのでしょうけれど。

URL | タイチ #- | 2015/06/22 20:25 | edit

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