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アメリカン・スナイパー 戦争に適した人間なんていない。 


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 アメリカン・スナイパー
 (2015年 アメリカ映画) 89/100点


<結末には触れません。>


本作「アメリカン・スナイパー」に関して、「戦争賛美だ」「アメリカ万歳映画だ」というクレームが巻き起こっているそうです。「風立ちぬ」の時にも同じような批判の声を聞きましたけど、「本気で言ってるの?」と首をかしげたくなるばかりです。どちらの作品も、一ミリたりとも「戦争を美化」していません。本作を見て、「戦争かっけー!」「戦争やりてー!」となりますか。絶対になりません。

本作から感じられることは、戦争がいかに残酷であり、地獄であり、ゆえに人の心を蝕むのかという現実です。
それとともに、砂地獄のように戦争から抜け出せないアメリカの憂いを目の当たりにし、とても悲しい気分になるのでした。

あらすじは、「家族を置いてまでイラク戦争に狙撃手として従事したクリス・カイルは、一人また一人と敵を排除していく。次第に伝説と言われるほどの活躍をしていくが、彼の心は帰国してもなお穏やかになることはなかった…」という実話。クリス・カイルの手記「ネイビー・シールズ最強の狙撃手」を元に映画化されています。

スナ


大傑作です。観に行って、決して損をすることはありません。
もちろん、戦争を好きになることもありません。
そして、本作の悲しい後味に、しばし呆然とすることと思います。

ひょっとすると。

アメリカ万歳となるどころか、どちらかというと…アメリカ可哀想と思ってしまうかもしれません。
なにゆえ、彼らは戦争を続けなければならないのか。
このイラク戦争はつい最近の出来事です。60年以上前にとっくに戦争を放棄している我々日本人にしてみれば、アメリカが今だ戦争を強いられていることが信じられません。アメリカにはアメリカの「やらねばやられる」という正当な論理があるのだとは思います。日本だって、結局は代理戦争をアメリカにお願いしているような立場だから、偉そうに「戦争反対」なんて言ってられないとも思います。

とはいえ、本作で描かれる圧倒的な戦場の現実は、平和ボケの日本人に容易に受け止められる類のものではないのです。
いつ敵が襲ってくるかわからない。
いつ弾が飛んでくるかわからない。
いつ大切な人が死んでしまうか分からない。

そして。
いつ人を殺すことになるか分からない。

こんな戦場に放り込まれ、明日にでも死ぬかも…それもひどい死に様になるかもしれない日々を過ごすことになったら、人間だったら平気でいられるはずがないのです。

スナ4


主人公・カイルは、シールズというアメリカでも最強の特殊部隊の隊員です。序盤で描かれている通り、「死んでしまうのでは?」と思えるほど過酷な訓練を乗り越えた男たちです。カウボーイ気質のカイルは、滅法強い腕っ節や愛国心からシールズに入隊し、狙撃の才能を開花させるのでした。
しかし、そんな屈強な彼らの心にさえ、容易に「戦争の恐怖」はこびりついていきます。
彼らにとって、真の敵は「恐怖心」なのだと思います。それは、自身の命が危険にされされることによってだけではなく、敵を殺すことによっても生み出されるのです。そして、それは隊員たちに「戦争の意義」を疑わせていきます。

「本当に正しいことをしているのか?」

そう疑問に思ってしまった戦友は、直後に戦死してしまいます。
カイルは言います。「そんな疑問を持つから死んだんだ」と。
後に彼は、160名以上の敵を射殺した事についてこう言っています。「仲間を守るために殺した。だから後悔はしていない」と。

ためらわず「自分たちは正しい」と思い込まなければ、戦場を生き抜くことはできないのです。
そしてそれがまた、戦争が限りなく続いていく理由でもあるから厄介なのです。

 ドラ戦争

有名なドラ氏の言葉にもある通り、お互い、自分の正義を信じて闘っています。
そして、それはある意味どちらも正しいのだと思います。
双方にとっての最大の正義とは、「国を守ること」そして、「家族を守ること」なのです。それを脅かす存在は、いかなる理由があろうとも「悪」であり、排除すべき存在なのです。
その想いは、人間が人間としてあるべく携えた倫理観さえも削ぎ落していきます。
たとえ子供であっても、対戦車手榴弾を持ち仲間に向かっていく者にカイルは照準を合わせます。
敵側もしかり。米軍に情報を渡した裏切り者の子供を何の躊躇もなく痛めつけます。
戦争の狂気は子供さえも犠牲にする、という信じがたい最も凶悪な事態を、クリント・イーストウッド監督は省かず描き出します。観ていて、終始おののきました。

スナ2


さて。

本作はそんな重たいテーマの映画なのですが、実は…実はですね、難しい顔しておいて、ちゃっかりヒーローアクションの面白みもこっそり入れちゃってたりしています。それは、カイルと同じく凄腕の狙撃手であるムスタファという強敵の存在です。ムスタファはシールズの面々を翻弄します。スナイパーというのは…やはり非常にいやらしい存在です。マイケル・ムーアが「スナイパーは臆病者」と言っていますが、確かにオンラインゲームで「スナイプ」されると異様に腹が立ちます。正々堂々と対峙せず、見えない所に隠れて気付かれない間に撃つというのは武士道に反します。西部劇でも、背中を撃った男は卑怯者呼ばわりです。このムスタファ、1,000m先からでも正確に狙撃してくる非常に厄介な敵キャラとなっており、うまいこと映画の盛り上げに機能しています。
敵側の「処刑人」と呼ばれる男が罪のない者をいたぶっている局面で、カイルたちが阻止しようと行動しますが、行く手をムスタファにまんまと遮られてしまいます。残念ながらこの場面では、敵のあまりに非道さに「いけー! やっちまえー!」とまんまと戦意高揚させられてしまったから、さあ大変。実は…ちょっと「アメリカ万歳」な場面もあるんだなあと…少しですけどね。

スナ5


カイルはその後、仲間を殺された恨みからムスタファを執拗に追っていきます。

ムスタファとの対決場面が熱いです。いや、「熱い」などと言ってはいけない類の映画のはずなんですが、そこは監督、ちょっとエンタメ入れてきたのか余計な演出が施されていて戸惑いました。そこ、そんなCGいらんかったなーって。映画に根差す軸がぶれた瞬間のような気がしました。「ゼロ・ダーク・サーティ」ばりの乾いた演出で良かったと思うのですが。

しかし。
ムスタファの登場場面では、ちらりと彼の無垢な妻子が映ったりします。明らかにカイルと同じ家族環境であることを演出しています。みな、「家族を守りたい」その一心というわけで…。

カイルは帰国しても異様に血圧が高かったり、緊張状態が抜けません。家にまっすぐに帰らず、BARで独りで酒を飲んでいる場面にドキリとします。常に耳元では戦場の爆音や銃声が鳴り響いています。
それでも、彼を戦場に駆り立てたものとは一体なんなのでしょう。やはりそれは、「自分にしか守れないものがある」という強い責任感だと思います。そして、間違いなくそういう強固な信念を持つ者が戦場を制します。そして、我々はその選ばれし戦士たちに戦争をおっかぶせ、カイルいわく、何事もないようにショッピングセンターで買い物をして平和を享受しているのです。携帯電話で簡単につながるすぐ先に過酷な戦場があることも知らず。そこでの犠牲に気付かず、あるいは目をつぶって。

そして。

信じがたい衝撃のラスト。
これは一般にも知られている事実ですが、ここでは触れません。

常に「誰かを救いたい」と切望していたクリス・カイルに訪れた、あまりに皮肉なこの結末は…ただ…あんまりです。
彼を見送る妻の不安なまなざしが、静かに流れるエンドロールの中、ずっと頭を離れることはありませんでした。


   

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Posted on 2015/02/24 Tue. 00:04 [edit]

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