素人目線の映画感想ブログ

素人による、素人のための映画感想・レビュー。 映画文法や方程式なんのその。

※ネタバレがある時は、必ず<赤字>で標記します。点数の説明はこちら。

紙の月 /とことん行け。どこまでも走り抜け。 


 紙の月_01
 紙の月
 (2014年 日本映画)
 84/100点



胸がざわざわする鑑賞でした。
落ち付かなかった。
鑑賞後、腹の中に泥のくさびを打ち込まれたような、重たい気分が残ったものです。

衝動。

何の衝動か。
自由を謳歌した者への憎しみか、羨望か。

この手の映画は、ラストには好き勝手に欲をむさぼった人間が、正義の鉄槌を振り下ろされて終わります。

「勝手なことした奴には、天罰が下るもんだ」と、最大限に倫理的な結末で終わるものですが…

本作は違った。まさかの結末でありました。
鳥肌とともに、実に複雑な感情が巻き起こったのでした。

さすがの吉田大八監督。
前作「桐島、部活やめるってよ」に続き、とても印象的な傑作を生みだしております。

あらすじは、「主婦であり銀行員である梨花(宮沢りえ)と大学生の光太(池松壮亮)は、出会ってすぐに不倫関係に堕ちる。光太が借金をしていることが発覚してから、梨花は銀行のお金に手を付けるようになってしまう。横領の手口は次第に巧妙になっていくが、同僚のベテラン行員・隅より子 (小林聡美)は、梨花の不審な行動に気付く…」というお話。

紙


<ネタバレ全開です。>


序盤は、「なんだかなー」という印象だったんですよ。
主人公・梨花が、不倫したり大胆な横領に手を染めていったりする動機が弱くって。

旦那がDVであるわけでも、貧乏なわけでもなく、どちらかというと裕福で幸せな家庭環境なのです。
もちろん、旦那は仕事人間である為にあまり構ってくれず、梨花に興味を持っていないように見えます。
しかし、それは旦那が忙しいせいもあり、不器用でもあり、鈍感であるだけで、恐らく梨花への愛情は普通にあったのだと思うわけです。

つまり、梨花が「不倫関係」に走る動機が、すべからく弱いわけです。

横領についてもしかり。
ちょっと借りるだけ…、と顧客の金に手を付け始めるのですが、次第にとめどない贅沢三昧に走り出す過程が唐突でした。
単に物語をセンセーショナルにしたいばっかりな展開に思え、冷めていきそうになるのでした。

ついでに言えば、二人の情事に流れる音楽も一時代古臭いような気がします。
おまけに、宮沢りえが頑張っていると言いながら、海外の女優に比べると、突き抜けていない濡れ場もやきもきするのです。

しかし。

ついに明かされるのは、梨花の本性。
大人しくて気弱で、流されやすい性格に見えた彼女の本当の気質を知るにつれ、映画への興味が渦を巻いてうなぎ登っていくのでした。

この点、もうちょっと早めに匂わせておくべきだったように思います。
そう…、彼女は普通の人間ではないのだ、ということを。

本作の宣伝やあらすじには、「平凡な主婦が…」とあります。
しかし、私は思います。

彼女は、間違いなく「サイコパス」です。

決して「平凡な主婦」ではありません。
こういう物語の説明には、よく「誰もがちょっとしたキッカケで闇に陥る」とか言ったりしますけど、普通の人はこんなにあっさりと闇に堕ちません。
凡人は、日常が壊れる事に怯え、恐ろしくってこんな罪に手をかけません。

梨花は違います。
「目的を達成するためには手段を選ばない」気質が、病的に強い人間だったのです。

自分の大事な人(可哀想な人・自分を必要としてくれる人)に施しを与える為に、他人の金を使い込むことに何ら罪悪感を持ちません。
学生時代に、彼女がボランティア募金の為に自宅からお金を盗み出していることからも一目瞭然です。
その描写の瞬間、「悪の教典」にも似た異常性サイコパスの物語がついに首をもたげて現れたのでした。
私はやっと腑に落ちたのです。そういうことだったかと。

それからというもの、梨花の表情ににじむ「狂気」が、そらもう、恐ろしくて。

hebi.jpg
終盤の梨花の心象イメージは、ほぼこれ。 

…彼女のターゲットである痴呆の女性が大事にしているペンダントを見て、梨花は「ニセモノなのに」と冷淡に口に出します。

最初の横領発覚時には、次長への巧妙な脅迫で切り抜けます。

上海栄転の旦那をよそに、「私は付いていけないから」と魚のような目をして突き放します。

彼女の罪を暴いたより子に向かって、きりっと睨み、難癖を付けます。

彼女は、自分の行動を省みることなく、さらには、人の感情に無頓着になりえる悪魔だったのです。

そして、彼女には「筋道」を考える力がありません。
この先どうなってしまうのかという心配など、大してないのです。
時折、空しさや不安を抱えているような描写もありましたけれど、それはただのポーズに過ぎず、本当は一切ないのです。

初めての朝帰りの際に、うっすらと空に浮かぶ月を指でなぞって「消してしまう」妄想で、彼女は自分の行動すべてを「肯定」させる決意をします。

「うそよ、うそうそ、全部うそよ。だから、何をしたって、怖いわけない」

「狂気の中では、狂気は正気である」と言わんばかり。
彼女は、自分の存在意義を確認できる「施し」という目的の為になら、もはや前後の思考なく遂行していけるのでした。

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ついでに言うと、これまで欲を抑えてきた理性が決壊してこうなったように思われがちですが、いやいやどうして。
彼女はきっとこれまでも、奥ゆかしいフリをしながら、その実、好きに生きてきたと思いますよ。

彼女の同僚の若い女子行員(大島優子)が、散々遊んだ挙句に公務員と結婚したのとは比べ物にならない「計算力」で、彼女はエリートサラリーマンと結婚したと推測します。

その後、ふいに退屈になって、恐らく反対したであろう夫をうまいことコロがして、まんまと思い通りに働き始めたのです。
そして、彼女の横領の手口の華麗さから見るに、これまでも何度かシュミレートしていたのではないでしょうか。

「男との出会い」は引き金に過ぎず、彼女にはもともと弾が込められていたのだと思います。
「シャイニング」のジャック・トランスのように、彼女は最初(ハナ)から狂っていたのです。

などど…、私は妄想しました。
なぜなら私には、とても「普通の人間」がこんな罪を犯すとは思えないからです。

「あれもダメ、これもダメ」の制約だらけで生きているのは、皆同じです。それを全て崩壊させた彼女は、やはり断罪されるべきであり、モンスターであると断定されるべきだ、と私の倫理観が告げるのです。

そうじゃなくっちゃ…

けれど。

規則の鬼であるより子に激しい衝動を走らせたように、梨花の奔放は、確かに美しいものに見えました。
それが、たまらなく悔しくて…、恐ろしい。

終盤の展開には、心底驚愕したものです。

行くのかっ。とことんまで…

梨花がガラス窓をぶち破り、唖然とするほどのびのびと走り去る姿に、心の中は完全に虜になっていました。

どこまでも逃げ去れ。それが本当は、「正気」なのかもしれないぞ。

常識も規範もない「自由の美しさ」を見せつけられ、思わず「肯定」してしまのは、自分の中の潜在的な「渇きのようなもの」を梨花に掻き出されてしまったからなのかもしれません。

衝動。

揺さぶられるような気持ちで、しばらく呆然としたものです。

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それから蛇足ですが。

一番極悪人なのは、当然、梨花の不倫相手の大学生です。若手の注目株・池松壮亮が演じますが。

…まだ幼い顔立ちでいる割に、喋り方が妙に落ち着いていて甘ったるいものだから…、「見た目によらず大人」というギャップ効果を振りまいています。
しかし断言しよう。こういうヤツは、大抵「ただのいい加減なガキんちょ」なのです(私情挟む)。

願わくば…。
梨花には最後、彼をコテンパンに痛めつけてほしかったのですけど、なんかただのメロドラマ風なお別れになっていたのが残念です。サイコパスなら、サイコパスらしい復讐を見せつけてほしかったなあって。

ラストで彼は、若い女の子と付き合い始め、楽しそうなままです。
完全な勝ち逃げなのです。やれやれ。

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もうちっとだけ。

梨花は異国の地で、かつて自分がボランティアで「施し」をしていた男を見つけます。
死んだのだろうと思っていた少年が、実は立派に成長していたのです。お礼の手紙が届かなくなったと言うのに…

梨花の想いは、いつも実を結ばないということなのですが、だからといって、梨花は不幸でしょうか。
否。
彼女の目的は「施す」ことでしかありません。言うなれば、光太でなくたって構わないのです。
また新たなターゲットを見つけ出し、自己満足な「施し」を続けるのだと思うのです。

どうしたものか、その相手が決して「旦那」ではないってところが、まあ…現実なのですよね。

いろんなことで、胸がざわつく映画なのでした。


   

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Posted on 2015/06/09 Tue. 01:14 [edit]

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コメント

 

この映画を観ることは無いのですけど
まるで観たような気持ちになってます

URL | 鈴木xxx #- | 2015/06/09 17:01 | edit

鈴木xxx  様 

す、すみません。
ほぼネタバレで書いてますもんね…。

URL | タイチ #- | 2015/06/09 17:59 | edit

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