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博士と彼女のセオリー ホーキング、妻と家族を語る。 


 ホーキングポスター
 博士と彼女のセオリー
 (2014年 イギリス映画)  85/100点


理論物理学者として世界的に有名な実在の人物、スティーブン・ホーキング博士の物語です。2015年現在も、73歳と御健在の人物です(ちょっと驚いた)。
ホーキング博士の物語…といっても、難しい物理や宇宙の話がメインの話でありません。物語の主軸となるのは、学生の頃から「筋萎縮性側索硬化症」という難病を患ったホーキング博士と、その彼を献身的に支えた妻との愛情の軌跡。

愛さえあれば大丈夫、なんていう大甘な物語とは違います。
闘病の苦難もさることながら、どこまでが史実なのかは分かりませんが、実に苦みの効いた大人の愛のドラマとなっているのです。大変に切ないので、個人的に大好物な展開でした。

あらすじは、「大学で天才的な能力を発揮していたホーキングは、大学内のパーティーで言語学を専攻するジェーンと出会い、二人は恋に落ちる。しかし、間もなくホーキングは難病を患ってしまい、余命2年と宣告される。別れを求めるホーキングだったが、ジェーンは彼とともに生きる事を決意する」という物語。

ホーキング0


<ネタバレします。>


難病モノの映画・・・というと、敬遠したくなる方もいるかもしれません。彼が患った病気は、アイスバケツチャレンジ(私は、強制的なボランティアには反対ですが)でその名が世界に知れ渡った(知れ渡ったからボランティアは成功と言えますが…)「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」です。身体全体の筋力が衰弱し、呼吸さえも苦しくなって死に至ることもある恐ろしい病気なのです。この病気と闘っていく事は、想像を絶する困難であると思います。
支える家族の苦悩はあり余るものです。体をうまく動かせない為、介助なしでは何もできない夫を支える妻・ジェーンの労力は計り知れません。それに、いつ夫の身に重大な発作が起きるか分からないのです。物語中盤では、急に苦しみ始めるホーキングに慣れたような介抱をしてみせるジェーンですが、その胸中は常に緊張に満ちているのでした。発作が始まるや、苦しむ父を見ていられず、つい顔を背けてしまう子供たちのことも心配で仕方ありません。
この状況が、ものすごくよく分かるので、観ていてツラく思いました。気が休まりません。四六時中、心配なのです。何をしていても浮かれる事が出来ません。家族の誰かが重病を抱えるということは、当人以上に周囲の者が苦しい時があるのです。

その覚悟をしてホーキングと結婚したはずのジェーンですが、気の休まらない日常の連続に、さすがに苦悩を抱えるようになっていきます。病院へあまり行きたがらないホーキングに直接不満をこぼしてしまうのです。
が。
当のホーキングは、それをサラリとかわします。

ホーキング自身は、病気になった直後はさすがに落ち込んでいましたが、ジェーンと結婚して以降、闇雲に不幸を振りまくことをしません。ホーキングは常に笑顔を絶やしません。困った事態に陥っていても、他人を気遣っているのか、悟りきって自嘲しているのか、常ににんまりとした笑顔を見せて安心させてくれるのです。それがかえって気の毒に感じる方もいらっしゃますでしょうが…私は安心しました。無論、彼自身、本当は病気で苦しんでいたことだろうし、無神論者でなければ、神を激しく呪ったことでしょう。しかし、妙にホーキングは他人事のような時があります。否…それは、ホーキングの優しさなのでしょうか。「大丈夫だよ。なるようになるのさ」と言わんばかりの彼の笑顔は、ジェーンを気遣っているからこそ、なのかもしれません。もしくは彼は、献身的で愛らしい妻・ジェーンがいてくれるならば、何も不幸ではないと言ってくれているのかもしれません。

また。
彼には確固たる独特の世界観があります。彼の興味の大部分は、恐らく自分の命よりも何よりも、研究テーマである「宇宙」についての考察を深めることです。それは、世間から尊敬の念で迎えられます。彼の圧倒的に天才的な成果が、彼に降りかかった不幸を吹き飛ばしていました。
ゆえに、彼の笑顔は、私には偽りのものには見えなかったのでした。
そしてそれは、きっと妻・ジェーンにも喜びを与えたはずだと思うのです。

ホーキング3


『風立ちぬ』を思い起こします。
どちらも夫婦での闘病の物語です。「病気」を患っている側が違いますが。しかし、似ているのは、主人公が天然をふりまくメガネの理系男子ということだけではなく、妻が才能に溢れた夫を無心に支える点です。それは、まるで課された責務をこなすかのように芯が強い。さらに言えば、この困難の中で最終的に3人もの子をジェーンが宿すのも、稀有な天才であるホーキングの「有能な遺伝子」を残さねばならないという想いが強くあったからなのかもしれません。思えば二人の学生時代、自分の病気を知って堕ち込むホーキングを、絶対に支えると決意した時の彼女の力強さには、色恋以上の強靭さを感じたものです。

しかし。

『風立ちぬ』とは違い、この物語が極めて苦みを含ませるのは、ジェーンと教会の聖歌隊で指揮をとるジョナサンとの関係です。ジョナサンは妻を亡くしたばかりの男で、人のいい人物です。ジェーンとホーキングの手助けをします。その過程で、明らかにジェーンとジョナサンの心は近づていきます。これは普遍的ではありますが、ジェーンにとって、ホーキングはもはや男性ではなく、保護の対象(あるいは子供)のような存在になっていたのかもしれません。出掛けるホーキングに、思わず「いい子にしなさいよ」と声を掛けるジェーンの言葉からもそう感じます。そこへ現れた頼もしいジョナサンに、ジェーンが心を奪われることは仕方ないことかもしれません。そして…妻に宿ったその秘密の感情に、ホーキングはすぐに気づくのです。

ホーキング4


ここからが、本作の真骨頂ですよ。
何より良いのは、3人のこの時の心情を、丁寧に、表情や雰囲気だけで観客に伝えようとする描写です。後述しますが、演出の素晴らしさとそれに応える俳優陣の巧さが際立ちます。あまり言いたくないけれど、心情をすぐに説明的に口にする日本映画には…見習ってほしいくらいです。ジョナサンを見つめるジェーンの表情、遠くからそれを眺めるホーキング。それだけで、もうこの映画を観て良かったと心から思うのでした。

ホーキングは、なんとジョナサンとジェーンの仲を取り持とうとします。それは、果たしてジェーンにとって喜ばしいことなのでしょうか。ヤケともとれるし、ジェーンを突き放しているようにも見えます。しかし、独占しようとする愛もありましょうが、長年に渡り自己を犠牲にしてきたジェーンへお返しをするように、ホーキングもまた自己犠牲の愛に進みます。ジェーンに幸せなひとときが訪れるのなら、自分のことは構わずに、想うようにしてほしいと…。東野圭吾の『秘密』をちょっと思い出しました。妻の幸せの為に、夫は愛ゆえに愛を手放すのです。これは…泣けます。

しかし、物語は複雑です。ジェーンとジョナサンがついに一夜を共にする一方、ホーキングはオペラ会場で発作を起こし、危篤に陥るのです。

「人工呼吸器を外す」ことを医師から薦められたジェーンは、いつもの力強い眼をして、一蹴します。
その後に続くであろう困難など、まるで気にしない様子でした。
「なに言ってんの? この人はホーキングよ」と言っているようでした。
彼女は、再びホーキングを支える事を決意するのです。

ホーキング5


命を持続させる代わりに、ホーキングは声を失います。本作で一番つらい場面でした。小難しい手法で、ホーキングとの意思疎通を図るジェーンは、無理やりに気を強く持とうとしていることが明らかで、とても見ていられませんでした。

ただ、この問題は意外に早く解決します。ちょっとホッとしました。コンピューターを使用し、人工音声ですが、何とか会話が出来るようになるのです。『潜水服は蝶の夢をみる』では、主人公は瞼しか動かせない状態でしたが、ホーキングはかろうじて指を動かせるので、可能な手法なのでした。これにより、ホーキングはこの先も有名な著作を残すことになるのです。

ちょっと話は逸れますが、本作でアカデミー主演男優賞を獲得した、ホーキング博士役のエディ・レッドメインが凄いです。完璧にホーキング博士を演じています。これは必見なのです。

また、音楽もすごく良いです。ピアノやバイオリンが情緒的に鳴り、印象的でした。

それから。

不満点というほどではないのですが…ホーキングの残した偉業が説明不足のような気もします。知らない間に有名人になっている感じで、彼の生活レベルや世間の評価が分かりにくかったように思います。

<以下、完全に結末に触れます。>


さて。

結末を言いますと…ホーキングとジェーンは別れます。それは、やはりホーキングから提案されました。
ホーキングは、ジェーンと別れ、言語療法士の女性とアメリカに向かうことを決めていたのです。
一時の躊躇の後、感情のない人工音声が告げる別れの言葉は、かえって密度の濃い沢山の感情を押し込めているようにさえ聞こえました。それは、とてつもなく残酷で、美しい感情でした。全てを悟っているかのように。淡々と。そして、彼の微笑みと同じように、穏やかでした。
その提案を静かに受けとめたジェーンは、ホーキングに伝えます。「あなたを愛した」と。
ホーキングは、そこで初めて顔を崩し、涙を流すのです。
過去にさかのぼる時間旅行を否定しているホーキング博士ですが、その時、彼の頭の中では、ジェーンと出会った過去からこれまでの軌跡が巡っていました。それは、フィルムの逆戻しという、ずるいほどニクい演出で表現されます。全てうまくいくさ…そう信じていたあの頃。結果は予想していたものとは違っていても、二人にあるのは、「尽くした」という充足の思いであったに違いありません。それにしても…ノスタルジーに弱いもので、こういう演出には泣かされますね…。

ホーキング6


エリザベス女王から勲章を授かることになったホーキングは、ジョナサンと暮らしていたジェーンを妻として呼び、共に女王と謁見します。二人で築き上げ、二人で手にした栄誉だと、ホーキングは言っているのでした。
「広大」という表現では足りないほど巨大な世界を考察しているホーキングが、ラスト、身近な目の前の家族に眼差しを向けながらジェーンに伝えた言葉は、素晴らしく感動的なものでした。

その言葉とは…実際にDVDでご覧になってください。
その代わりに、「父親として子どもに伝えたいことは?」というインタビューで、実際にホーキングが答えたことを下記に。


ho-kingu hakase
一つ目は、足元を見るのではなく星を見上げること。
二つ目は、絶対に仕事をあきらめないこと。
三つ目は、もし幸運にも愛を見つけることができたら、
それはまれなことであることを忘れず、捨ててはいけない。



↓こちらもどうぞ。
博士と彼女のセオリー/その笑顔に隠されて/映画感想 * FRAGILE


    

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Posted on 2015/09/15 Tue. 20:27 [edit]

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