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岸辺の旅 夫は、本当に彼岸にいたのか。 


 岸辺
 岸辺の旅
 (2015年 日本映画)  80/100点


あらすじは、「3年前に行方不明になった夫が幽霊となって現れる。妻は、夫とともに旅に出る」といったお話。


<ややネタバレしています。>


不思議な幽霊の物語です。

ちょっと話が大きく逸れますが、最近のテレビの心霊映像特集は危ないですよ。
私達の子供の頃は、心霊写真にしても映像にしても、「言われてみれば人の顔に見えなくもない」程度のものでした。だから、胡散臭さと怖さが半々で、バランスが良かったと思います。しかし、最近のそれは、そのものズバリが映っているものだから、小さい子供なんかは、無防備に霊の存在を信じ込んでしまいかねません。
だから、私は心霊映像を見る子どもの横で、「パソコンの映像加工の技術が上がったから、心霊映像がどんどん派手になっている」だの、「このカメラのパンの仕方は不自然だわー。演出してるわー」だの、「どうしてオッサンの幽霊とか出てこないんだろーねー。男だと怖くないからだろーねー」だのと、バランス取りの為にやかましく口を挟むようにしておるのです。
それにしても。
そういった最近の心霊映像に出てくる幽霊の姿が、おおよそ「貞子」なんで笑えます。幽霊のイメージが凝り固まり過ぎです。ここからしてすでに、偽造された映像だという証明のようなものなのです。

ということで。

何が言いたかったかと言うと。

本作で出てくる幽霊は、おおよそ幽霊っぽくないので好感が持てる、ということなのでした。
おどろおどろしい様子がありません。
「よっ」て感じで現れます。「元気?」みたいな感じで。
「オッス、オラ死んじまったぞー」というノリです。
いいね、それ。
かねてから思っていたのです。幽霊は、何かを生きている人に伝えたいのなら、もっと明るく現れるべきだと。怖がらせようとしてんじゃない、と。

というわけで。

本作に出てくる夫の幽霊(浅野忠信)は、気ままなフーテンのように、ひょっこり自宅に還ってきました。
それを迎え入れる妻(深津絵里)もなかなかです。初めこそ、暗がりに立っていた夫にびくりとしますが、すぐに事態を飲みこみます。

そして、夫が亡くなってから帰宅するまでに立ち寄ったという場所を、妻と一緒に巡る旅が始まるのです。
…何で?
若干腑に落ちない感じがあります。
普通なら、夫が家を出てから死に至るまでの道を巡るように思うのですが、霊体となってから…ってところがミソのような気がします。そもそも夫の死因は、鬱を患った事による入水自殺なのですが、霊体となった夫は、何とも気楽になったのか、帰路までの道のりを、実にのびのびと過ごしていたようなのです。まるで…本当の人生を取り戻したかのように。
そのおかげか、妻は夫のそれまで知らなかった面を知っていく事にもなるのです。
本作の面白さは、この夫のような人間味溢れた霊体が、他にもうようよしていることです。序盤に出てくる新聞配達のおじさんもまた霊体で、しかもまだ自分の死に気づかずに、仕事に趣味に没頭しています。

ただし。

もちろん、彼らはノーリスクで楽しい日々を送れるわけではありません。
霊体の彼らは、いつ本格的な「お迎え」が来るのか分からない状況なのです。
前述した新聞配達のおじさんは、本当の最後が近づくにつれ、錯乱を見せる様になっていきます。
それが、怖い。
ホラーの名手・黒澤清監督の真骨頂でしょう。ただの何気ない日常に、侵食していくカビのように少しずつにじりよる不穏な「何か」が、実に薄気味悪く…そして、哀しみを感じさせるのでした。

妻もまた、夫がいつ消えてしまうか分からずに、怯えます。
妻・深津絵里の表情に徐々に浮かぶ「暗み」が怖いです。そっちの方がよほどホラーのようで、『寄生獣』でも見せた実に感情の読めない顔を見せます。

逆に、夫・浅野忠信は実にひょうひょうとしていて、良い感じです。ある村人たちに、物理学を説明する雰囲気がとても良いです。朴訥で、とことん優しげです。ただし、生前はしっかりと浮気してました。「ただの遊びじゃん」と妻に平然と言ってのける姿からして、デリカシーがあるタイプではないようです。彼はすでに達観し過ぎていて、この態度が妻にとっては不満かもしれません。本当の意味で、一足先に行ってしまった感じなのです。彼は、やはり彼岸の人なのです。そこに、置いてけぼりを感じた妻は、焦り、そして怒りさえします。そもそも、まっすぐに妻のいる自宅に帰らず、だらだらしていたということが、まさに、この夫の本音の部分のような気もします。

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そんなこんな。

夫婦二人の気持ちのズレやら何やらを感じながらも、物語は終盤に向けて進みます。

これは、夫と妻が本当のお別れをするための、決着の物語なのです。
至る所に、死が蔓延しているお話ですが、妻がしっかりと「夫」を、そして「死」を受けとめる物語でもあります。

個人的な推察ですが、物語の中で妻が、自分の父親の霊に向かって「お母さんとはあの世で会えたのか」と尋ねる場面があります。また、夫に対しても、「(あの世で)また会おうね」といった言葉をかけるのですが、何とも霊たちの反応が悪いような気がしました。言葉を濁しているような…。もしかすると、あの世では、彼らは彼らではないのではないでしょうか。意識も何もなく、たゆたっているだけなのではないでしょうか。…救いのないような感想ですけど、そう感じずにはいられませんでした。それに、それくらいの不安を残してもらわないと、逆に「オッケー、オッケー、あの世でまた会おうぜ!」なんて言われようものなら、物語は完全に破たんではないでしょうか。だって、ちっとも哀しくないんだもの。そもそも、死後の世界があるって分かっただけで、それは随分幸せなことです。その点が、実に淡々とした描写で抑えられていて、本当によかったと思います。

kisibe3.jpg


あ、そうそう。いくつか突っ込むならば。
終盤で、ある1人の霊体が自分の妻を連れ回していると憤っていた夫ですが、そりゃ、あんたもだよ! と思ったり。

ベッドシーンは、特徴もなく無難で、情熱もなにもなく、必要性を微塵も感じませんでした。監督は、やるつもりなかったそうなので、あんなだったら、最後までない方が良かったかな。

個人的に。黒沢清監督は、『トウキョウソナタ』の時もそうでしたが、物語を淡々とリアルに展開させていたのに、終盤で急に派手なシーンを入れ込んだりするのがアンバランスな気がします。本作では、ある霊体が暴れ出す場面です。ちょっと過剰な気がしました。
その代わりというか。
霊体が消える演出が、『ゴースト』みたいな派手さがなく、ぱっと不存在の画面に切り替わるだけってのが良かったです。まるで白昼夢であったような。幻覚であったかのような。味気なくて、かえって切なさを感じたものです。

kisibe.jpg


ラスト。海辺を背に、力強く歩み出す妻の姿が印象的です。「あんたの荷物を私が持って帰るんかい」とは思っていないでしょうが。

…。

さて、ここからは蛇足ですが。

本作の物語は、夫婦の絆の切なくも美しい話…って感じなのですが、映画を想い返している内に、ふと、ある一つの推測が浮かんだのです。それは、夫があまりに幽霊っぽくないことと、幾度も見せる、のっぴきならない妻の思いつめた表情から思い至ったのですが。実は夫は霊ではなく、本当は生身の人間で、妻が勝手に霊だと思い込んでいたとすると、どうでしょうね…。
そう考えると、途端に不気味な物語になるのです。
夫の浮気が許せずに、夫を責め立て続け、その内に心を病んでしまった妻に対し、夫は別れを決心します。妻にとって、夫は死んだも同然。死んでくれた方が、かえって気持ちが楽になる…。やがて錯乱し、自分を霊だと見立てている妻の妄想に、夫は都合よく乗っかった物語だとしたら…。

「他の人に取られるくらいなら、いっそ死んでいてくれた方がいい…。」

夫の浮気相手(蒼井優)が言い放ったその言葉は、実際は妻自身の想いだったのではないか。

…なんて。
ぼんやりとキーボードを打ちこんでいる内に、そんな想像がもたげたのでした。季節外れのけだるい熱夜に、頭の中が蒸されたのかな…。


  

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Posted on 2015/11/10 Tue. 20:00 [edit]

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10

コメント

 

初めてコメントします。私が書きなぐった泡沫「ブログ」?にご訪問いただいた様で有難うございます。
仰る様に最近の心霊番組・そしてDVDレンタルゆ等で出ている心霊物は
「貞子」ですね(笑)まあ、そういう物だと割り切ってみれば面白いとは
思います。
この「貞子」が登場する映画「リング」自体が原作小説の悲しい被差別者としての「貞子」の不気味な側面のみを過剰にデフォルメした「映画」その物だったので言い得て妙だと思いました。
それでこの映画は見た事は無いんですが、夫が亡くなってから帰宅するまでの道程を辿るという切り口はなかなか面白いですね。
派手なシ-ンやベッドシ-ンというのはプロデュ―サ-辺りの要請なのかもしれませんが、仰るようなあざといよくあるラストじゃなく多様な解釈の
出来る余地の有る物だというのはいいと思います。
ちょっと見てみたくなりました。

URL | 善 #- | 2015/11/14 11:40 | edit

善 様 

コメント頂き、ありがとうございます。

幽霊映像の番組は、嘘と思ってみるとよく怖く出来ていて面白いですけど、
あれを、半ば本物の映像として流すことに違和感があるのです。

さて、本作ですけど、じめっとした怖さがあって良かったですよ。
ちょっと長いんですけどね。
そのために、派手なシーンとかベッドシーンとか入れたのかもしれませんけど。
淡々と通した方が、まとまりがいいと思いました。

URL | タイチ #- | 2015/11/15 10:55 | edit

 

はじめまして。

浅野が幽霊っぽくないのは浅野の死が唐突であり、そういう予感をさせるパーソナリティーでは無かったことを表しているだけですよ。

URL | さくさく #- | 2015/12/17 23:07 | edit

さくさく 様 

コメントありがとうございます。

URL | タイチ #- | 2015/12/20 21:23 | edit

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