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ミツバチのささやき となりのフランケンシュタイン。 


 ミツバチ
 ミツバチのささやき
 (1973年 スペイン映画/監督:ビクトル・エリセ)  85/100点


<ネタバレしています。>


ミツバチ

年の瀬、今年最後の映画ということで…軽い気持ちで選んだら、どえらい映画を見てしまいました。
しまった…書きづらいタイプの映画じゃん…。

軽い気持ちで感想が書けるような映画ではありませんでした。
本作は、映画史に残るほどの名画です。どっしりと腰を据えて思惑を巡らせないと、ヘタなことを書いたらヤケドする類の映画であったのです。

映像の美しさや目を見張る構図、登場する二人の少女の「可愛らしさ」に油断していると大変です。
表層的には、「夢見る少女が、夢を追いかけたら現実になったよ」というステキっぽい物語ですが、深層にたっぷりと沈殿された製作者たちの思惑が、重いです。
本作が制作された当時、スペインでは軍事的独裁政権が幅を利かせていました。無論、映画には検閲が入るものだから、悟られぬように政権批判を織り込んでいるというのです。

小さい子供を楯にして、何やってんの…? 

安心しないでください、実は深い意味を隠していますよ、と言わんばかりの抽象的な場面の数々に、折り目を正して鑑賞しました。ああ…意味わかんないけど、意味があるんだろうなあ…という。よほど映画が好きな人でないと、つらい鑑賞になってしまうかもしれません。

ミツバチ2


以下、意味深なシーンをいくつか列挙します。

・映画『フランケンシュタイン』
冒頭は、村の映画館にフィルムが運び込まれる所から始まります。子ども達が楽しみにしているその映画は、果たしてどんな映画なのでしょう。今でいうところの…『アンパンマン』みたいなものでしょうか。目を輝かせながら子供たちが見つめるスクリーンに映されているのは…『フランケンシュタイン』です。ある意味、愛と勇気以外に友達のいないアンパンマンみたいなものかもしれません。少女が殺されたりするなかなか残酷な映画のようです。このチョイスどうなの? 映倫的にどうなの? 少年少女に張り切って『saw』を見せるようなものではないの?
映画館内には、主人公の少女・アナと、そのお姉さんの姿もあります。その日の夜、アナは映画の内容について姉に問いかけます。「なぜ女の子が殺され、フランケンシュタインも殺されたのか」と。案の定、幼きアナの心に、この映画は強烈な印象を残したようです。…物語は、フランケンシュタインの存在を信じたアナを軸としています。

・バラバラな家族関係
主人公の少女・アナのお父さんは、世捨て人のようにミツバチの飼育をしています。お母さんは何やら昔の恋人らしき人に手紙を送っています。アナと仲が良さそうな姉ですが、次第に溝が見えてきます。当時のスペイン国内のバラバラな人間関係を象徴しているのです。

・ミツバチについて
夜な夜な、アナの父親が何やらミツバチについて文章を書きしたためています。ハチの労働の厳しさについてです。死ぬ自由さえ奪われているハチを憂います。どっこいそれは、現政権の圧政を示しているのです。勢いあまって書き過ぎた「ヤバイ部分」を、線で消したりしていますが、消されることによって、より強烈にその文章の意味合いが強まるのです。
そして、アナの家の外観自体、蜂の巣のようです。学校に入っていく子供たちの様子もまた、ハチのように見えました。

・不可解な姉の行動
ほとんど同い年に見えるアナと姉ですが、姉は序盤からアナに適当な嘘を言ってみたり、やや意地悪な部分を見せます。次第に変な行動も。猫の首を絞めてみたり、指先から出血した自分の血を口紅にしてみたり、死んだふりをしてみたり…。
アナは次第に姉との距離を感じ、孤独になっていくようでした。それが、アナの妄想をさらに助長していくのです。

・毒キノコ
毒キノコを父親が踏みつぶす場面もまた、強烈です。『スーパーマリオブラザーズ2』のみでその出番を終えたように、世間にそぐわないものを問答無用で排除する様は、まさに冒頭のフランケンシュタインと重なり…つまり反政府側の人間の象徴というわけです。

その他、人体模型や謎の絵画、影絵といった、いくつもの意味深なシーンが連なって出てくるので、落ち着きません。

ミツバチ4


また、淡々として物静かな映画の様でいて、うっすらと上塗りされた「死の匂い」に緊張します。
死後の世界のような静寂さと、荒涼とした風景もあいまって、アナの周りには「不穏」がまとわりついているようなのです。
個人的に一番緊張したのは、アナと姉がレールの上に耳を重ねる場面。機関車がやってきても、アナはすぐにその場を離れようとしません。姉の「アナ!」という叫び声にドキリとしました。
もちろん、「姉の死んだふり」も強烈です。内容を一切ネタバレせずに観たので、そんな衝撃な展開をするのかとアナと同様ドキドキしました。でもよーく観ると、横たわる姉が微妙に動いているものだから、生きているのか演出が甘いのか分からず、なかなか揺さぶられましたよ。けれど、このイタズラは、アナに相当なショックを与えたものです。嘘だったとはいえ、一時的に「本物の死」を実感してしまったアナは、心のバランスを大きく崩し、ますます現実と虚構の境があいまいになっていくのでした。
ところで。
本作は『となりのトトロ』のモデルであると聞いて、妙に納得してしまいました。幼い姉妹や怪物が出てくる設定だけでなく、その…「死の匂い」に関してです。有名な「メイとサツキ死亡説」をジブリは正式に否定しています。しかし、とても寂しい気持ちになるシンとした空気感を、確かに『トトロ』にも感じるのは、何も糸井重里が棒読み過ぎるからではないのです。「新池で見つかったサンダルは、本当にばあちゃんの見間違いだったのか…」とか。「終盤のサツキとメイに生きている感じがしない…」とか。本作に隠されているような「裏側の意図」が、トトロのでっぷりとした体躯の背後から、じっとこちらを覗き込んでいるような気がするのです。

さて。

子どもとは、ファンタジーに感化されやすい生き物です。誰にも、そういう思い出があると思います。まさにアナと同じくらいの年のころ、小学校で奇妙な噂が流れたことがあります。「今夜、あるマジナイを施さないと悪魔が家に入ってくる」みたいな噂でした。一ミリも疑うことなく、とても恐怖を感じたのを覚えています。精霊が住んでいると教えられた家に、たまたま逃げ込んできた逃亡者を、アナは「フランケンシュタイン」だと思い込んで匿います。その時のアナの感情に、とても懐かしい共感を覚えたものです。直後、ついにアナに訪れる「本物の死との遭遇」は、アナを大きな混乱(錯乱)へ陥れるには充分な恐怖であったはずです。この世の全て(政権)を信じてはいけないと、少女は悟ったのではないでしょうか。

ミツバチ3


孤独ののち、アナの前に現れた怪物(精霊)は、アナに新しい世界が訪れることを予感させます。映画の裏側では、アンチ・フランコ政権(当時の独裁政権)を意味しているといいます。しかし、ここにはアナ自身の成長も感じ取れるのです。不甲斐ない父親や母親、そして一足先に大人の階段を上っていく姉との決別を心に宿し、自分の道を歩みだしたのだと思います。

とかなんとか、難しい論評は下記を参考にされてください。
 「ミツバチのささやき」~芸術家の眼差し


2015年、最後にして手ごわい鑑賞でありましたが、たまには、クラシカルな名画も勉強になります。

来年度は、私もミツバチの働きから、少しでも抜け出したいものですなー。


   

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Posted on 2015/12/31 Thu. 15:23 [edit]

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