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駆け込み女と駆け出し男 /ラインでしくじりそうにない女たち。 


 kakekomi
 駆け込み女と駆け出し男
 (2015年 日本映画)
  80/100点



江戸時代の離婚率は、現代の2倍だったと言われています。
離婚後も、女性は農村での働き口があったため、今よりも離婚しやすかったそうです。
とはいえ、女性に離婚の決定権はありませんでした。どうしても別れたい時には、指定のお寺に「駆け込む」ことで、夫に強制離婚を迫ることができたというのです。

本作は、その駆け込み寺である「東慶寺」における女性たちの物語。

駆け込み10


まず目を見張るのは、役者陣の巧さ。
キャスティングの良さが細部にまで行き渡っています。
それだけでも、安心して観られます。

・中村信次郎 (大泉洋)
駆け込み2
駆け出し男たる見習いの医者であり、戯作者の卵でもある彼は、駆け込み女を預かる御用宿に居候し、有能な医師の腕前と持ち前の口八丁で、女性陣を徹底サポート。
後半では、女性だらけの東慶寺に出入りを許されるなど、うらやましいほどのおいしい役どころです。純朴であり、ドジでもあるけど、土団場では頼もしさを発揮します。

大泉洋は、佇まいだけで十分におかしみを醸す稀有な人です。それでいて、シリアスな空気を出すことも出来ます。現代の寅さんみたいに言われますが、私は、ちょっと藤田まことを思い起こすんです。器用な人だと思います。
それにしても、映画に出まくっています。控えの新作『アイ・アム・ア・ヒーロー』の期待値も高い、今、最も活躍している俳優さんの一人なのです。…少し前までは、ねずみ男だったくせに。


・じょご(戸田恵梨香)
駆け込み
鉄場の炎を見事に操る職人です。夫の不貞や暴力に耐えかね、東慶寺に駆け込みます。
芯の強さを持ち、武芸にも長け、薬草の栽培にも秀でるという賢い女性です。
彼女のきちんきちんとしている空気が、観ていて心地よかったです。彼女はきっと、ラインが漏れて窮地に陥るようなヘマはしないでしょうな。
戸田恵梨香は、方言丸出しのセリフ回しもうまくって、安心できる女優になってきましたね。


・お吟 (満島ひかり)
駆け込み5
今や実力派俳優にのし上がった満島ひかりが演じるお吟は、大商人の妾。彼女の駆け込み理由には、ある秘密がありました。
序盤はちょっと芝居臭い気もしましたが、終盤では、きっちり頭一つ抜けている巧さを魅せます。さすがだなあ、と思ったものです。


・戸賀崎ゆう(内山理名)
駆け込み7
凛とした侍です。内山理名と最初気づかないほど、彼女の目つきは、侍のそれでした。
彼女は、狂暴な道場破りに無理やり妻にされていました。武士としてのプライドを捨て、東慶寺に駆け込みます。


・法秀尼( 陽月華)
駆け込み3
あれ? 吉田羊じゃないの? としばらく勘違いしてました。宝塚の女優さんだそうです。彼女が演じるのは、東慶寺を仕切る尼層です。
彼女はまさに、バカマジメ。寺の規律を守ることが第一の彼女の融通の利かなさと、信次郎の緩さとの掛け合いが見所です。


・重蔵 (武田真治)
じょごの夫です。武田真治は、確実に時代劇俳優の顔ですよね。驚きました。DV夫の雰囲気も素晴らしく、地ではないかと思わせるほどです。1989年版『座頭市』の陣内孝則を彷彿とさせる冷たい狂気を感じます。
無駄に人数の増えた「めちゃイケ」で、端っこに佇んでいる場合じゃありません。本作は、こういう思いがけないキャスティングも、絶妙です。


・堀切屋三郎衛門(堤真一)
駆け込み4
有無を言わさぬ重みがあります。決して大役ではない部分で、この主役級の人を持ってくるとは憎い。珍しくワルの役柄がハマってます。なんたって、彼の声質の凄みが、もう時代劇にドンピシャで嬉しくなります。


・曲亭馬琴 (山崎努)
山崎努が馬琴をやったら、もう馬琴 にしか見えません。馬琴 はこんなだったんです。
存在だけで、とてつもない説得力があるのです。


三代目柏屋源兵衛 (樹木希林)
駆け込み6
さあ、真打登場。本来男役である御用宿の主人・源兵衛を、あえて樹木希林が演じる妙技。女性を助けるのは、やはり女性であるべき、ということでしょうか。確かに、「女を助けましょう」なんて正義ぶってるオヤジは、逆にうさん臭いですからねえ…。
とにかく、樹木希林の貫録は凄いものです。画面に現れるだけで空気の密度が濃くなるようです。静的でいて、時折ドスを利かせるセリフの迫力。そして、終盤で乱暴者と対峙する場面では、眼や手の動きの全てがかっこいいのです。
さすが、最狂にロックな夫を持った彼女の説得力といったら、グウの音も出ませんよ。


その他のキャスティングも納得の「顔」ばかりで、それだけでもう、見応えのある時代劇になっているのです。
全く同じキャスティングで、他にも時代劇を作って欲しいとさえ思います。

駆け込み8


さて。

肝心の物語ですが…。

いくつもの駆け込み女エピソードが紡がれます。
実は、これが結構入り組んでいまして。
正直に言うと、ちょっと分かりにくかった面があります。

一つ一つのエピソードがしっかりしていて、重くて深いのです。それでかえって、本作がどこの話に主軸を置いているのか混乱しました。駆け込みの合間に紡がれる馬琴のエピソードも、ブツギリ的で戸惑います。
いくつかのエピソードでは、「?」と思う程、結末がさっぱりしていた印象もあります。決着していないエピソードもあるように思います。
想像妊娠の件、戸賀崎ゆうの復讐、鳥居耀蔵の東慶寺潰し、じょごの夫の最後。いずれも、腑に落ち切っていません。
それが気になったせいか、アジ売りの素晴らしいエピソードの印象が散漫になりまして…。感動部分のはずなのに、集中が途切れてしまい、印象が薄らぎました。

また、お吟のエピソードの結末には拍子抜けしたものです。
というか…、これはとんだ迷惑では?
そのために、信次郎はあんな目に遭ったのかと。
それが気になって、これまた感涙場面であるはずの堀切屋とお吟の最後の邂逅に、惜しくもノレなかったのです。

終盤に巻き起こる狼藉夫VS女性陣の殺陣は、萌えま…燃えました。
特に法秀尼とじょごの頼もしさが映えます。女性の全ての怒りが込められた狼藉夫への一太刀。その刃の入り口が…、実に象徴的です。
『アナと雪の女王』にもあった、「バカな男はもういらん」という強烈なメッセージでもあるのでしょうか。
女性上位である、じょごと信次郎のロマンスも一興です。

かなり余談ですが。
しかしそれでも、世の中からDV夫の存在はなくなりません。DV夫の兆しがあるにも関わらず、それが頼もしい力強さと思い込んでしまうではないですか。その兆しの一つ、「壁ドン」なんかを有難がっているようでは、真の女性の時代は来ないと思うものです。

駆け込み9


それにしても。

本作で説明される「離縁」システムには感心したものです。
自分自身かもしくは、自分の持ち物が、東慶寺の門を通った時点で「駆け込み」が完了します。
御用宿で聴取が行われた後、東慶寺に正式に入ります。
その時に支払える金額で、コースが決まります。
そこで2年を費やせば、夫に離縁状を強制的に書かせることが出来るのです。
女性蔑視が激しかった時代だと思っていましたが、困り果てている女性を助ける為に、実に整然とした仕組みが作られているのです。
江戸時代が、いかに法治的に優れていたのかを知りました。
(ただ、本作は天保の改革の時期で、非情に取り締まりが厳しく、息苦しい時代でもあります)

なんと。
江戸時代の離婚率は現代の2倍だったといいます。
これは、昔に比べて、男が女性に優しくなったと捉えるべきか。

あるいは。

女性の自由が奪われている、ということなのかもしれませんね。


    

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Posted on 2016/02/01 Mon. 00:27 [edit]

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