素人目線の映画感想ブログ

素人による、素人のための映画感想・レビュー。 映画文法や方程式なんのその。

人生スイッチ ブチギレたら、終わり。 


 人生すいっち
 人生スイッチ
 (2014年 アルゼンチン・スペイン共作)  80/100点


本国アルゼンチンでは、『アナと雪の女王』を遥かに凌ぐ大ヒットをしたという、ブラック・コメディです。製作総指揮が『オール・アバウト・マイ・マザー』や『トーク・トゥ・ハー』で名を馳せたペドロ・アルモドバル。登場人物が溜まりに溜まった怒りを爆発させる6篇のオムニバスです。昔、日本映画の低迷期に『バカヤロー! 私、怒ってます』という映画がありました(観てないけど)。それのアルゼンチン版みたいな映画です。

これ、しかし、かなり力を入れて作っています。映像は抜群に凝っているし、人物たちの行動が完全に振り切れていて、「おいおい、まじかよ」と突っ込みながら観ていました。

一つずつご紹介していきます。オムニバスは書きやすくていいですな。<それぞれの結末には触れません。>


1.おかえし          

人生スイ


プロローグですから、「掴み」として大事なポジションです。なので、とても短い話ですけど、この映画の「本質」が凝縮されています。
離陸した機内で見知らぬ者同士の何気ない会話が始まります。ひょんなことから、一人の共通の知人の話に繋がると、前の席の人が立ち上がり、「その人、私も知ってる!」となって、それが次々に連鎖していくのです。
「水曜日のダウンタウン」という番組で、「 知り合いで一番面白い人を紹介してもらっていくと最終的に松本人志にたどり着く説」という秀逸な企画がありましたけど…ん? あれとは違うか。
とにかく、機内全員が、ある一人の知人だったと判明するのです。
たらっとした会話が続くのかなあ…と思わせて、いきなり急展開する巧さに、「おっ」と食いつかされました。

そして、ラストの衝撃映像の「ぶっ飛び感(飛行機だけに)」といったら!

本作全体に漲っているパワーを象徴するような第1話。これは、ただならぬ映画だぞと、見事に思い込ませるのでした。


2.おもてなし          

人生スイ2


雨の中に佇む古びたレストランの映像が印象的です。
そこへ、一人の中年がやってきます。給仕の女性はその男の顔を見るや、みるみる顔色を変えていきます。
そいつは、親の仇だったのです…って時代劇みたい。
さあ、どうする。復讐の千載一遇のチャンス。
とはいえ、これは現代劇ですから、仇討ちなど許されるはずもなく、給仕の女は踏み出せません。
そこへ、全く関係ない料理人の女が、ほれ…早く、ほれ…、と料理に毒を盛ることを提案するのです。

第1話に引き続き、ワンシチュエーションの地味な短編です。やってしまえ、といきり立っている料理人の女の凄味が印象的です。過去に刑務所に入ったこともあるこの女は、「あいつが死んだって警察は大して調べないぞー、万一バレても刑務所はいいぞー、よっぽど今よりいいぞー」、と給仕の女をたぶらかそうとします。関係ないのに。逆に、給仕の女は及び腰です。
これ、女性の愚痴の典型です。男はよく対応を間違えます。共感してほしかったり、ただ聞いてもらいたかっただけなのに、マジにそんな解決策を出されちゃっても困るのよ…ってやつ。あるある。


3.パンク          

人生スイ3


車のCMかってくらい、颯爽と高級車が美しい山道を走っています。これは、『激突』みたいな話です。トロい車をパッシングしてどかせたら、そいつが怒って追っかけてきたって話。そんな時、車がパンクして立ち往生してしまったら…。
人間、心理的には、車の中にいると普段よりも「強気」になれるそうです。何かあっても走り去ればいいし、停車中に襲われても、カギをかけておけば滅多に侵入されることはありませんから。ただし、パンクしたり故障したりで車が動かせないと、完全な袋のネズミでもあります。
まさに、そんな状態に陥った金持ち風の主人公に対し、パッシングされ「田舎者」と吐き捨てられた男が迫ります。見るからに粗暴な大男です。車中にいるので主人公の身は安全ですが、散々車を壊されまくるのです。すげー粘着質の男です。一度火がついたら、とことんまでやるイヤなタイプなのです。もちろん、主人公もセレブ風を吹かせたイヤなヤツですから、どっちもどっちですけど。

車を壊すだけならまだしも、強烈なオゲレツ満開の描写もあるため、食事しながら見るのは絶対にアウトです。

車を走らせている時は強気だった主人公は、本来は臆病な人物です。それゆえ、当初はじっと耐えているだけでしたが、いよいよ頭に血が上り、いつまでも黙ってねーぞ、田舎モンがコノヤローーー! ついに「人生スイッチ」を押してしまうのでした。
そこから始まる強烈な死闘…と書くとカッコイイですが、実際はブチ切れたガキ大将レベルの大ゲンカです。しかし、後に引けない二人の争いは、次第に命のやりとりにまで発展していきます。

  
4.ヒーローになるために          

人生スイ4


冒頭のビル解体の爆破が美しい。とにかく、本作は目を見張る映像が多いのです。
その爆破を手掛ける主人公は、ある日、娘の誕生日のお祝いのケーキを買っている最中、車をレッカー移動されてしまいます。
紳士っぽく見えて、実は気性の荒い主人公は、交通局の窓口で揉めに揉めます。
局員のあまりに冷淡なお役所仕事に「人生スイッチ」ON!
なんだその態度は。えー加減にせーよ、役人がゴルァァァァァ! と暴れ出すというお話です。

要は、それだけのお話です。

私自身、車移動が多いので、駐車禁止やUターン禁止、スピード違反で捕まることがしばしばあります。
こんないたいけな市民から罰金を取るのか…と悲しくて仕方ありません。
話は大幅にズレますけど、そんな時に対応する警察官って、どうしてあんなに異様に低姿勢なんでしょうか。こないだも広島の呉に出張中、標識に気付かずにUターンしたら、真横が派出所で、物凄い勢いで若い警官が飛び出してきたんですよ。「あ、どうもー、どうもー。すいませーん、ここUターンダメなんですよー。すいませーん、すいませーん。標識気付きませんでしたかあ? 気付きにくいですかねえ? 呉初めてですかー? あ、ご出張でー? そうですかー。でも違反なんでねー、取り締まらないといけなくてー。すいませーん、すいませーん」って、ずっと丁重…。こちらが少しでも「文句」を言おうものなら、ガラッと顔色が変わるのかなと思ったら逆に恐ろしく、何も言えずに郵便局に罰金を支払いに行くのでした。そしたら郵便局の窓口のおばちゃんが、「違反ですか? ウフフ」だって。まー、なんか平和な感じがして、妙に面白かったですけど。
で。
それとは逆に、本編で駐禁を取り締まる交通局の人間は、全くもって感情もなく、上から目線で頭に来ます。もちろん、粛々と仕事をこなしているだけなのでしょう。「オレに文句を言われても知らんよ」という気持ちも分かります。しかし、こちらは極悪人でもないし、もっと心のある対応の仕方があるでしょうもん! 
これはアルゼンチン国民のあるあるネタなのかもしれません。「またレッカーされた。アルゼンチン死ね」という鬱憤を、ラストの主人公の行動が見事に晴らしてくれたと拍手喝采なのだと思います。


5.愚息          

人生スイ5


金持ちのボンボンが人を轢いてしまい、親が金の力を使って隠ぺいしようとするお話です。
タイトルは「愚息」ですが、大人の方が汚かったりします。
協力する周りの人間が、どんどん報酬を釣り上げていくのです。
モー知らん! 恐喝で訴えたるわ金の亡者どもバーーーーカ! どいつもこいつもバーーーーカ! と金持ちの男は爆発します。元来、どっちもイケない奴らなのに、不思議と楽しい逆転劇です。「いいんですかな…息子さんのことがどうなっても…」なんて脅している奴らが、反対にあたふたしちゃうのが気持ちいいのです。

淡々と隠ぺい工作を進めている大人たち。その向こう側のテレビモニターに映る、「絶対に許さねー!」とブチ切れている轢かれた女性の夫。この温度差の違いが、コワ面白いです。このお話の結末に、「は? それだけ?」と思う方も多いみたいですけど、私はこの温度差が凄く気になっていたので、このオチはスッキリと腑に落ちました。そうだよね。一番大事なそこ忘れてるよ、あんたらって。

6.ハッピーウェディング          

人生スイ6


ラストのお話です。ラストっぽく、華やかな結婚式場の映像が流れます。
結婚式の最中に新郎の浮気が発覚するという、本年(2016年)にふさわしいお話です。この新郎は、日本では妻が「私にも責任があります」と謝ることを知ったら、明日にでも亡命してくることでしょう。

なぜなら本作の新婦は、テメー、この先とことん追いつめてやっかんナー、この甲斐性なしコンチキショーーーーーーーーーーーー! と、前代未聞の癇癪を起こすからです。式の最中に。

もちろん、新郎が悪いのです。しかも、浮気を追求されてアッサリ自供する弱さを露呈。認めるのは潔い、とは言いますが、何も相手が5人もいるだ…いや、式に招待した女だなんて、今言わなくても。大波乱の幕開けです。参院選の出馬…じゃなくって、式の取り辞めをする暇もなく、式は勝手に進んでいきます。けれど、気丈に振舞おうとしてもボロボロ流れる新婦の涙。そして、その場を飛び出します。
屋上で、優しく慰めてくれる休憩中のコックとやけっぱちの浮気をするという流れの後、完全に吹っ切れた新婦は、とことんまで新郎をいたぶることを決意するのです。不動明王の如くあらぶる新婦を見て、新郎はぐえっと胃の中身をぶちまけます。外国の人ってほんと「吐く」って描写が好きですね。これをケラケラ笑うんですね。日本人にはあまり分からない感覚です。

惨めにも顔を覆って泣き崩れる新郎に、新婦は記念撮影を強制する始末。このままだと、新郎の裸の写真までフェイスブックから流出させそうな勢いです。
しかし、開き直るのは、何も新婦の専売特許ではありません。意気消沈のどん底に落ち込んでいた新郎は、ふと息を吹き返し、むっくりと無表情に立ち上がり、新婦の前まで歩みだします。

本編の結末は、個人的にはあまり好きではありません。最終話だからって、キレイにまとめようとし過ぎです。もうひと捻り(っていうか、もうひと波乱)欲しかったかなあ。

‌生スイッチ

というわけで。
人間的理性が吹き飛び、動物的戦闘本能をむき出しにするスイッチを押してしまった人々の物語。力作です。
しかし、人を呪わば穴二つ。欲求のままにぶつけた攻撃性は、負の連鎖を生み出し、しっかり自分に還って来るのです。みなさんも、「怒る」時は慎重に。


 

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Posted on 2016/04/01 Fri. 22:07 [edit]

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