素人目線の映画感想ブログ

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アパートの鍵貸します モテない男の叙情詩。 


 アパート
 アパートの鍵貸します
 (1960年 アメリカ映画)  90/100点


<ラストのネタバレをしています。>


「真田丸」で活躍中の脚本家・三谷幸喜は、本作の監督ビリー・ワイルダーに影響を受けています。昔、三谷脚本の「今夜、宇宙の片隅で」という、西村雅彦・石橋貴明・飯島直子が出演したテレビドラマがありました。誰も知らないと思いますけど。今回の鑑賞で、そのドラマが驚くほど本作に影響を受けていたのだと知りました。

本作は、白黒映画なんて古臭い…なんて人にこそ観てほしい大傑作です。
ラブコメの王道として、本作が映画史に渾然と輝くのも納得。好きな人が振り向いてくれなくて…系の切なくなりそうな恋愛ドラマを、出来るだけカラッと明るいタッチで描きます。

さすがアメリカ映画と言いたくなるほど、徹底してエンタメ。

そして、とにかく面白い! 

あらすじは、大会社の平社員であるバクスターは、複数の上司に、不倫相手とのホテル代わりにアパートの自室を貸している。そんなバクスターは、会社のエレベーターガールであるフランに惚れているが、フランは部長と不倫中であった。その部長から、部屋を貸してくれと頼まれるのだが…というお話。

アパート鍵1


キャラクターがうまく出来上がっていると、映画の大半は成功と言います。主人公のバクスターを演じるジャック・レモンと、ヒロインのフランを演じるシャーリー・マクレーンの魅力が凄いものです。
この二人と会社の部長の三角関係の物語。
ちなみに、バクスター → フラン → 部長という系図です。(→は想いの向き) バクスターには誰からも想いが向けられていないのが、徹底して悲しくて素敵です。これぞ本物の三角関係。小沢健二が言うように、「いつだって誰もが愛し愛されて生きる」ほど、世の中は甘くないのです、うむ。(…そう言えば…、部長の秘書といい仲になりかけましたけどね…。)

バクスターは仕事にマメで、数字に強い(細かい)男。面倒見が良い性格で、人から頼まれるとほっておけない気のいい男。陽気でもあり、不器用でもあり、一人で抱えてウジウジすることもある…まあ、ようはモテる方ではない男。
バクスターの仕事や家事の手際の良さには目を見張ります。アパートの部屋を貸す予約台帳をめくっては、上役たちの我がままのために、テキパキと予約の調整をする姿が笑えます。ただ、それは、一人でなんでもこなせちゃう器用貧乏なために、いつも黒子役を押しつけられるという、モテない男の特徴でもあります。
ところで、有名なラケットでのスパゲッティの湯切り。真似したい人続出だそうですが、私には、何とも使いづらそうに見えましたけど。ありえへん茹で方としては、村上春樹の小説に出てくる、「ロッシーニの『どろぼうかささぎ』を聞きながらスパゲッティを茹でる主人公」に匹敵しています。
さて。
バクスターは、元来自分に自信がないのか、フランを部長から奪い取ろうなんて気もなく、バカなことに、ぎくしゃくした二人の仲をとりもってあげようとさえします。これ、前述の「今夜―」でもありました。冴えない男である西村雅彦が、本当は好きなのに、すぐ喧嘩する石橋貴明と飯島直子のカップルを仲直りさせようとしちゃうのです。無理して。
まあ…わかる。
モテない男ほど、「無償の愛」に走りがちです。どうせ叶わぬ恋ならば、あの子に幸せになってもらうため力を尽くそう…と自己満足な犠牲に流れていきます。それが、自分に授けられた、唯一の「カッコ良さ」だと勘違いして。

そして、大抵それは相手にとって、大きなお世話ってんだから…救いがない。

アパート鍵4


ところでフランはというと、キュートで健気な典型的ザ・ヒロイン。奥さんとなかなか別れない部長と不倫中の上、ベタ惚れのドロ沼状態です。なかなか周りが見えていない困った子・フランは、時折バクスターの心臓をわし掴んでグリグリ痛めつけるような発言を放ちます。「部長への未練が…」とか「(バクスターに向かって)あなたを好きならよかったのに」だの。これは、ひどい。バクスターの気持ちを分かっていないなら、とんだ鈍感。分かっているなら、まるで無神経。鑑賞中は「かわいらしーなー」と思って観てましたけど、冷静に考えてみると、随分と思慮が浅く、自分勝手なタイプかもしれません。
それにしても、そもそも、何故フランは部長の虜なのでしょうか。確かに他の上司に比べるとダンディ度合いが強いとは思いますが、基本女にだらしなく、冷淡でオラオラ。部下の態度が気に入らないと、降格させると脅す度量の狭い男です。おまけに、フランへのクリスマスプレゼントとして、現金を掴ませるような無神経さも披露します。
まあ・・・わかる。所詮、恋に理屈はありません。優しいだのマメさが大事だのと言いますが、そんなのうっかり真に受けると大ごとです。モテない男が優しくても「迎合している」ように見えるだけだし、マメだと「うっとおしい」だけなのです。本当に恋に必要なこととは…そんなことが分かってれば苦労はしてません。
とはいっても。
野暮ではありますが…こんな部長に振り回されているフランのことが、とても歯がゆく思ったりするのです。ある意味、これがリアルだからこそ、余計にむなしさを感じます。むろん、当のバクスターも、相当に悔しい思いをしていることでしょう。

とはいえ、モテない男ほど、こういう女に弱いもの。
か弱い雰囲気で、幸薄そうにされたら、どうしたって男気スイッチが入ります。オレが、なんとかしてあげねばと。
しかし、興味を持たれていない男が頑張ったところで、その価値たるや鼻をかんだ後のちり紙の如し。せいぜい、相手の自尊心の回復に利用されるだけなんだから。
だもんで。
バクスターが元気づけようとトランプを始めても、うまくいかない部長との恋路に、フランの顔は浮かないばかりなのでした。

アパート鍵3


さて。

自分の貸した部屋で、意中のフランが部長と不倫したり…
フランと会う約束をしたのに、かる~くすっぽかされてみたり…
せっかくフランと二人きりで食事だってのに望まない来訪者が来たり…
自分がフランを追い詰めたと嘘を言ってフランの姉の旦那に殴られてみたり…
いよいよフランに告白しようとした矢先に、部長がフランとの正式な婚約を言い出したり…

ツキのないバクスターの歩むモテない街道は、王道だもんで、実に気持ち良いものです。共感するから、余計に自虐的に笑えます。
こういう類の話が大好きです。
古谷実のマンガしかり。最近読んだ武者小路実篤の「友情」も、まーおかしかった。好きな人が書いた手紙を、主人公が勝手に読んだら、別の男への告白文がつらつらと並んでいた挙句、主人公を軽んじる文章まで出てくる始末。古い名作を読んで、声を出して笑うとは思いませんでした。自虐的に。

もはや、それが運命ならば、笑い飛ばすのが一番。ウジウジしてても始まらないのさ。なー諸君!

アパート5


ところが。

本作の物語はエンタメの王道を突き進みます。ラストでは、ついにフランへ想いを告げるバクスターなのです。やっかむ気持ちがないではないですが、けれど爽やかで気持ちの良いラストでした。
しかし、バクスターの告白にフランが答えず、トランプを手にして「shut up and deal(黙って配って)」と言うだけのラストカットは、「言わなくても分かっているわ」という意味なのか、「想いを受け止めるけど、まだ愛はないのよ」という意味なのか。このフランの態度は、バクスターだけでなく、観客にも焦らす様な気分を与えます。そう考えると、フランってなー、なかなか意地の悪いジョーカーかもよ、とか思ったり。
でも。
割れた鏡を見て心にヒビが入るような事実を知る残酷さ、カミソリを必死に隠すお節介な優しさ、彼女の残り香のように一本残ったスパゲッティの寂しさ、緊急事態と思いこませた直後、祝福のように溢れだすシャンパンの晴れやかさ…などなど、細かな所まで巧妙に作られた傑作のラブコメディ。

「ギャラクシー街道」で壮絶にやらかした三谷幸喜には、初心にかえって、ぜひ本作のような上質なコメディに戻ってきてほしいです。(ただし、前述の「今夜―」が良作にも関わらずコケたため、それ以来やる気をなくした、という説もありますが)


  

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Posted on 2016/04/14 Thu. 20:36 [edit]

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