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草原の実験 風のように、駿馬駆ける草原。 


 草原の
 草原の実験
 (2015年 ロシア映画)  85/100点




<ラストのネタバレはしません。>


一切セリフのない寡黙な映画。

どこともしれない、永遠ほどに広い草原に住む父と娘と青年二人の物語。

圧倒的な映像美。

巨匠タルコフスキーを継ぐ、ロシアの新たな才能アレクサンドル・コット作品。

とかなんとか聞くと。
あー、芸術系の眠たくなる映画かなあ・・・と思わせますが、どっこい、この映画の吸引力は凄かった。

物静かな映画なのに、映像から、ふんだんの愛嬌を感じます。
芸術系なのに、自己満足で終わらず、観る者を楽しませようという茶目っ気があるのです。

それは、時折、何だか宮崎アニメを見ているような気分に少しなったくらいです。

草原


『天空の城ラピュタ』のシータのような三つ編みの美少女が主人公です。演じるエレーナ・アンは、ロシア人と韓国人のハーフだそうです。アジア系の雰囲気だから、美女ですが、どこか見た事のあるような容貌に親近感が湧きます。こういうアイドルがいたような・・・誰とも思い出せませんが。
監督は、彼女の美しさを際立たせるため、一切セリフを言わせなかったといいます。これって大正解の手法だと思います。日本の女優さんも、時折セリフのない役柄を演じますが、すごく印象が良いのです。以前に放映された『必殺仕事人2015』では、某女優さんが何割も増して魅力的に見えたほどです。とてつもない効果です。

草原3


少女が献身的に世話をする父親が、また不思議な雰囲気です。巨漢の男で、ぬぼっとしています。一瞬、韓国映画の『殺人の追憶』の時のソン・ガンホに見えました。無類の飛行機好きのようで、翼のない飛行機に乗り込んだり、ブーンと声に出しながら、両手を広げて飛行機の真似をします。強面なのに、屈託のない男なのです。

他に、少女に恋をし、取り合いをする青年二人が登場します。
恐らく少女と幼馴染で、小さい頃から何となく結婚する約束のようなものを交わしていたかもしれない地元の青年は、どこか少女の父親に似ています。地元のヤンキーって顔つきですが、純朴な雰囲気や頼もしさを感じます。
その恋敵として横槍を入れてきたのは、突如転校してきた都会っ子みたいに、優男でシャレっ気のある白人青年です。この子は始終ニッコニコしているんです。珍妙なほど目を見開いて、少女に愛想を振りまきます。『魔女の宅急便』のトンボみたいな。「魔女子さーーーん!」って感じで、ほんのりウザくもあります。ああ…。そりゃあ、地元青年はブチ切れるでしょう。彼はこれまで、少女の境遇の全てをそばで見守ってきたのです。少女を馬に乗せる時のように手を差し伸べ、力になってきたはずなのです。許嫁のような気持ちで、真摯に少女を守ってきたことでしょう。それが、急に現れた白人青年が、無粋にかっさらおうとしているのだから、怒り心頭もごもっとも。まるで『もののけ姫』でいうところの、よそ者のアシタカにかき回された、エボシLOVEのゴンザ。

…しかし哀しいかな、この白人青年は、やはり年端もいかない少女からすれば、存分に魅力的なのです。彼は夜中にこっそり少女の元を尋ね、少女の写真をプロジェクターで壁一面に照らし出して見せます。まるで魔法のように。「今はこれが…精一杯」って感じで。
イ チ コ ロ。
そんな無情な言葉が、むなしく頭の中に響いたものです。少女の恋心にうっすらと気づき、不安を募らせる少女のオヤジと地元ヤンキー。えらいこっちゃ。人物が喋らない映画だけに、顔色でうかがえる心の中の警鐘が、ぐいぐいと伝わってきて、痛いです。

草原2


地元青年は、白人青年に決闘を申し込みます。
いつもピッカリときらめいた笑顔の白人青年の顔つきが、その時きゅっと引き締まるのがいいです。
少女のために、清々しいほど無我夢中に闘っている二人の様子は、『天空の城ラピュタ』のパズーほどに、純度が高く、まっすぐなのです。だから、こんな小っ恥ずかしいほど古めかしい三人の恋路のやり取りが、ちっとも陳腐に思えません。
それほど、本作の登場人物たちが、かつて宮崎駿が作り出していた者たちのように、無垢に思えるからなのです。

そう、彼らだけだったら、世界はよほど美しかったものでしょう。

しかしこの物語は、いくつかの伏線を表して、恐るべき結末に堕ちます。

神の啓示のような落雷が導いた束の間の幸せに降りかかったのは、それを凌駕する悪魔の実験。

静寂も何もかもを飲み込むほどの衝撃。

この世界は、果たして。
『もののけ姫』のように、再生するのか。
『ナウシカ』のように、腐海に沈みゆくのか。

これは、実話を基にした物語です。

草原4


 

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Posted on 2016/06/02 Thu. 22:14 [edit]

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