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ブラック・スキャンダル /ジョニーと、ブラックなスキャンダル。 


 ブラックスキャンダル
 ブラック・スキャンダル
 (2015年 アメリカ映画)  80/100点


今回は、ジョニー・デップの『ブラックスキャンダル』です。あ、離婚の件ではありません。

ジョニー・デップが、実在した「悪人」を演じることで話題になった本作。
『パイレーツ・オブ・カリビアン』『ダーク・シャドウ』『チャーリーとチョコレート工場』などなど、コスプレしたファンタジー映画では、これまで様々な役柄に七変化してきたデップ。しかし、近年ではどうにも当たり役に出会っていません。
『ツーリスト』『ラム・ダイアリー』のような、コスプレしない現実路線の映画をやってみても、どうも今一つしっくりしません。
『トランセンデンス』では、コスプレをしないSF映画という新たな路線でやってみたものの、思いがけずコケました。
そこで今回、彼が選んだのはコスプレをした現実路線の映画ということだったのです。

作品選びから、迷走している様子がくっきり浮かび上がるのですが大丈夫でしょうか。

スキャンダル1


今回の彼のコスプレは、なんと衝撃のハゲヅラなのです。
とはいっても、『東京ゾンビ』の時の哀川翔が見たら、ジャケットを叩き付けて怒り出しそうなほど、カッコイイです。老けメイクもばっちり決まっています。
しかし、考えてみたらデップの実年齢は52歳なんです。本来初老の男であるはずなのに、メイクをしなければ老け役になれないとは、逆に嫌味のような気がしないでもありません。

ところが。

ヅラと特殊メイクで見事に老けた姿を見せている彼ですが、実は耳なし芳一の如く、一か所のみ手を加えられていない部分があります。
それは、「瞳」です。
『J・エドガー』の時のディカプリオにも感じたことです。瞳には特殊メイクを施せないため、シワのよった肌の奥に、スター性を宿したキレイな瞳が、隠しきれずにキラッキラしているのです。そこに、妙な不自然さを感じて仕方ありませんでした。
しかし。
彼が演じているのは、実在した犯罪組織のリーダー、ホワイティ・バルジャー。風貌の老いと瞳の輝きのアンバランスが、低温の残虐性を宿したキャラクターの「異質さ」を、かえって強調させているようにも思います。

いいじゃん! やったじゃん! 新境地じゃん! 
スターが悪役を演じるといっても、どうしても「結局はいい人」だったりすることがあります。しかし、彼はスター性など微塵も気にしないかのように、本物の悪人を演じていました。なにしろ、女にだって暴力を振るうくらい振りきれているのです。
…あ、いや、映画の話ですよ。

ということで。

本作は、「ジョニー・デップが見事に演じる悪人・バルジャーと、野望を湛えた彼の周囲の男たちの物語」

本作の見どころの大部分は、やはりバルジャーの「恐さ」です。
彼には、何か気に入らないと突然キレそうな凄味があります。
そして、彼はとにかく「裏切り」を許しません。「忠誠」という価値に重きを置いています。常に裏切る者がいないか、異様に目を光らせるのです。それは、『ジェシー・ジェームズの暗殺』のジェシー(ブラッド・ピット)のようでした。元来、犯罪組織のリーダーは支配欲の強い人間です。自分の手の内から逃れ反目するような者を、絶対に許せないのです。
「肉にかける抜群に旨いソースの秘密」を漏らした仲間に対し、冗談めかしていたとはいえ、バルジャーが「裏切り者の要素」を見透かそうとした場面では、彼の不安定な狂気に背筋が凍る思いがしました。
それとは別に。
信じる者など一切いない彼の孤独な狂気もまた、ちらついて見えます。
忠誠心を示さないコノリーの奥さんに近づき、冷淡に脅す姿もまた、彼の狭量さと、深い孤独を感じるのでした。

しかし彼には、心から信じるに値する者もいます。
それは、家族です。
息子、そして母親、弟。血のつながりは、彼の唯一の安らぎだったのかもしれません。
そう、彼は妻にさえ、冷たく当たるのだから。あ、もちろん映画の  

それだけに、彼に次々と舞い込む家族の悲劇は、彼の内なる狂気をさらに増幅させていくのでした。

スキャンダル3


ところで。

バルジャーと手を組み、FBIでの出世を目論む捜査官・コノリー(ジョエル・エドガートン)も、かなり印象的な人物です。『アメリカン・ハッスル』のリッチー(ブラッドレイ・クーパー)や、『アウトレイジ』の片岡( 小日向文世)のような悪玉刑事を思い起こさせます。
彼は、バルジャーを裏切りません。
彼もまた、「忠誠」を重視して生きているのです。

犯罪者であるバルジャー。
捜査官であるコノリー。

職業や風貌は似ていなくても、根柢にある人間味には同じ匂いを感じます。思えば、彼らは同郷です。子供の頃からの知り合いなのです。彼らは、大人になり損ねた子供だったのかもしれません。子どもの頃の世界をそのままに、ガキ大将ゴッコの延長線上で生きているような「幼稚さ」を、彼らに感じずにはいられません。
バルジャーを不審に思うコノリーの妻は、「忠誠」などと、もっともらしく言い出す夫を、随分バカバカしく思ったことでしょう。

スキャンダル


さて。


<以下、結末のネタバレを含みます。>


二人の魅力的なキャラクターのおかげで、なかなか楽しめる本作ではありますが、難点もあります。

その他の登場人物の描写が薄いのです。
とりわけ、ベネディクト・カンバーバッチが演じるバルジャーの弟・ビリーが、何ともあっさりしていました。

犯罪者であるホワイティ・バルジャー。
政治家であるビリー・バルジャー。

さぞや密度の濃い人間関係が見られるものと期待していましたから、あまり物語に絡まない二人の関係性に肩透かしを感じたものです。今や飛ぶ鳥を落とす勢いのカンバーバッチと、大スターであるデップとの競演ですからなおさら。何だか、特別出演枠のような薄味な役割だったものです。
せめて、せめて、カンバーバッチもハゲヅラを被るべきだった。

あと、ファーストカットで出てきたバルジャーの用心棒も、キーポイントのキャラクターかと思い込んでいましたが、特に終盤は印象に残らず。他の仲間たちや弟・ビリーの末路も、最後にテロップでダイジェストに伝えられるばかり。もっと映像で観たかったと思うのです。それも濃く、もっと濃く。

BURAKKU.png


それから。

史実だから仕方ないのですが、バルジャーは晩年まで生き残り、最後には普通に捕まって終わります。エンタメのマフィア映画であれば、壮絶な最期が訪れる展開であったと思うのです。ここもあっさりとしていて、味気なく思いました。

ただ。

結局、仲間のほとんどに密告されるという皮肉や、唯一密告しなかった者が、最も重い刑に処されるという皮肉が利いていました。
おまけに。
身の毛もよだつ悪人を見事に演じたせいで、DV疑惑に真実味を与えちゃったという皮肉も利いているのです。あ、これは、現実のブラックなスキャンダル。

(※デップのDV疑惑は信ぴょう性が低いと言われていますので、あしからず)


  

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Posted on 2016/06/24 Fri. 21:09 [edit]

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