素人目線の映画感想ブログ

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沈黙 サイレンス/宗教観は、人それぞれでいいのに。 


 沈黙
 沈黙 サイレンス
 (2017年 アメリカ映画)  84/100点



<結末には触れませんが、ややネタバレしています>


特定の宗教に思い入れがないので、フラットな気持ちで鑑賞できたと思います。
まさに本作の大きな特徴も、そこ。
日本を「悪」として描くことなく、日本側の弾圧キリスト教側の布教それぞれにある「正当たる理由」を、実に中立に描き出しています。
そして、「神はなぜ沈黙しているのか?」「真の信仰とは?」という重たいテーマに、本作ならではの解答も示します。とても興味深い映画なのです。

あらすじは、「キリスト教の司祭であるロドリゴは、師であるフェレイラ司祭が日本で棄教したと聞き、驚愕する。そこで彼は、フェレイラを探すべく日本へ潜伏。しかし日本では、キリスト教徒への残虐な弾圧が行われていた」というお話。

沈黙3


・なぜ、敬虔なキリシタンであるフェレイラ司祭(リーアム・ニーソン)は、棄教(キリスト教を捨てること)したのか。
・果たして、ロドリゴは地獄の苦痛をともなう拷問を前に、棄教するのか。

基本的には静かな場面が多い本作ですが、上記のようなミステリーの部分とサスペンスの部分も多いので、画面にくぎ付けになるのではないでしょうか。(私は原作を読んでいて展開を知っていたため、実は2時間40分の上映時間に若干の「長さ」を感じてしまいました)
しかし、映像は凄かった。荒々しい海の風景美だけでなく、人の立ち位置とかもいちいち計算されていて、ちゃんと「時代劇」の美しい「画」になっていたので、嬉しく思ったものです。外国の監督がよくしでかすトンデモ日本描写みたいなものは、私は全く感じませんでした。そのあたり、本作のマーティン・スコセッシ監督は「黒澤明」の信奉者なので、所々で、「黒澤映画」っぽさを感じたりもしたのでした。
拷問場面は、凄惨です。荒れた海上に張り付けにしたり、逆さ吊りにしたり、容赦がありません。ただ、これほどひどい拷問だからこそ、終盤の展開に息を呑むのです。

沈黙6


イッセー尾形演じる井上筑後守と、日本に潜伏し捕らえられた アンドリュー・ガーフィールド演じるロドリゴ司祭の論争は、大きな見どころです。イッセー尾形は素晴らしいです。彼の演技を観たくて本作に興味を持ちましたが、期待以上の存在感。ハエを払う所作一つだけでも、魅せます。表情やセリフの言い回しでも、考え抜いた巧さを感じます。これだけでも、本作を観て良かったと思えるほどです。
さて。
井上筑後守は、好々爺のフリして、その実、残虐な拷問を指揮している首謀者です。数多くの司祭を棄教させてきた凄腕のフィクサー。穏やかな口調で、ロドリゴに説きます。彼の論調が、決して「キリスト教」を否定していない、というところに面白味があります。井上筑後守は、「君らの国では正しい宗教なのだろうけれど、日本ではそうではないのだよ」と語ります。それに対しロドリゴは、「全人類にとって正しくなければ意味がない!」と主張します。「宗教の難しさ、ここにあり」なのです。無宗教である私などは、それは「押しつけ」以外の何物でもないと感じます。君は君、私は私でいいじゃないか。しかし、絶対唯一の神様を信じるロドリゴにとっては、それが許せない。「絶対オレの神様の方が正しいもんね」と正義を背負ってしまっているのです。その考え方は、時には戦争にまで発展します。
おまけに、キリスト教の内部でも、様々な宗派があります。それを、井上筑後守は、「不仲な四人の側室と離縁した大名」のたとえ話で説明します。つまり、「いろいろな宗派がいろいろ違うこと言ってくるから、もう迷惑なんです」ということ。それに対しロドリゴは、「一人の側室に決めたらいいではありませんか」と、ドヤ顔で答えます。なかなかロドリゴは、こましゃくれたガキんちょなのです。
あーいえば、こー言う。
酒の席では、決して「政治」や「宗教」の話をしてはいけないと言われる通り、こういう話の先にあるのは、結局不毛な水掛け論なのでした。
こういう場面では、やはり日本側の目線で観てしまうのですが、やはり、ロドリゴは独善的に見えます。浅野忠信演じる通辞も言っていたのと同様に、「傲慢な奴だ」とさえ見えるのです。一方的に自分が正しいと思い込んでいる人ほど、厄介な人はいません。その強烈なロドリゴの正義感を見ていると、そこに恐怖を感じ、当時の幕府が「キリスト教」弾圧に動いたのは、当然だと思えるのです。

沈黙7


無論、キリスト教側があまりに頑なで危険だとしても、残虐な拷問が正当化されるものではありません。

それに。

なぜ、日本の人々の多くが「キリスト教」信者になったのか。それは、幕府や仏教を信じられなかったからではないでしょうか。根本的に、日本側につけ入れられる隙(落ち度)があったのは、間違いないのだと思うのです。当時、苦しい生活を強いられていた人々が、「キリスト教」に救いを見出したのであれば、それを奪い取る権利は誰にあるはずもないと思います。

沈黙2


少しだけ「宗教の話」に触れると、宗教に嘘もへったくれもないと思います。その人が、信じることで救われているのならば、それは「本物」です。信じていない人にとっては、すべて「偽物」です。「信じている人」「信じていない人」それぞれが、それぞれの考えを尊重し、上手に住み分けすることが出来れば、宗教問題での争いはなくなると思うのですが、それもまた…、難しいのでしょうね。オウム真理教であっても、信じるのは自由なんです。その思想を、一般社会にまで広げようとするからダメなんです。山に籠って、そこだけで、仲間内だけで修行しているだけなら、それは本当にご自由にどうぞだと思うのですよ。信じていない人まで巻き込もうとするから、ダメなんです。

ところで。

本作の凄い点は、実はもっと深い所にあります。
正しい信仰とは何なのか。ラストで本作が描き出す「答え」は、原作にはありません。自身もカトリックである、スコセッシ監督の導き出した答えなのです。

「踏み絵」を踏まず、死を賭して貫くことが、正しい信仰なのか。

ロドリゴは、自身は踏まずとも、拷問を前にして悩む信者に、「踏めばいい」と言いました。ロドリゴと同じ司祭であるガルペは、それに真っ向から反論。「踏んではダメだ」と主張します。反論されたロドリゴは、やはり自信がないのか、それに言い返せませんでした。
日本側は、踏み絵を前にした信者にこう説きます。「形式的に踏みさえすればいいのだよ」と。原作では、日本側の説得はもっと柔軟です。「心から、とは言わぬ。あくまで形式で踏めばよい。心の中まで変えよとは言わぬ」とさえ言っています。しかし、信者の耳にそれは、悪魔のささやきにしか聞こえないのかもしれません。

踏めば、神様に救ってもらえない。

そういう強迫観念が、信者たちにあるのです。
日本の拷問は残酷ですが、「踏んではダメだ」という思想を植え込んだ司祭側も、同じく残酷だと、信仰心のない私は思います。
その昔、ビートたけしが主演していたテレビドラマ『説得―エホバの証人と輸血拒否事件』を思い起こしました。輸血をしないと死んでしまう子どもの手術が、「輸血をしてはいけない」という宗教の規則に阻まれる物語です。信じていない人には、「あまりに愚かなこと」でも、信じている人にとっては、簡単に答えが出せないのです。輸血をすれば、「死ぬより恐ろしいこと」が待っていると信じているのだから。

沈黙4


さて。その他。

・惜しむらくは、セリフのほとんどが「英語」であることが残念でした。やはりアメリカ公開を中心に考えると、そうせざるをえないのでしょうかね。前述したイッセー尾形の演技を、ぜひ日本語で見たかった。一介の村人も、牢屋番までもが英語しゃべってらあ。私なんかより、よっぽどリスニングが出来ているで悔しい。

・井上筑後守の正体は、もうちょっと分かりにくくしてほしかったと思います。初めっから一癖ありそうなジジイでしたから。「危険人物」だと聞いていたイノウエが、まさか目の前の人物とは! というくだりは、ちょっと変でした。

・「キリシタンではありません」と言いながら、踏み絵を前にして思いっきり躊躇している姿は、踏まずとも100%キリシタンですよね。

・通辞役の浅野忠信は、原作通り、「理解者のフリをしていて、実は優越感満載のイヤな奴」を見事に演じていました。

・本作の「答え」が真の答えであるならば、それまで犠牲になった人たちは、あまりに救われないとも思うのです。

井上筑後守は、実は元キリシタンです(原作にそう書かれています)。ロドリゴに「あなたはキリスト教が全然わかってない」と言われ、悔しそうに、けれど言い返さず体を萎ませる場面が印象的でした。ひょっとして…、井上筑後守は、お上の命により、仕方なく弾圧を実行しているのではないか。フェレイラが至ったある意味での「悟り」と同じ境地に、彼もまた「成った」のではないか。だからこそ、ロドリゴを懸命に諭そうと必死だったのではないか。そんな気がしました。


本作を観た、ある宗教家の知人が言うには、ロドリゴが、自身の中に「キリスト」を見出して狂喜した直後に捕らえられてしまうのは、「神様に期待することが間違い」ということを示していると言います。「踏めばいい」とも言っていました。神様は人間に何も求めてはいないのに、人間が勝手なルールを決めているのだと言うのです。ゆえに、「キチジローが正しい」…だそうです。

もちろん…、それもまた一つの見方です。

宗教は、やはり難しい。でも、面白い。本作は、とても勉強になりますよ。(原作がすごく面白いのですが、未読の方は、映画を先に見ることをお薦めします)


   

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Posted on 2017/02/27 Mon. 21:26 [edit]

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