素人目線の映画感想ブログ

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海よりもまだ深く/それでもみんな、生きていく。 


海よりもまだ深く

(2016年 日本映画)  90/100点


是枝裕和監督の真骨頂、「大きなことは何も起きない」日常のドラマ。

『そして父になる』や『海街ダイヤリー』では少しばかりドラマチックでしたけど、本作はどちらかというと『歩いても歩いても』のように、本当に特別なことなんて起きません。

なのに、不思議なくらい、面白いです。面白いどころか、見終わった後に、深くジーーーーーーンときます。日本映画だからこそ、の映画だと思います。母(樹木希林)と長男の良多(阿部寛)の親子の雰囲気や、「団地」という日本人の原風景…、もっと言うと、所々で出てくる「幸福論」なんかも含め、これらは、日本人にとって芯から沁みいる描写だと思います。

あらすじは、「台風の日の夜、嫁と離婚して間もない男は、その元・嫁と子どもと母親と、実家で一晩を過ごすことになる」という物語。

海よりも


『葛城事件』のような父親が強い家族モノは、途端に陰気な映画になります。本作のように、女性がどちらかというと強い立場の映画は、コメディになります。結局、「女性が強い=平和」なのかもしれません。『もののけ姫』のアシタカいわく、「いい村は、女が元気」ということでしょうか。

本作の主人公である良多は、滅法ダメンズ。文学賞を獲るほどの文才がありますが、ギャンブル中毒でお金に常に困り、親族にお金を借りたり、こっそり拝借しようとしたり。そして、離婚した嫁(真木よう子)に未練たらたらで、ストーカーばりに元・嫁の行動を監視したりしています。けれどどこか微笑ましいのは、演じる阿部寛の毒っ気のない天然キャラのおかげ。これが三浦友和なら、途端に泥沼の怨恨劇場になるというもの。次回作の取材も兼ねて探偵事務所に身を置き、日夜「不倫」を追いかけています。調査対象の高校生から、「お前みたいな大人にはなりたくない」と言われ、「なりたい大人になれると思ったら大間違いだ!」とムキになって言い返すほど、自身の人生に悔いを持っています。

その良多の母親を、『歩いても歩いても』と同じく、樹木希林が演じるわけです。もう超自然で「ザ・母親」です。「ザ・お婆ちゃん」でもあります。団地住まいから抜け出したいという願いは叶わず、ほそぼそと暮らしています。ガチガチに凍らせたカルピスをスプーンでがりがり削って食べたり、質素な生活ぶりが何ともリアルです。茶目っ気もあって、孫に「おばあちゃん家のお風呂は、まっくろくろすけが出るのよ~」なんて、言ってます。実際は、黒ずんだ汚れが浴槽に浮かぶだけ。水場のまっくろくろすけは、遠慮したいところです。けれどその狭く、キレイとは言いがたいお風呂がまた何とも、日本人の記憶の奥底をかき混ぜるような描写だと思いました。

海よりも3


良多の元・嫁を演じるのは、真木よう子。合理的な女性で、ダメンズの良多を許せるわけもなく、離婚し、今や新しい彼氏と結婚間近。養育費の支払いを滞らせている良多にきつーい視線を向け、厳しい言葉ばかり浴びせますが、その実、彼氏から良多の小説をバカにされると、ちょっと納得いかないような雰囲気をにじませます。国語の教員免許を持っているだけに、本来は良多の文才に惹かれている所があるのだと思います。ところが、良多は「家族」向きの人ではなかった…。ゆえに、「愛だけじゃやっていけないのよ」と言ってのけ、良多とは違って前を向いて、現実的に生きるたくましい女性なのです。

上記三人に、小学生くらいの子どもが一人加わって、ある台風の日、団地の一室で一晩を過ごす終盤が醍醐味です。本当のところ、序盤から中盤の良多の「探偵描写」は、「映画的な設定」過ぎて、あまり本作の雰囲気に合致していないような気がしました。
そんなことより。
その終盤の団地場面での樹木希林が、もう最強なんです。ワンマンショーといっていいほどの存在感です。良多との会話は、本当に何気ない親子の会話ですけど、長い人生で培った教訓を、神業のような芝居でこぼします。「迷惑かけずにポックリ逝くのが、本人も周りも楽だって言うけど、そんなの嘘よ」「何で男は、今を愛せないのかねえ」「幸せってのはねえ、何かを諦めないと手にできないもんなのよ」「単純よ。人生なんて単純よぉ」 …亡き父親と同じようにうだつの上がらない良多に、何気なく語るこの姿は、達観した寛容さを感じさせ、良多や私たちの心を揺らします。おまけに、歌詞が本作のタイトルになっている、テレサテンの『別れの予感』が流れるのだから堪りません。この場面の素晴らしさを、一層深くするのです。




みんな、大なり小なり不満はあれど、それでも何とか生きていく。ごまかしてでも、楽しく、生きていく。

前述した良多のセリフのように、「なりたい大人になれる」なんて滅多にありません。順調に進む人生なんてあり得ません。良多は、探偵稼業の中でも、そんな人生を山ほど見たでしょう。彼の周りの人たちも、思ったようにはいっていない人ばかり。「こんなはずじゃなかった人生」ってのが、本来フツーの人生なのだと。なんかまるで…、仏教的な悟りのようですが、不満を抱き、いつまでもウジウジしている全ての大人に、樹木希林の言葉は突き刺さると思います。

海よりも4


それにしても。

離婚した両親と一緒に一晩過ごす羽目になった子どもの気持ちは、大丈夫なんでしょうか。これは…、結構、複雑だと思いますよ。大人しいし、陰気な目をしているし、そこが心配だったものです。当の大人たちは、子どもの前でも好き放題仲違いを見せつけるし。台風の中、夜の公園で一時だけ団らんが戻るのが、かえって酷に思えたものです。どうか、この逆境を飲み込んで、たくましくなってくれればいいのですが。

ということで。

すごく、いい映画です。心にびたっと張り付きました。エンディングテーマも、いい曲だったなあ。

あまりうまくないですが、今日は、この辺で。


  

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Posted on 2017/03/24 Fri. 13:49 [edit]

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