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クリ-ピー 偽りの隣人 /となりのサイコ。 


 クリ―ピー
 クリ-ピー 偽りの隣人
 (2016年 日本映画)  88/100点


ものすごい怖い映画でした。もちろん、本作は心霊ものではありません。同じように、先日観た『ドント・ブリーズ』も非心霊もので怖かったですが、全くもって毛色の違う怖さです。あちらは、いわゆる「お化け屋敷」のようなエンターテイメントな怖さ。それに比べ、本作は、一歩間違えば自分もその危険に迫られるかもしれないと怯えさせるほど、日常の狭間で起こった恐怖を描きます。だから、見終わった後にゲンナリします。自分の周囲に、本作で登場するような人間はいないだろうかと不安に襲われるのです(実際いたりします)。だいぶ脚色しているとはいえ、本作の原作小説は、実際にあった「北九州監禁殺人事件」を下敷きにしていますから、余計「リアル」に感じます。信じられるかい。こんな奴、世の中にホントにいるんだぜ…

本作の監督は、鬼才・黒沢清。傑作のサイコ・サスペンス『CURE』を思い起こします。ゾっとさせる演出を得意とした監督です。本作では、その本領をいかんなく発揮。骨の髄まで凍りつかせます。素晴らしいのは、突然人が飛び出してくるような、「ワッ」というような短絡的な怖がらせ方はしないところ。「ハリウッドよ、これが恐怖描写だ」と言いたいくらいです。「ワっ」なんて青いんだよ。「ゾっ」なんだよ、「ゾっ」 それは物語の展開だけに限らず、意図的に照明が暗くなる演出や、あまりに気まずい会話、カットがちょっと切り替わった後、そこにいたはずの人がいなくなっている等、いちいち「ゾっ」とさせます。人の立ち位置も、実に気味悪く感じる様に、よぉぉく計算されていて凄いです。

序盤もなかなか。本筋とは関係ない、あるサイコパスによる凄惨な事件が起こります。そこで、犯罪心理のスペシャリストでさえ理解不能なサイコパスの異常性を見せつけ、もう序盤から震え上がらせます。とてつもなくヤバい映画だと分かる導入部です。

クリーピー0


そして圧巻なのは、役者陣の巧さ、…中でも、サイコパス・西野を演じる香川照之の巧さが相変わらず。ドラマや映画やテレビ番組で何度となく見ている香川照之。おまけに、本作で彼に敵対する主人公・高倉を演じる西島秀俊とは、『MOZU』等でも共演しています。本来おなじみ過ぎで目新しくなく、もっと言えばつまんないキャスティングなんです。
が。
それでも、香川照之が本当にサイコパスにしか見えず、心底ゾォっとさせるのだから、とんでもない演技力なんだと思います。
ちなみに、終盤の竹内結子も凄かったと思います。役者の演技力は監督の演出で決まると北野武が言っていましたけど、本当だなあと。

高倉とその妻・康子が越した家の隣人が、運の悪いことに、その西野だったのです。西野の言動がとにかく怖い。さっきまでにこやかだったのに、相手の何気ない一言に、急に顔色を変えます。康子の「今度は奥様もぜひ」という社交辞令程度の言葉に、「どういう意味ですか?」とキレ気味になるのです。その後、高倉に「あなたの奥さんが根掘り葉掘り聞いてくるので困っている」と異様なクレームを付けます…。
普通じゃない。
こんな奴が、「僕もそろそろ大人の自動車保険かな~」つって笑顔向けたって気を付けろ!

さて。

本作は、サイコパスの手による「洗脳」の話です。相手を脅したり、暴力をふるったりして判断能力を奪い、自分の意のままに操つる「洗脳」は実在します。次第に正気を失っていく康子の表情が恐ろしいです。え…? なんでお前、イヤな奴って言ってた男を家にあげてんの…? 人が、自分の意思を欠落させていく描写…恐れている筈の相手と、不自然なほど自然体で仲良くしている姿は、意味も解らずゾクゾクさせます。ゾンビ映画など、比べものにならない恐怖です。だってそんなことが、日常からほんの先で、実際に起こっているのだから。

思えば、康子は元来「洗脳」されやすい人間であったのかもしれません。あんなにイヤな奴だと認識していた西野の家に、わざわざ自分からシチューを持っていくなどしているのです。世間知らずで人を疑わない性格と、寂しがり屋な性格の隙に、西野は付け込んでいったのだと思います。その逆に、同じく隣人である田中は、人付き合いを好まず、猜疑心の強い人間だったから、西野に洗脳されていませんでした。

それにしても。

康子の夫であり、主人公・高倉は、ちょっと残念でした。出来る男を醸していて、あんまし出来ません。心理学のプロのようで、人の心理がまるで分っていません。序盤の犯人説得からして、コントみたいなミスを犯します。そもそも犯人の目前で、「オレが説得する!」って高らかに宣言するバカがいるでしょうか。誰が聞いてやるもんかって、相手が余計意固地になるでしょうが。
6年前の事件の唯一の女性への聞き込みも、当初は強引な部下に、やめるんだ…とカッコ付けて制止しておいて、段々自分の方がヒートアップしてんやんの…。
極めつけは、西野がかなりヤバい奴だと気づいていながら、妻を置いたまま出掛けるって何なんですか。帰ってみたら妻がいない… ホワァイ!? ってバカー!

こんな夫なものだから、妻・康子の洗脳は着々と進んでいくのでした。


ただ。(以下、ネタバレしていきます)

クリーピー1


本作の怖さは、中盤から少し失速します。
それは、西野の家の異様な地下室が出て来てからです。
ハリウッドの猟奇殺人系映画のように、家の地下室が変なんです。映画的に装飾され過ぎ…というか。鉄の扉なんて出てきた日には、せっかくの「日常性」がブチ壊れです。一気に映画は「物語」になってしまい、鑑賞者との間に一線が出来てしまいました。
おまけに、「洗脳」する過程に、「謎の薬」を利用しているという描写は大変肩透かしでした。そこは、じっくりにでも、西野の能力によって「洗脳」させてほしかった。確かに、実際の「洗脳」はそれなりに時間を要します。短い上映時間で「洗脳」を描写するには、「薬」が手っ取り早かったのかもしれませんが…。「洗脳」の描写は、同じく「北九州監禁殺人事件」をモデルにした、マンガ『闇金ウシジマ君』の「洗脳君」の章の方が詳しいです。…読んだ後、本当にイヤな気持ちになるので、オススメしにくいですけど。

そうはいっても。

世の中に「サイコパス」や「洗脳」は確かに存在するということは、知っておいた方がいいと思います。サイコパスはターゲットに人当たりよく近付き、急にターゲットの凡ミスに難癖を付け始め、正論を吐いて罪悪感を植え、恫喝し、(周りが君の陰口を言っていると嘘を付いて)孤立させ、逃げ場のない状態にします。怖いのは、いったん洗脳させたら厳重な監視もいらなくなることです。これは、専門用語で「学習性無力感」と言います。「逃げようとする」意思を奪います。よく実際の監禁事件で、被害者が逃げようとしていないことを不思議に思う事がありますが、この心理状態に追い込まれていると言われています。

クリーピー2


ところで。

本作の世間の評価はあまり高くありません。批判されているように、よく分からない部分が多すぎるのは、確かです。前述の「地下室」や「薬」しかり。6年前に、唯一西野の毒牙を逃れた女性の謎も解決していません。ラスト、高倉が洗脳を逃れた理由も「?」のままです。まあでも、あそこで高倉が撃ってくれた時は、何とも言えない爽快感がありましたね。倍返しだ!って。(違う)

そういう面で、完成度が高いと言えない惜しい部分もある本作ですが、元来「理屈」では理解しえない人間を描いた映画ですから、本作に蔓延している「不可解」は、むしろ狙いだったのかもしれません。

一説には、主人公・高倉も、被害者に向かって「面白いですね」などと言ってしまうほど、相手の気持ちを気遣えないことから、サイコパスである可能性があるようです。また、思い出してみれば、高倉の部下・野上(東出昌大)も異様な空気感を纏っています。終盤にようやく高倉に協力する刑事(笹野高史)も、どこか様子が変です。警察に呼び出していた西野を帰宅させた部下を怒鳴りつけるのは、パワハラの気質です。

気付いてみると、西野に限らずここかしこに、異様な人間性を見せるキャラクターが配置されているのです。

そうであるなら。

きっと私たちの身近にも、そういう人間はいる。
本作は、そういう注意喚起として、気を付ける為に観ておいた方がいいのだと思います。


  

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Posted on 2017/04/04 Tue. 21:09 [edit]

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