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淵に立つ /そっと覗いてみてごらん。 


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 淵に立つ
 (2016年 日本映画)  80/100点



<今回は、ネタバレしていません>


面白い、面白くない、では語れない映画でした。

とても薦めにくいです。邦画の秀作って、どうしてこうも人生が嫌になるような映画が多いのでしょうね。昨年で言うと『クリ―ピー』『ヒメアノール』『葛城事件』などなど。その演出はすごく巧いがために、思わず見入ってしまうのですが、見終わった後には、ほとほと疲れ果てるという副作用がひどいです。

本作は、それがかなり強め。観るには…、覚悟が必要です。

あらすじは、「小さな町工場の経営者・利雄(古舘寛治)と、妻・章江(筒井真理子)は、幼い娘と3人家族。そこへある日、利雄の古い友達だという八坂(浅野忠信)が現れる。住み込みで利雄の元で働き始める八坂は、真面目そうな男だったが、彼は殺人の罪で服役し、出所したばかりであった…」というお話。

淵1


浅野忠信演じる八坂が、得体が知れなくて怖いんです。彼がまじめなことを呟けば呟くほど、礼儀正しくしていればしているほど、余計に警戒心が高まります。その怪しさたるや、『プロメテウス』のデヴィッド(マイケル・ファスベンダー)のようだし、彼の動きの無機質さたるや、『ターミネーター2』のT-1000(ロバート・パトリック)のようなのです。
…そう。彼には、アンドロイドのような温度の低い人間性が垣間見えるのですよ。

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油断ならん、デコ広男三人衆。


こんな男を、家に招き入れた一家の主・利雄。彼がまだ、シュワルツネッガーばりに頼もしい男であるならば良かったのですが、絵に描いたようなヘタレキャラ。嫁との関係は冷え切っており、あまり子どもにも関心がない様子。よくある家族の風景っちゃ、風景ですけれど、そんな中に異物として飛び込んできた八坂は、案の定、この家族に強烈な渦を巻き起こします。

ただ。

八坂は、初めからそんなつもりではなかったのだと思うのです。
彼は、過去に大きな罪を犯していますが、反省していると見えます。幸江に罪の告白をし、自己の性格の問題点を吐露しますが、それは本心だったのではないか。
だからこそ、恐ろしい。
ずっと紳士だった彼が、突然利雄にキレる場面の、怖さ。
耐えていた不遇への不満が、彼の理性をついに呑み込んだように見えた時の、やるせなさ。
本能に抗えないように、内に秘めた「凶暴性」を、彼自身どうしても抑えきれないのです。凶行直前、彼がその場にそぐわない鼻歌を歌っていたのは、頭の中に沸いた悪魔の思考を追い払おうと必死になっている気がしました。と同時に、「オレは…、どうせそんな人間だよ…」という諦めもまた、感じました。

淵2


中盤で起きる、とてつもない衝撃。
画面を見ていられないほど。
本当に、稲妻のような衝撃。そして永遠に続く、鈍痛のような苦み。何度も言いますが、後半は覚悟がいる鑑賞になります。この物語は、「寝取り寝取られ」程度の話しじゃないんです。「この世の残酷」とは、こういうことを言うんです。
後半が始まった時の、異様な緊張感が忘れられません。
どうなっていくのだろうか。
恐ろしくとも、それでも、この家族を最後まで見届けたくて仕方ありませんでした。利雄と章江のように、心の中で願うからです。「不幸」ではない「未来」を。もしかしたら。もしかしたら。…けれど、願望をあざけ笑うように運命は流れます。皆で傷つけ合った末、罪悪感のようにこびりついた八坂の幻を抱え、彼らは暗い闇がのぞける淵へと追い詰められていきます。もちろん、私たち観客ごと。

この事件を、自分たちへの「罰」だと感じている彼らは、本当はもう知っています。どうしようもないということを。どんなに気丈に振る舞っても、何にも報いてくれない世の中に(神様に)、もう愛想も尽き果てているようで…

少し、ハネケ監督の映画『ファニーゲーム』に近い感覚を受けました。「救い」があるように見せかけて、後ろ足で砂をかけるようにハシゴを外すあたりとか。

それにしても。

八坂役・浅野忠信の異様な存在感の凄味
章江役・筒井真理子の序盤・中盤・終盤の変貌ぶり
利雄役・古館寛治の、力を入れる場所をいつも外しているようなダメっぷり

淵3


怖いもの見たさ…というと安っぽいですが。
この人間模様の闇を覗きたいならば、ぜひ淵に立ってみてください。あまりじっくり覗き込んでいると、つい堕ちていってしまいそうになるけれど。


  

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Posted on 2017/06/21 Wed. 21:40 [edit]

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