素人目線の映画感想ブログ

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夢売るふたり よく見れば、これは理想の夫婦だ。 


 夢
  夢売るふたり
 (2012年 日本映画)85/100点


待望の西川美和監督の最新作です。「ゆれる」「ディアドクター」の監督さんです。
女性らしさと、なぜか男っぽさが、うまいことブレンドされた演出が得意な女性監督です。

これは、「小料理屋を持ちたい夫婦が、資金のために結婚詐欺を共謀する」という話です。
「結婚詐欺」の話ですから、見事にだまされる女性たちがたくさん出てきます。
いわゆる、「都合のいい女」というやつ。これを女性監督が描くわけですから、思う存分に女性の弱さっプリや黒さっプリを撮ることができるのです。
女性目線なので、夫役の阿部サダヲのモテっぷりにも説得力があります。
詐欺の主導権を持つ妻はサダヲに言います。「完璧な男でなくていい。輝きを失って地面に落っこちている星たちを、あんたが小さな太陽となって照らしてあげればいい」 それはまさに、夢を売る、ということ。
 
阿部サダヲは、もちろん普通に「かっこいい」というわけではないです。
けれど、一本筋の通った料理人だし、時に甘え上手、時にサディスティックなキレ芸で、女性たちを手玉にします。

役者さんは皆、すごいナチュラルです。鈴木砂羽や、あまりよく知らない風俗嬢やウェイトリフティングの役の人も、見事なほどリアルな芝居をしています。
あまりに自然体の会話のやり取りが楽しくって、序盤からぐいぐいと引き込まれました。
役者さんはもちろん、監督の力も絶大だなあと思います。
(博多弁もよかった。特に阿部サダヲの「きさん」は、ネイティブハカタリアンの私でも、納得の使いこなしっぷり!)

そして、松たか子の熱演には一段と惹かれました。
すっげー芝居…。
しっかり者の妻(松たか子)は、常に夫(阿部サダオ)を支えています。
火事で焼失する前の小料理屋では、妻は愚直で不器用で腕一本の夫を支え、目配り気配りの采配で店を繁盛させていました。
「結婚詐欺」についても、夫を裏で操り、抜群の女性心理の読みで女性からお金を引き出させます。 
深夜、騙し相手の「田中麗奈」に夫から電話をさせ、セリフをカンペに書いて夫に語らせます。
「君をこれ以上苦しめられない。もう、身を引く」…だのうんぬんかんぬん。
途中で、「涙!」「もっと感情こめて!」とジェスチャーで猛烈指示。
もう見事な采配です。もはや、これは政界のフィクサーレベルです。
夫は、なぜかパンツ一丁でそれに応えます。なぜか、パンツ一丁の悲壮感。
もう見事な操り人形です。もはやこれは日米の関係性を象徴しています。(していません)
電話口の向こうでこんなやりとりがあっているとは知らず、コロリンとだまされる「田中麗奈」
このことを知ったら、きっとどれほどの屈辱であることか…(ここ、伏線です)

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(知的さ、強さ、寂しさ、黒さ、ちょっとエロさを熱演)


松たか子の凄さは、まだあります。
この妻、複雑なことに「夫に結婚詐欺をさせておきながら、実は嫉妬している」という複雑な心理を抱えているのです。
夫のセリフ「お前の足らんは金じゃない。腹いせの足らんだ。女たちや、オレのことを憎んでいるんだ」(予告編でこのセリフを聞いて、この映画を絶対見ようと思いました)
期待通り、松たか子は、このセリフの通りの厄介な気持ちを見事に表層化させていきます。
恐いです。もう、彼女の目が死んでるんですもん。
さらに、さらに複雑なのは、彼女がそれでも耐え、気丈に生きようとする人だということ。
夫は(男は)、弱く、逃げ出すんです。泣くんです。
妻は(女は)、つらい過去をバッサリと切り捨て、目の前の現実に立ち向かうのです。

終盤で、懲りもせずに見せつける妻のひたむきな強さに、なぜか泣けました。
男目線で見ると、「女性にこんな苦労をさせていいの?」とオロオロするのです。
夫が、「お前は俺と結婚して、貧乏くじを引いたと思っているだろう」と妻をなじるシーンがあります。これは、夫の「申し訳なさ」の裏返しの感情です。
夫には潜在的に、「妻を満足させなければ」という気持ちがあります。
女性にとっては、ありがた迷惑な気持ちかもしれませんが、耐えて頑張る妻の表情に、夫になり代わって「申し訳なさ」を感じてしまったのでした。もうねー、「なんか助けてあげたいなー」って…あれ? これって、結婚詐欺に引っかかる人の感情に似てるね…。

ただ、そうはいっても。
私は、この夫婦は理想的だとも思うのです。
「夫婦」ってのは、「愛」だ「恋」だという前に、「同じ目標を持つパートナー」だと思うからです。
この「夫婦」は、「店の資金を貯める」という共通の目標に向かって、理想的なほど共闘していました。
この時の二人の笑顔は本物です。抜群の相性だと断言します。
終盤で、阿部サダヲは心変わりを見せますが、どれほど二人が揉めようと、最後には必ず元のさやに納まると思います。
そう感じさせるラストに、わずかな幸せを感じたのです。
この手の映画は、最後には狂気に至って派手な刃物沙汰を起こし、泥沼な結果になりやすいのですが、そうしなかったことに好感を持ちました。

余談ですが、鶴瓶演じる探偵もよかったです。わずか数シーンで強烈な印象を持たせます。すごい存在感。「うわー死なないでー」と思ったもの。

言いたいことが山ほど出る映画は貴重です。
最後に気になった点も。
・火事シーンはスローモーション多様で、逆に迫力が薄れたかな?
・エロい気持ちではなく、映画的に「田中麗奈」のベッドシーンが省かれている(事後のみ)のは、描写として弱いのでは? (いや、エロい気持ちではなくって!)
・結婚詐欺が始まった序盤に、だまされた女性陣が、阿部サダオのバイト先のカウンターに並んでいるのは失笑しました。リアル感の欠如で、心配になるほどでした。
・なぜあれほど真面目で弱い夫が、中盤まで平気で女性をだませたのか?
・ちょっと尺が長いかなあ。

そんなこんなもありますが、大好きな映画です。本作は、素敵な夫婦の物語だと思っています。


  

  
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Posted on 2012/09/16 Sun. 22:12 [edit]

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