素人目線の映画感想ブログ

素人による、素人のための映画感想・レビュー。 映画文法や方程式なんのその。

※ネタバレがある時は、必ず<赤字>で標記します。

恋人たち /そのうち、何とかなるもんだ。 


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 恋人たち
 (2015年 日本映画)  
 89/100点



本作に出てくるメインの役者さん数人は、演技経験がほとんどないそうです。
それなのに、とてもリアルなセリフ回しです。冒頭の独白なんて、まるでドキュメンタリーを観ているように錯覚するほど。橋口亮輔監督の演技指導の凄さなのだと思います。これが、素人同然の全く無名の役者さんだというから驚きます。

そんな自然体の芝居もあって、本作はとても見応えがあります。
ただ…。
物語は、あまりに「不幸」で「暗い」ものなので、気持ちがへこたれそうになります。リアルな芝居だから、なおのこと。ある人物が「手首を切ろう」とする場面なんて、「実際、こういう風に衝動が起こるものかもしれない」と思わせます。まさに、「迫真」というもの。

2015年のキネマ旬報第1位の映画に選ばれただけあって、これぞキネ旬第1位映画、と言わんばかりに「暗い」のです。

もちろん、日本社会の問題をそのまま映し込めばこうなるのは必然なのでしょう。それにしても、同じタイプの洋画をみるよりも、風景や問題が身近なものだから、一段と切迫して感じます。

本作で描かれる「困難」は3つ。
いずれも、人間関係を隔てようとする日本社会の「差別」が、「弱者」を苛めます。

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1.橋梁点検の仕事に就いているアツシ(篠原篤)は、3年前の通り魔殺人で妻を亡くし、心がからっぽになっていた。損害賠償請求の訴訟を起こすための費用がかさみ、生活もままならず、鬱屈をため込んでいく。

橋梁点検で、アツシは橋の壊れた個所を見つけることが得意です。そんな繊細な彼は、「世の中の欠陥」にまで敏感です。
だから、彼はいつも「暗い」です。
「保険料」を滞納しているため、「健康保険証」がない。…井上陽水の歌のタイトルみたいだな。
さらに、殺された妻の姉は、「犯罪被害者」ということで、不条理な差別を受けていました。妻を殺害した犯人は精神鑑定で無罪になり、相談した弁護士はやる気ゼロです。
「一体この世はどうなってるんだ」 そう絶望する道筋を、順調に辿っていくアツシなのでした。

けれど、職場の先輩の黒田(黒田大輔)が、彼を優しく慰めます。
実は、彼の職場には、悪い人がいません。
とってもウザい奴がいて、序盤はあまりにウザくて見ていて痛いんですけど、なぜか終盤では、そいつすら微笑ましく見えたものです。

見え方を変えれば、どんなシカクも、まあるく収まりまっせ。そんなメッセージを感じます。


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2.弁当屋に務める瞳子(成嶋瞳子)は、夫と姑との三人暮らし。退屈で質素な暮らしをしている。ある日、肉屋の弘(光石研)と偶然に出会う。次第に2人は関係を持ち、親しくなってゆくが…。

瞳子も夫も、室内で煙草を吸います。今や、その画だけでも「不快度」が増しますね…。

彼女の夫は、支配欲の強いタイプです。瞳子が他所で楽しんでいる話を聞くだけで、機嫌が悪くなるような自己中な男。いるんですよ。自分の妻が「自由」にしているのを、ひどく嫌う夫って。
夫はまた、家事を一切しません。寝っ転がっているだけです。
ここにあるのは、「男女差別」の一端。
そんな中ですが、瞳子は元来ぼおっとした性格の為、あまり悲惨さはありません。夫に叩かれた時ですら、きょとんとしているばかり。この「鈍感力」は、偉大です。

監督は、瞳子を不幸に描いていないと言っていました。そう。ここは、基本コメディなのです。

彼女の生活は、極めて「普遍的」です。夫は普段から乱暴な様子でもなく、姑も…まあ、ちょっと細かいくらい。パート先には友達もいるし、趣味もあります。
それから、彼女宅の美味しそうなオカズが並ぶ食卓を見ると、心が落ち着きます。貧しい食事をしていたアツシより、俄然明るく感じます。食事は、とても大事なんです。

そんな彼女の前に、ある男が現れます。おっさんとおばさんの『黄昏流星群(弘兼憲史)』のような恋。お姫様願望がある瞳子は、さらっと浮気に進みます。それがまた極めて自然体です。中年おばさんの裸体が、何の躊躇もなく出てきます。苦笑するしかありません。

で。

この恋の結末は、哀しいようですけど、やっぱり「笑い」の要素だと思います。

男を演じる光石研は、ちょっと怖いです。何度も腕にヒモを巻こうとする辺り、ゾゾっとします。
まあ、大きな夢を語る奴ほど、うさん臭いもんです。そういうもんです。


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3.弁護士の四ノ宮(池田良)は、同性愛者である。ある日、何者かに背中を押されて階段を落ち、足を骨折する。入院している四ノ宮を、友人の聡(山中聡)とその家族が見舞いに訪れる。聡は、四ノ宮が自分に想いを寄せていることを知らないが、彼の妻は、とある不審を抱く…。

上から目線で、イヤな感じがする四ノ宮は、同性の友人を愛していました。けれど、友人には家庭がありました。その妻は、四ノ宮を勝手に小児性愛者と決めつけ、自分の子どもに近付けまいとします。
同性愛者に対する圧倒的偏見。
いつも自信満々に生きている四ノ宮を襲う、突然の不条理。ある意味、不幸だけは、誰にでも「平等」に訪れるようです。

とまあ・・。
上記の3つの物語が、微妙に絡み合いながら描かれます。


<ここで、突然ネタバレしますけど>


本作は、決してバッドエンドではありませんから、安心して。
それを知っておいて観ないと、途中がツラいでしょう? 登場人物たちの苦悩の果て、気持ちの晴れ晴れしたエンディングが待っています。あー、良かったと…、観て良かったと思います。

しかも、「自然回復」だから、よかった。
正直、何かが変わるわけではないんです。困難が解決されるわけでもありません。
これって…、仏教でいうところの「無常観」だと思います。「石を放り込まれて波打った水面は、いつかはまた自然と平穏になる。」のです。

周りを冷静に見渡せば、もともと救いはあったのだという形だからこそ、本当に観ていてほっとしました。

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ただ。

少し感じたのは、「自然体の芝居」が、時折目立ち過ぎている時があります。「自然体な芝居を心がけています」という空気を感じるのです。

それと、リアルな描写だからこそ、かえって不自然を感じる場面もちらほら。
邦画でよく見かけるんですけど、この場でそんなこと急に話し始めないだろう…(瞳子の最後の独白とか)、と思ったりします。それに付随して、涙を流しながら演技をする場面が多すぎる気もしました。

また。

「役所」や「病院」といった日本の社会システム然とした場所で働く人たちが、やけに「冷たい人間」だと描かれます。監督の体験談と言うから、本当の部分なのでしょうけど、ある意味それも、「差別描写」かもしれません。
過去に皇居にミサイルを撃ち込もうとした極左の男が「一番優しい」、という描写は、ちょっとざわつかせる部分でもありますね。

冒頭と終盤で出てくる「元・女子アナ」の描写も、やけに過剰な気がします。
「差別的」で「利己主義」で「自己顕示欲の塊」で。そりゃ、そういう人もいるかもしれないけど、「所詮、女子アナなんてこんなん!」というヒステリーを感じました。

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それと。
急にリリー・フランキーが出てきてビックリした。
こんな地味なキャスティングの中で、…いる? 急にスターが出てきたようなアンバランスさも苦いけど、癪なことに抜群に巧いってのが…、イ ヤ ら し い 。

さて。

本作で出てくる人たちは、ほとんどが「庶民」です。「頭が良いわけではなく」、「要領も悪く」、「うだつの上がらない」、ささやかに、慎ましく生きている庶民です。
日本の社会には、こうした多くの「庶民」が生きています。日本の政治ってのは、本来、こういう人たちが出来る限り幸せに生きるために機能しないといけないよなあ…。

なんて、思ったものです。
そうだ、もうすぐ選挙だなあ。誰が政権を取ろうと、「政治家の為の政治」じゃなく、「庶民の為の政治」であってくれることを、心から願います。


  

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Posted on 2017/10/02 Mon. 23:38 [edit]

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コメント

 

タイチさん、こんにちは、この映画大好きです。
公開時KBCシネマに橋口監督と篠原篤さんのトークショーに行きました。
いろいろと裏話が面白かったです。
「ぐるりのこと」(これも良かったですね)の後にいろいろ辛いことがあって、もう二度と映画を作らないと思っていたそうですが、役者さんたちもワークショップの中でいいなと思った人を選んだとか。
脚本は俳優さんの個性に合わせたあて書きをしたとおっしゃってました。
顔も人工的(笑)に整った俳優さんだらけのキラキラストリーばかりの邦画の中で、ここまでのリアルさ、驚くほど斬新でした。
そうですよね、「そのうちなんとかなるもんだ」で人の生活って続いていくんですよね。
橋口監督の目線って優しいですね~。

URL | ゆーまる #- | 2017/10/06 21:44 | edit

ゆーまる 様 

コメントありがとうございます!

KBCシネマで観られたんですね。しかも、監督のトークショーとは! 羨ましい!
やっぱりお話の通り、ツラい時を通りこえた方の視点で、物語が描かれていたと思います。
ラストが、ああいう感じで、本当に良かった。

それにしても、アツシがあて書き…、よほど暗かったのか?

けど、篠原篤さんって博多の方ですよね。福大出身とか。
だからかなあ…、何となく似た人を知ってます。穏やかなようで、少しトゲっぽいところとか、
なんか博多っぽいんですよ。

URL | タイチ #- | 2017/10/06 22:18 | edit

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