東京喰種【感想・レビュー】大泉洋が、「おみまいするぞ!」

東京喰種
(2016年 日本映画)
80/100点
予想していたよりも面白かったです。
最近の日本の漫画原作の映画は、某兄弟ファンタジーのようなハズれもあれど、本作や『亜人』のように、十分楽しめる作品も増えてきましたね。CGが陳腐じゃないし、アクション描写も見応え十分です。あとは…、ドラマ部分がもっと発展すればなあ。
本作でもっとも印象的かつ、衝撃だったのは、「食べ物」の描写です。
喰種(グール)と人間との大きな違いは、この点にあります。
人しか食らうことのできないグールは、人間の食べ物がまったく喉を通りません。それどころか、口に含んだだけでも「おえぇーーーー」ってなるのです。
その描写が何度もある上、グールたちのつらそうな様子が真に迫っているので、だんだんと心情が同化します。
なんと…、美味しそうなハンバーグが、グロテスクな肉の塊に見えてくるのです。
肉じゃがが出てきた時にいたっては、まるで弁当箱に虫が詰められているような錯角さえ起き、こちらまで背筋が凍りました。
これは、演出の素晴らしさだと思います。
それだけで、どれほどグールという存在が「哀しい運命」を背負っているのかが分かります。
グールだって、生きていかねばならない。だから、人を食らう。もちろん、人間だって食べられてはたまらない。だから、グールを抹殺する。
どちら側にも「理」がある世界観は、深みがあって面白いです。

グールの中には、楽しそうに人を襲う者もいます。
しかし、中には、最低限の倫理を守るため、「自殺した人」だけを食らう者もいます。
人間からグールに変異した主人公も、人を食らうことを頑なに拒否します。
とはいえ、人間からしてみれば、彼らは同じ穴のムジナ。危険生物として、全員が駆除対象となるのです。
物語は、「グールと、その抹殺を目論む捜査官たちの壮絶なバトル」を描きます。
ただ。
すごく興味の沸くテーマ性に、深い人間ドラマとして観ていたからこそ、逆に漫画的な描写がちょっと邪魔な気がしたのです。(漫画原作だから当たり前ですけど)
突然グールの背中からでっかい蝶の羽が生えたりするし、捜査官の一人の武器が、でっかい肉巻き棒みたいだったりするから、その瞬間、さーーーっと冷めゆく自分がいました。
大泉洋がロンゲでウェーブの白髪ってのもファンタジーです。ヒゲ(『水曜どうでしょう』のディレクター)の笑い声が聞こえてきそうです。「ブハハッハハハッハ…! 大泉君、それ-、なに、君、大槻ケンヂかい!?」
けれど、大泉洋の芝居は凄く良かったです。悪役が最近ハマってます。
「僕は一生グール退治します」と言わんばかりの怨念のような執念を見事に演じます。もう一人の捜査官とのバディも、「タイガーのダブル猪木」を髣髴とさせる(?)名コンビだと思います。倒したグールの武器を利用しその身内を攻撃する、「その武器、お父ちゃんのじゃね?」という陰湿さも素晴らしい。とても印象的なキャラクターです。

「おみまいするぞ!」っていう…。(それぞれ『水曜どうでしょう』名言集より)
ひとつ気になったのは…
主人公の金木を演じた窪田正孝は、すさまじく気合の入った芝居を見せます。…が、その気合が見え過ぎて、ちょっと途中でつらくなっちゃった。邦画あるあるなんですけど、感情の発露にメリハリがないといいますか…。終始喚いたり憂いたりしているのが、しつこく感じます。
邦画っぽいといえばもう一つ。
これも個人的な意見ですけど、人を食らうことに、グールはあまり罪悪感を感じる必要はないと思うのです。
グールの一人が人肉を前に、「これって、間違ってるよね…」というのは、あまりに人間側に都合のいい描写です。
他のグールが、「生きていくために仕方ないだろ」と叫びますが、それが正解だと思います。
最近まで人間であった金木が悩むのは分かりますが、彼が我を忘れて友達さえ食らいそうになる描写には、倒錯した愛さえ感じる美しい描写にも思えます。
そこ、徹底して開き直ったら、もっと深いドラマになると思うのです。
どうしても、邦画って(娯楽映画だからでしょうけど)バランスを「倫理的」に保ってしまいます。そこに、振り切れないもどかしさを感じたのです。
ハンニバル先輩を見習って!
あと。
本作では、グールを演じる二人の女性が魅力的でした。
序盤の掴みである蒼井優が凄いものでした。可憐な乙女から、狂気の鬼人へと変わる二面性にワクワクします。
トーカという名のグールの女性は、ツンデレのショートカットという、個人的ベストキャラクターでしたね。いい女優さんがいるんだなあと思って誰かと調べたら、なんとこの人が清水富美加なの…!?
あ、そう… あらあ…。もう続編があっても出ないんでしょうね。何気に、本作最大の衝撃であった…。

それにしても。
私は原作未読ですから、この物語にどういう結末があるのか知りません。
ただ、グールと人間たちは、いつまでも憎しみ合いながら闘うより、一時休戦し、話し合いで共存の道を探ってみるとかできないんでしょうか。
それこそ、「腹を割って話そう!」…っていうね。(結局、『水曜どうでしょう』オチにしちゃった…)
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