素人目線の映画感想ブログ

素人による、素人のための映画感想・レビュー。 映画文法や方程式なんのその。

※ネタバレがある時は、必ず<赤字>で標記します。点数の説明はこちら。

セールスマン /そんなにあんたが正しいか。 


 セールスマン
 セールスマン
 (2016年 イラン・フランス映画)  
 85/100点



大傑作の『別離』『ある過去の行方 』など、人の心の影の部分を鋭く描くアスガル・ファルハーディー監督の最新作です。
イラン映画は不慣れですけど、新作は必ず観ようと思わせる数少ない監督なのです。




本作も、緊張感のある傑作の人間ドラマとなっています。
決して派手な描写ではないため、地味な映画に思われがちですけど、気付いたら、えらい窮地の場面に放り込まれていて動揺します。

終盤には、物静かだけど、良い意味で追い詰められた気持ちになること間違いなし。

第89回アカデミー賞外国語映画賞を獲得!

あらすじは、「教師のエマッドの妻ラナは、ある日の夜、自宅で暴漢に襲われる。警察に届けたくないラナにしぶしぶ従いながらも、エマッドは犯人探しに躍起になるが…」という物語。

セールスマン2


<ややネタバレ有です>


『スリー・ビルボード』もでしたけど、決してミステリー映画ではありません。
あくまで人間ドラマですので、「あの人が犯人だった!」といった要素を楽しむ映画ではないので、ご注意を。

本作で描かれるのは、「私刑」の愚かさ。

本作の主人公エマッドは、真面目で誠実そうですけど、どうも「独善的」な雰囲気があります。
このインテリ男の「正義漢」ぶりに、違和感を覚えて仕方ないのです。

それは。

彼の行動が、暴行を受けた「妻の為」という風に見えないからです。
イスラムの教義としても、人の倫理観としても、絶対に許されないことが自分の身内に起きたことに対し、彼は「穢された」という想いを抱いた様子があるのです。

そうじゃないでしょう。
妻のラナは「傷付けられた」のであって、「穢された」んじゃないでしょう。

そんな彼の態度が、より一層ラナを傷付けるということが分からないエマッド。
トラウマとなった恐怖を抱え続けているラナを前に、そんな態度してどうすんだよ!

暗い顔して!! お前、励ます方だろうが!! とイライラしたものです。

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だから、そんな夫にラナは本当のことを話しません。
警察にも話せません。
ご近所も、変な噂をしている…
だから、ラナは、その傷を心の中に押し込めておくしかなく。

それがきっと、ラナの二次被害として、彼女の心を壊していったのだと思います。

さらに。
せっかく、久しぶりになごんでいた食事の場面を台無しにした、エマッドの「機転の利かない独善家の欺瞞」たるや。

重要な証拠品をポンと置いていたお前が悪いだろうがボケが!!

と思ってしまったものです。

なんか、観ていてイタくてイタくて。

結局彼は、自己満足の人間なんです。
「正論」をふりかざすことで、教養のあるオレが一番正しいのだと言いたいだけ。
「モラハラ」によくありがちなタイプ。

こんな奴に限って、奥さんに「殺していい?」とか言ったり、『ロード』とか熱唱したりするんだろうーが!!

『スリー・ビルボード』でも描かれていましたが、「我に正義あり」と思い込んだ人の暴走ほど、恐ろしいものはないのです。
そこでは、「理屈」や「筋」よりも、「感情」が優先されるからです。

「意地」とか「憎しみ」とか。

当然それは、正常な判断をゆがめます。「間違っているかも?」と自分を客観視するバランスを欠いた人間は厄介です。
エマッドは、まんまとその渦中に入り込んでいるのでした。

セールスマン4


<ここから、やや結末に触れます。>


「あれ…? 」という小さな疑問点から、みるみる「犯人」が明るみになっていく流れが、さらっとしていてリアルです。
『別離』で、ある登場人物の嘘がバレた瞬間と同じで、すごく巧い。

そして。
そこから始まる「私刑」の残酷さには、うすら寒い気がしたものです。
ところが犯人には、「事情」がありました。(ただし、罪を犯した者のほとんどが抱えている事情で、特別ではありません。)

そこで。
この犯人を罰するべきか、否か。
観客はエマッドの感情と同化し、悩むことでしょう。その心理描写に、大層見応えがあります。

だけど。

犯人は、もちろん「悪い」ですよ。
出来心とはいえ、圧倒的に「悪い」

だから、この罪人には罰が必要です。
そしてそれは、本来は「警察(司法)」の仕事です。

しかし、イランの警察は男尊女卑が激しく、妻ラナは絶対に届けないと言い張ります。彼女は、全てなかったことにして、忘れる選択を考えるしかなかったのでした。
そのために、エマッドが出張らなければならなかった。
それで、「感情任せ」の私刑が行われたのだから、エマッドをやたら責めるのも可哀そうかもしれません。

私刑だからこそ、本来は気にしなくていい犯人の事情を気にする羽目にもなります。
本来なら「警察」が、淡々と事実と法に基づいて処理すべき案件なんです。そう…、つまり、警察に被害届を出した貴乃花は正しい。

本作は、そんなイランの情勢への皮肉も描いているわけです。

セールスマン3


とはいっても。

ラナが罪を許そうと思ったのは、前述のように「忘れたかった」から。
それともう一つ。

やはり、正義を振りかざしたエマッドの、「ほの暗い感情」を見透かしていたからだと思うのです。


  

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Posted on 2018/02/13 Tue. 22:55 [edit]

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