素人目線の映画感想ブログ

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機動警察パトレイバー 劇場版 これは、コンピューターウィルス犯罪の「予言書」 


 無題
 機動警察パトレイバー 劇場版
 (1989年 日本映画)90/100点


まだそこまでパソコンが普及していなかった時代に、コンピューターウィルスの脅威を描いた先見的なストーリーと、とにかく高レベルな作画や演出が話題となったアニメです。
 
というか監督は、鬼才「押井守」です。
才能が爆発的に輝いていたピークの頃の作品ですので、とにかく面白い。
アニメーションとしては、宮崎駿の一連の名作と同列といってもいいくらいの大傑作だと思います。

もちろん、押井守の持ち味は、ジブリ風味とは異なり、とにかく軍事的なマニアックさや、近未来設定なのに緻密に描かれる古い町並み、専門用語の飛び交うダイアローグなので、とっつきにくい人にはとっつきにくく、どちらかと言えば男の子向けと言えるかもしれません。

機動警察パトレイバーはゆうきまさみ原作で、サンデーに掲載されていた漫画です。(88年~94年まで連載)
押井守によって、まずビデオアニメとして制作されました。
しかし、いつもの押井守らしく、原作には忠実ではなく、「なんとかしてロボットを活躍させないように工夫していた」と身も蓋もない偏屈ぶりを吐露していました。
本作の劇場版では、ややロボット同士の闘いも描かれますが、それよりは人間ドラマに比重が高いかなあと思います。
ただし、時折挿入されるアクションシーンや、さまざまな障害に見舞われる終盤のとある作戦遂行の場面では、神がかっているほどの演出力を見せつけるのです。

あらすじは、
工事現場などで力を発揮する二足歩行ロボット・レイバーが、突如暴走するという事件が勃発。篠原重工のOSに問題があるとふんだ特車二課第2小隊の篠原遊馬は、隊長の後藤喜一の指示により調査を開始する。調査が進むにつれ、篠原製OS『HOS』の開発者である帆場暎一の仕組んだ東京湾岸壊滅の企みが明らかにされていく」というお話。

もう、のっけから演出がすごい。

幻惑的な夕暮れを背景にして、一人の男が海に投身します。
口元に微笑をたたえて。
この男、今回の事件の首謀者である帆場暎一の思惑とは一体何なのか。彼は、何を思いながら死を選び身を投じたのか。冒頭にして、一切は、永久に海の底に沈みました。
すぐに暗転し、舞台は戦場のような場所へ。 
自衛隊基地を飛び出した軍用レイバーを止めるため、自衛隊があらゆる軍事力を用いて立ち向かっています。
この作戦展開にともなって、スタッフクレジットが始まります。
何とか暴走を食い止めた自衛隊ですが、操縦席を開けると、コックピットは完全に無人。
ここで、タイトルが挿入となるわけです。
BGMも素晴らしくて、鳥肌もののかっこ良さ。
ここまでツカミのうまいOPシーンは、ハリウッド映画含め、そんなに多くはないです。これはとんでもない映画だ、とはっきりと予感させます。

続いて、今度は本作の主人公である警察用レイバーの操縦者「泉野明(ノア)」と、作戦指揮者の篠原遊馬ら特車二課第2小隊が、工事現場用レイバーの暴走を食い止めるシーンへ。
出動直前まで、長期勤務への不満をたらたらと述べている隊員たち。出動後にも、「こういうの苦手だなあ…」とどことなくやる気のない雰囲気です。
パトレイバーシリーズの特徴は、主人公たちをヒーローチックに描かず、あくまでイチ公務員として人間臭く描いているところにあります。知っている方は知っていますが、これは「踊る大捜査線」のキャラ設定のモデルにもなっているのです。

その他、近未来設定であるにも関わらず、「未来的」なものはほとんど出てこず、レイバー以外の風景は現代と全く変わりません。
むしろ、都会に埋もれた古い家並みの描写に細かくこだわり抜いてる印象です。
帆場暎一の足取りを二人の刑事が追いますが、高給取りだったはずの帆場は、なぜか古びたアパートを転々としていました。その一連の捜索場面は、非常にもの静かで、SFアクションアニメといった面持ちは一切ありません。
幼き頃に観賞した時は、この場面はそりゃあもう退屈で退屈で(笑)

無題2
(高層ビルのすぐ脇に息づく、廃墟のような町並み)


本作の最大の見どころは、終盤に訪れる「箱舟」壊滅作戦です。
東京湾上に浮かぶ「箱舟」と呼ばれる海洋建造物に、風速40メートルの風が舞いこむことで生じる共鳴音が、レイバー暴走の引き金となることを突き止めたことで、秘密裏に「箱舟」を破壊する作戦が始まります。
なぜ秘密裏かと言うと、すべてを隠蔽せねばならないという政治的思惑が働いたからです。
リアルな官僚的背景などが盛り込まれる点も本作の特徴で、普段は昼行燈の隊長・後藤喜一の冴えわたる駆け引きが、警視庁上層部の保身第一の「大人の事情」をかき回していて楽しいです。
ちなみにこういったところも、「踊る大捜査線」のモデルだとか。

無題4
(この場面の会話を下記に再現しました。)


その場面をピックアップでご紹介。
これだけでも、本作の(というか押井守の)特徴が伺えます。
警視庁上層部の会議室にて、後藤喜一が帆場の犯罪を説明し解決策をせまるところです。

上層部B
「もういい! やめたまえ! バカバカしい。全ては机上の空論ではないか」
上層部C
「聞けばこのシュミレートは、謹慎中のレイバー隊員が、整備員とともに開発したプログラムによるそうだが」
上層部D
「君はそんなものが、信頼するに足ると本気で考えとるのか」
後藤
「気象庁の予報によれば、台風19号は、明後日未明には、首都圏を直撃します。プログラムの追試を依頼する時間はありません。可能性に過ぎないと言われますが、今のところ、それを否定する根拠が何一つ存在しないことも、また事実であります。台風の到来による強風により箱船が鳴動。それにつられて湾岸に林立する百数十にも及ぶ超高層が、低周波の咆哮を上げ、首都圏八千のレイバーが暴走を起こす。その結果がどうなるか、申し上げる必要もないと思います。湾岸、都内の再開発地区はもちろんのこと、地下1千メートルのジオフロント作業部、さらに、一部の原発の炉心部でも、レイバーは稼働中であります。…もし、このシュミレートが現実のものとなった時、その大参事を、いや、その犯罪を未然に防止できなかった責任を、誰が、どのようにおとりになるのか、お聞かせ願いたい」
部長
「後藤君。首都圏におけるレイバーのOSの書き換え作業はすでに完了している。仮に、君の主張する帆場暎一の犯罪計画が存在するにせよ、事実上無効になったとみてよいのではないか?」
後藤
「HOSの正体は、MITの協力を得て解析中とはいえ、まだ不明であります。レイバー本体のメモリー内に潜伏している可能性は否定できないと、専門家の意見も一致しております。この際、一度でもHOSに接触したレイバーは全て汚染されていると考えるのが、妥当です。台風の進路を変えるか。超高層をなぎ倒すか。八千台のレイバーを解体するか。それとも…。四者択一。決断をお願いします」
部長
「(立ち上がり)本日未明より、台風の通過を確認するまでの期間、都内におけるレイバーの起動を全面的に禁止する。レイバーの製造、補修ラインも同期間中は停止すること。消防庁、防衛庁並びに、隣接する各県へも趣旨説明を行って協力を求める。以上だ」
後藤
「部長。停止中のレイバーも低周波の干渉によって、自動的に起動する可能性があります。例の自衛隊の試作レイバーの1件をお忘れですか」
部長
「何のことかな。そんな報告は受けてないが」
後藤
「では、もう一つ質問があります。…台風がしでかしたことであれば、それが何であれ、責任がどうこうという問題にはならんと思いますが…。なんせ台風のすることですから…」
部長
「…無論だ。天災ならばいたしかたない」
後藤
「(敬礼し)後藤警部補。部署へ戻ります」


つまり上層部は一切責任はとらんが、帆場の犯罪を立証する前に「箱舟」の破壊を暗黙に了承したよ、ということ。
この専門的でリアルな官僚の会話も、パトレイバーシリーズの魅力となっています。

無題1
(懸命の調査で導き出された被害予測。緊張感をあおる見事な演出)


さて、終盤の箱舟破壊シーンは怒涛のアクション場面の応酬です。前述した中盤の静かな調査場面に退屈してきたところへ、一気に投下されるので爽快です。
もー次から次への障害の数々。緊迫のシーンの連続。
「箱船」内にうごめく死んだはずの帆場の影。
「箱船」解体手段の喪失。
予想よりも早く暴走を始めた「箱舟」内の無数のレイバー。などなど。
最高レベルの演出と音楽が否応なく盛りたて、見応えたっぷりです。

無題6
(誰の制御にもよらず、うごめき始める無数のレイバー)


実は感想を書くにいたって再度鑑賞し直したのですが、本作のコンピューターウィルスの話の中で、「トロイの木馬」という表現があったのには驚きました。
1989年の作品ですよ。
すでにここまでウィルス犯罪を予見しているとは、かなりすごいものがあります。
また、「ノア」「バベル」「エホバ」「箱舟」といったワードからも分かる通り、聖書をモチーフにした物語でもあるため、得体のしれない深みがあり、恐らく当時としては非常に斬新だったのではないでしょうか。
まさに、あらゆる面において「預言書」的物語だったわけで。

これほど高レベルの映画なのに、本作がマニアックであり、知っている人が少ないというのはとても残念です。
押井守といえば、どうしても全米で大ヒットした「攻殻機動隊」を思い浮かべてしまいますが、個人的には本作の方が上だと思っています。

必見 ! …なんだけどなあ。


 

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Posted on 2012/11/02 Fri. 07:02 [edit]

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