素人目線の映画感想ブログ

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マルサの女2 日本人は、「我欲」にまみれているのか。 


 無題7
 マルサの女2
 (1988年 日本映画)80/100点


三國連太郎がケレンミたっぷりに言い放ちます。
「いいか、お前たち。地上げのコツは、ただ二つ。愛情と脅しだ」
盗聴中のマルサ達も、このセリフに思わずにやけます。

大ヒットした「マルサの女」の第2弾。
大人の社会見学再び。この世の裏側のどす黒さを垣間見たければ、ぜひ。
前作を上回る「汚さ」に、見ていてちょっと辟易するかもしれません。
オープニングで政治家たちが地上げの相談をしながら、蟹をむさぼり食っている姿には、げんなりすること必至。
そのあと、巨悪の政治家・漆原が、自分たちが操る地上げ屋について…
あんなのはなあ、遣い捨てりゃあいいんだよ」と言い放ち、オープニングタイトルに続く見事な掴み。

実は本作、世間での評価は前作ほどではないようですが、しかし伊丹十三の巧みな演出やセリフ回しは、加減を知らずに好き放題。
驚くほど重厚な名シーンがてんこ盛りです。
一方で、地上げの手口が古臭かったり、ちょっと大味過ぎていたり、ドロドロし過ぎていたり、ふと陳腐だったりしていて、バランスが悪いのも確かなので、見る人を選ぶ作品かもしれません。

前作の敵が「一介のラブホテル経営者(山崎努)」でしたけれど、本作ではぐぐーんとスケールアップ。
「地上げ屋」「新興宗教法人」「政治家」を絡ませて、バブル経済期の複雑な金にまつわる闇をあぶりだします。(複雑過ぎたかな?)
本作では、「新興宗教法人」の怪しさを世間で初めて描いた映画だとか。
「オウム」が注目される以前の映画ですから、伊丹十三の先見性たるやほんとに恐ろしいほどです。
 
私は個人的に本作が結構好きでして、いくつかのフェイバリットシーンがありまして…前作の感想に引き続き、ちょっと再現してみようかなあと思っております。ま、ま、誰得なんですけどねえ。えへへ。


1.まずは、中盤、地上げ屋の鬼沢(三國)とマルサの統括官・花村(津川雅彦)、マルサの通称ジャック・ニコルソン・伊集院(大地康雄)の取調室でのシーン。鬼沢が逆ギレし、自分たちが必要悪であることを訴えます。
世の中の複雑さ、鬼沢の老獪さを表していて大好きです。

鬼沢
「私は何も知らないんだよ。全部部下がやったことなんだ!…私は宗教家ですからね。宗教家がそういうことするわけないでしょ」
花村
「シゲ子さんもそう言ってたよ。シゲ子さんってのは、立派な方だね。あんた庇って、ガンとして口を割らない。あんた、ああいう人を大事にしなくちゃいけないよ」
伊集院
「ま、別に口を割ってもらわなくても、ブツが全てを物語ってくれているから、あんたとしては、もう逃れようがないけどねえ」
花村
「鬼沢さん、喋って楽になっちゃいなさいよ。金は棺桶までに持っていけないよ」
鬼沢
「…フフ」
伊集院
「何がおかしい」
鬼沢
「いや…あんた達には金のことは何にもわかっちゃいねえんだ。金は生き物だ。金は時間とともに育つんだ。金は私の子供だ。金は未来。金は未来の命だ。金とともにある時…私は、不老不死になるんだ」
花村
「…なるほど。じゃあ、聞くがね鬼沢さん。そんな大事なお金だ。もちろん、あんた自身が扱われるわけだね」
鬼沢
「は…?」
花村
「あんた、ちび政という男に18億もの金を貸して、貸し倒れになっているね。」
鬼沢
「いや、私たち独自は分からんのです。これ…宗教家の悪い所なんでしょうねえ。どうも、全て人任せなものですから…」
花村
「ほお…その手で来るわけねえ…。しかし、これはあんた自身がやったことなんだ。貸し倒れの代物返済で議員の漆原から、ちゃんと土地を取り上げているじゃないか!」  
鬼沢
「…申し訳ございません。疑いをもたれるのは、私の人徳の至らぬところからでございます。私に不都合がございましたら、どうぞ仰って下さい。おっしゃる通りのご処分を受けますから」
花村
「漆原はなぜチビ政の保証人になったんです?」
鬼沢
「…」
花村
「国会議員がチンピラの借金の保証人になる。これ、不自然だと思いませんか?漆原とチビ政はどういう繋がりですか?」
鬼沢
「たぶん親戚…」
花村
「どういう親戚です?」
鬼沢
「いや、そこまでは…」
花村
「チビ政の国はどこです?」
鬼沢
「たしか漆原先生と同じ大阪…かもしれません」
花村
「かもしれません!? あんた、出身地も知らんのですか!? その程度の男によく18億も貸しますな!」
伊集院
「あんた、今考えてんだろ。国税局はどこまで知ってるんだ。あんた、今不安だろう。今考えてんだろ」
鬼沢
「…水を、一杯頂けませんか…」
伊集院
「とぼけんじゃない! この国税局の水は納税者の税金でまかなわれている! あんたに飲ますような水は一滴もない!」
花村、水をコップに入れて渡します。
鬼沢、一気にそれを飲み干して…直後に土下座をします。
鬼沢
「…申し訳ありませんです。仰る通りにお支払いをいたしますから、書類を作ってください。署名をいたします」
花村
「その書類を作るためには我々の質問にだね…」
鬼沢
「いや、適当に書いてください。言われる通りにお支払いをいたしますから」
伊集院
「そうはいかないんだよ、鬼沢さん。とりあえずね、この保証債務の件だけどね…」
鬼沢
「やかましいや、このやろう! オレは国のために地上げをやってるんだよ。東京が国際的な情報都市として世界の金融センターになるためにはな、世界中の企業を東京に集めなきゃならねんだよ。そのためには、オフィス面積が絶対的に不足してるんだ。その不足を埋めるために高層ビルを建てるしかねえだろ! じゃ、高層ビルをどこに建てるんだ? そんな土地どこにある? おいっ!どこにあるんだよ! …法律でも改正して私有地を取り上げるか? そんなことは出来ねえよな。だからオレたちがやってるんだよ。政府や大企業のお偉いさんたちがな、自分の手を汚すか? 汚すわけきゃあねえだろう! ニッポンの改革のためにはな、誰かが汚ねえ仕事を引き受けなきゃならねえんだよ! オレ達がやらなかったら東京なんて、すぐに香港にその地位を奪われちまうんだよ。お前らそれでいいのかあ!? おい! ニッポンがどうなっても構わねえってのか!」


   無題1


2.続きまして…。マルサの統括官・花村が、闇献金を受け取った猿渡を自白に追い込むシーン。実際はこんな簡単ではないでしょうけど、妙に説得力のある誘い込み。見事です。

猿渡
「なんだ貴様! これは取り調べじゃないか!」
花村
「いえいえ、とんでもございません。実は、鬼沢鉄平の脱税を立証するための、証拠固めを行っておりましてですな。先生にもひとつ、よろしくご協力をお願いしたいというわけでございまして…」
猿渡
「じゃあ…参考人ということだな」
花村
「そうご理解いただいてよろしいかと思います。ま、お掛け下さい」
一同、着席する。
花村
「先生ね、ざっくばらんに申し上げますよ。駆け引きはしません。これ、先生を本当の政治家と見込んで申し上げるわけですから。誤解なさっちゃいけませんよ」
猿渡
「なんだ…? 言ってみろ」
花村
「…漆原先生のところから、先生に三千万の金が流れてますな?」
猿渡
「無礼なこと言うな! そんな金など-」
花村
「もう一度言いますよ、先生! 私は駆け引きはしないっ! これ、先生と私が腹を割った男と男の話なんだ。漆原先生のところから、与野党含めて三十数名に金が配られてる。これ以上、私に言わせんでくださいよ」
猿渡
「フフフ…。何の話だか。もらうものはもらっとらんよ」
花村
「(ノートを取り出し)…これはね、鬼沢のところから押収したものですがね。先生のことがちゃんと出てるよ。そりゃ否定なさる気持ちは分かります。しかしね、これ鬼沢が深夜ひそかに見る秘密のノートなんだ。私は、これに書いてあることは全部真実だと考えています。…先生、政治家は大変ですな。大体日本の政治は金がかかり過ぎる。私はね、先生。信州の百姓のせがれで、父親が村会議員だったから、よーく、知ってますよ。先生方から盆踊りの付け届けが少ねーって、ぼやく村民がいるのを知ってますよ。盆踊りだけじゃない。葬式だ、結婚式だ…連中は政治家にたかることばかり考えてる。…私はねえ、先生。選挙民というものは、本当は手弁当で先生方を応援すべきだと思ってますよ。自分たちの運命をたくせる人達じゃないの。ね? …政治家は、大変ですなあ…。…先生、漆原先生から、金もらわれたんでしょ?」
猿渡
「何度言ったらわかるんだ! もらうものはもらっとらん!」
花村
「先生、いくら先生がそう仰ってもね、私悪いけど、信じることできねえな。だって、全然その気にならないもの。どうして認められないの、先生。…じゃあね、こうしようよ先生。この話、この席から外へは一切でない。もちろん申告漏れがあったら税金は頂きますよ。でも先生の秘密は、私の胸だけにしまっておくから。…政治家は大変だねえ、先生。時には公明正大でないものも受け取らなきゃならんこともあるでしょ。私の村でもみんな、おじいちゃん達言ってたもん。選挙は面白い、こんな時でなきゃタダ酒飲めねえもんってね。私ね、先生のご事情よーく分かりますよ。…政治家は大変だね。みんなに食い物にされてね。選挙民は、先生ががっぽり献金もらって豪勢な暮らししてると思ってるけど、そんなことないね。私ね、先生。失礼だけど、先生のこと調べさせてもらったよ。だから先生のこと、よーく知ってる。子供さんのことも調べた。…素晴らしい子供さんたちだ。あの二人の子供さんの育ち方を見て、私、先生を信用するんだ。先生が鬼沢の金を三千万もらったって、それは私利私欲を図られたんじゃない。私にはわかる。国民の付託に応えんがためには、政治家としての地位を確保せねばならん。そのためには金がかかるんだ。…先生のような方にこそ、本当の政治をやらせてあげたいなあ。」
猿渡
「(嗚咽)」
花村
「…上野の駅前で、妹さんにやらせておられた喫茶店も、担保にお入れになっちまった…ねえ、先生」
猿渡
「(嗚咽を堪えて)…そこまで分かってもらえるなら、申し上げよう…」


   無題2
 
つまるところ、取り調べも「愛情と脅し」なのです。
セリフだけ見るとあっさりしてますけど、実際は津川雅彦の名演と、見事なカット割りによる「間」の作り方で、説得力のある説得に仕上がっています。


3.地上げのシーンは今見るとちょっと信じがたいものがあります。
浮浪者をそばに住まわせたり、ドーベルマンを放ったり、イタ電を続けたり、大音響で音楽を鳴らしたり…そんな時代があったわけ? と思うほど、徹底的な追い出し作戦。
けど、実は非道に追い出すのではなくて、退去した場合は結構法外な報酬がもらえるんですね。
ボロボロの食堂の主人には、土地代6億、新築費1億5千万、こづかい5千万の計8億が提示されます。それでも主人は、先祖代々守ってきたこの店を譲れるかい! と頑固一徹。
なんか…共感できなかったな。だってその食堂、借家なんですよね。
チンピラのちび政(不破万作)が吠えます。
お前ら、ここ借りとるだけやろ。それが借地借款法という悪法に守られとる。地主がこの土地10億で売ったかて、可愛そうに地主の所には2億しか入らへん。残りの8億どこ行くんかい。全部お前のとこやないけ! 8億っちゅうたらな、地代と家賃月20万として三百三十三年分やど。しかも世田谷に家を建て替えてもろうて、それが無税や。新聞やテレビは、三代続いた大衆食堂で、地上げの犠牲になったとか言うけど何が犠牲かこのクソガキャー! お前ら過去三代に渡ってこの土地借りて商売して儲けさせてもろてんのやろ。お前、その恩忘れたか。お前ら日本人の恥さらしや!
 
無茶ではありながら、どこか一理あるなあと思ってしまうのですが…。
ダメなのかな?

4.その他にも秀逸な名場面が多い本作ですが、相変わらず結末はスッキリとしません。
鬼沢もトカゲの尻尾でしかなく、本当の巨悪は闇に紛れたまま。
鬼沢は気が狂ったように自分の豪勢な墓にこもります。
前述で、花村が「金は棺桶まで持っていけないよ」と言っていましたが、なんと鬼沢は本当に墓の中に財産を隠していました。
不気味な笑いがラストシーンに響きます。
あくどい…汚い…うええ、気持ち悪い終わり方。
たまには亮子の笑顔で終わってほしいものです。
ちなみに本作の板倉亮子は、統括に怒鳴られたり、トラックに襲われたり、ナイフを向けられたりと結構散々です。中年男性のように背中を丸めて煙草を吸ったり、お辞儀したり…。どういうわけか、極端に男っぽいキャラになってまして、そのためにか前作で出てきた母子家庭設定は、なりを潜めております。
そんな板倉亮子の本作の見せ場の一つは、国税局の倉庫に不法侵入した輩にナイフを突きつけられた時の説得の場面。最近のドラマじゃ、犯罪者の説得シーンというとお決まりの感情論や浪花節ばかりですが、さすが伊丹十三、なんとも理知的な物言いを板倉亮子にさせています。
それが以下。
ナイフを渡しなさい。…おいっ。ナイフを渡すなら今しかないぞ。今なら建造物不法侵入、公文書破損くらいで済むかもしれない。しかしグズグズしてると公務執行妨害で5年。もし、私を傷つけたら強盗傷人で7年。私を殺したら、間違いなく無期だ。真面目に務めて30年で仮釈放になったとして、そん時、あんたいくつだ? 60か? 65か!? …それまで刑務所で過ごす覚悟なら、私を止めてみろ

   無題3
   (本作では、亮子は終始危ない目に遭っております)

鬼沢が「日本人はみんな下衆だ!」と怒鳴りつける場面があります。
石原慎太郎は「日本人のアイデンティティーは我欲」と言ってました。 
伊丹十三が本シリーズで言いたかったことは、日本人がなくしてしまった「品性」のことなのかもしれません。
おっと、陳腐な感想になってしまったので、このへんで。
本作は、「日本人」を描いた傑作だと思いますよ。
「闇金ウシジマ君」の読後感にちょっと似てるなあ。

 
前作「マルサの女」の感想はこちら。


 

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Posted on 2012/11/24 Sat. 14:52 [edit]

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