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永い言い訳 /はやく「真人間」になりたい! 


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 永い言い訳
 (2016年 日本映画)  89/100点


観てる時は、大傑作だと思いました。
これは凄いなー、これは面白いとワクワクして見ていたんですが、どうも物語終盤でハタと困ってしまったのです。
あれ…? 結局、何が言いたかったんだろうか…と。

登場人物それぞれが複雑な心境を抱えていて、セリフによる心情説明がそこそこ多くて。そのため、最後の方では、何とかそこから意味を探ろうとしたために、ちょっと落ち着かない観賞となってしまったものです。

本作で、一番気にして観たポイントは、「主人公の衣笠(本木雅弘)は、果たして奥さんをどう思っていたのか」です。
これが、結末まで見ても、いまいち釈然としなかった。
それで、エンドクレジットが始まった時に、「あら…? …終わっちゃった…」と、しばし呆然。

けれど。
たぶん、それは間違い。
本作は、私の大好きな『ゆれる』の西川美和監督の最新作です。だもんで、本作に、ハッキリとした結論はないのだと思い直しました。これまでの彼女の映画がそうであったように、いろいろな解釈が許される映画なのです、きっと。

なので、恐れずに、私個人が感じたままに書いていこうかと。

言い訳1


<結末までネタバレしています。>


主人公・衣笠(本木雅弘)はとても変な男です。冒頭から、「ヤバい奴」を醸しています。連続試合出場記録を誇った鉄人の異名を持つ野球選手・衣笠祥雄と同姓であることをネタに、妻(深津絵里)と、ちっちゃーな言い争いをします。「名前のせいでボクは比較され、苦労し、傷ついてきたんだい!」と…。これをマジで言ってるんですよ。…ヤバいだろう? このように、衣笠は常に「(変な)言い訳」をして自分を守っている様子があるのです。

たぶん。
彼は軟弱な性格であるゆえに、「鉄人と同じ名前なのにー?」と散々イジられてきたのでしょう。彼は、大学受験も失敗し、就職活動も失敗してきました。けれど、妻の背中押しもあって、ようやく掴んだのは、栄誉ある文学賞。そこから、これまでのコンプレックスをひっくり返すべく、彼は青春を取り戻すかのように好き放題の「不倫」を始めたに違いありません。もしかすると、妻への反抗心があったとも思えます。美容師である妻に髪を切ってもらっている姿にも表れていますが、これまで妻が彼の全ての面倒を見てきたのだと思います。その気後れが翻って、妻への裏切り行為を楽しんでいたとも考えられます。いわば、母親に対し子供が反抗期によく見せる、それ。そう、つまり彼は、子どもなのです。

で。

彼は突然、「妻の死」という境遇へ放り込まれます。そして、なぜか泣けない自分に気づくのです。同じ事故に遭った者の遺族が怒り、泣き叫ぶ渦中で、彼は戸惑います。「あれ…? オレってなんか周りと違う?」 事故を起こしたバス会社にみんなが怒声を上げる中、場違いなような感じでいる衣笠。この辺り、意外にコメディチックな描写で面白かったです。

言い訳5


その時、彼は、自分のアイデンティティーに不安を感じたのではないでしょうか。妻を愛していたかとか、そうでなかったかとかの問題以前に、自分という人間の「不味さ」に気付き…いや、意図的ではないですが、妻が死をもって彼に気づかせたのだと思います。で、彼は大いに戸惑ったのです。「オレってこんなんでいいのかな…」
そんな彼が。
妻の友人の子どもの面倒を見る事になります。小学校高学年の男の子と、幼稚園児くらいの女の子。擬似的にも家庭生活を送ることで、彼は少しでも自分の「普通さ」を確認したかったのかもしれません。彼は意外に子供が好きだったとか、そんな風には思いません。所詮、週2回だけのなんちゃってヘルパーです。彼はあくまで、自分の為に子守をかって出たのです。彼の敏腕マネージャーはちゃっかり見抜き、「贖罪でしょ」と断言します。

けれど。

彼と子ども達とのやり取りは、まさに微笑ましいほどの「家族」でした。彼は、その「家族」に心から情が移っていくのです。それを失いそうになると、グデグデに酔っぱらって荒れるのです。まるで別人のように子どもたちに寄り添う衣笠の姿は、感動的ですらありました。彼は、自分でも驚くほど、そこに安住を感じていたのでした。それにともない、彼は次第に変化を見せ始めます。乱れていた生活は整理が行き届くようになり、人への接し方もきちんとなり、何より「人の為に」行動を起こせるようになっていくのです。終盤で、「家族」にある事件が起きた時に、「家族」のために猛進する彼の姿に泣けて泣けて。

そう考えるとこれは。

子どもだった彼の、自立までの物語だったと思うのです。これまで、「言い訳」だらけだった人生からの脱却。妖怪人間さながらに、ゲスな彼が「はやく真人間になりたい!」と切望するようになる道程だったのです。そしてそうなるように仕組んだのは、(無意識的に、結果的に)妻だった…ような気がします。妻の携帯に残されたメールの下書き「もう愛してない ひとかけらも」は、衣笠に強烈に突き刺さり、ショック療法のように彼の心を揺り動かしたのだと思います。

言い訳4


で、結局、彼は妻をどう思っていたのか、ということですが…

個人的に思ったのは…

無頓着な妻の友達の旦那(竹原ピストル)と、息子はどうもウマが合っていませんでした(逆に息子は衣笠に似た性格の為、息子が衣笠にすぐに心を開いたことに、旦那は不愉快そうな顔を二度もします。すぐにニッコリ笑いますが、いや、あれは本当に怒っているのです)。しかし、いろいろなゴタゴタがあった末、息子は父親の元へ行き、衣笠と離れます。しかし衣笠は、それを実に満足そうに眺めていました。きっと…、父親の元に無事に還った息子の姿を、衣笠は、我が事のように見ていたのだと思います。直前に衣笠が息子に「大切に想ってくれる人を大事にしなきゃ」と言いましたが、それは、(手遅れですが)自分にも言っていたのです。この「家族」の結末は、代理行為として、彼自身にも安心を与えたのです。

つまり。

衣笠は、きっと衣笠なりに妻への想いがあったのだと思います。本来あった「優しい心」を、コンプレックスでねじれてしまった感情が押し込めていただけだったのだと。

普通の映画だったら、ついに妻への愛に気づいて涙を一筋流す、なんてシーンが作られそうですが、さすが、そんな安易な描写はありません。ラストシーンでは、ただ淡々と妻の遺品を片付ける衣笠の姿が映し出されるのみです。
冒頭で妻が彼に言った「片付けといて」というお願いが、ラストにつながっています。

彼が、その言葉を素直に受け止めているような最後。
そこには紛れもなく、何歩も成長した「真人間」の姿がありました。


   

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Posted on 2017/05/23 Tue. 20:40 [edit]

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