素人目線の映画感想ブログ

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生きものの記録/この世は怖いものだらけ。 

生きものの
 生きものの記録
 (1955年 日本映画) 
  89/100点



<<最後までネタバレしています>>


放射能を恐れる老人:喜一(三船敏郎)と、意に介さない家族の対立を描いた、黒澤明の傑作。

全くもって、コロナ禍の分断と同じで、面白いです。果たして、おびえる者がおかしいのか、平気な顔で過ごしている者たちがおかしいのか。段々とわからなくなっていく展開が見事です。

とはいっても。
決してどちらかが「正しい」とは描かないバランスも素晴らしいと思いました。だから、放射能の悲惨さは、口頭で語られる程度です。財産に目が眩んだ家族の不甲斐なさもさることながら、主人公:喜一の身勝手さにも切り込んでいます。

「日本は放射能の谷間らしいですな。では、谷間に住んでいる者たちはどうなるんでしょうかねえ?」 そう語られて怯える喜一は、まるで2チャンネルやツイートに煽られた危険厨のようで、不憫です。

生きものの3

ところで。
今の感覚で観ると、本作の主題を見失います。現に私も、突っ込みながら鑑賞してしまう有様で。

喜一は一代で財を築いた有力者です。ワンマンで独善的な彼は、自身の考えに一片の疑問を持ちません。とはいえ、家族にとってはたまったもんじゃない。財産をすべて投げうってブラジルに逃げよう! と提案され、「そうですね」とはいきません。喜一から財産を没収しようと、彼を「禁治産者」にしようと家裁に相談する気持ちはよく分かります。財産は家族の物でもあるからです。それなのに、調停員に選ばれた原田(志村喬)が葛藤し、認定を渋る様子は…、極めて「面倒くさい」

(今の感覚で言えば)、喜一にはあまり同意できません。平然と本妻と3組の妾の家族を集めて、みんなで一緒に逃げよう! …って、あんたの水爆並みの性欲の方が危険だよ!

(今の感覚で言えば)それより、まず家族がしきりに吸ってる煙草を注意したらどうなのよ。

(今の感覚で言えば)「放射能」ただひとつを危険視し、他の危険要因に気にも留めないのは、飛行機事故を怖がって車には平然と乗るくらいの矛盾じゃないか。これは、今のコロナにも言えること。

(今の感覚で)もっと意地悪く言うならば。
妾を三人も囲うほど裕福で余裕があるから、余計なことが心配になるんだよ! 「金持ち喧嘩せず」と一緒で、「幸せだからこそ、幸せへの執着が余計に強まって臆病になっているだけ」 明日をも知れない「貧困」や生活の悩みを抱えていたら、そんなこと心配してるヒマないっつーの。

ただし。
それは「今の感覚で言えば」の感想です。本作が作られたのは、原爆が落とされてから、わずか10年。しかも、アメリカ軍の水爆実験による日本人の被ばく事故もあった頃ですから、「いつ、最悪の事態が起きても不思議ではない」 そう、喜一のように考える者は、当時たくさんいたのだと思います。

現に。
家族の一人が喜一に言い放つセリフが強烈です。「第一、水爆は何百トンもあるんだ。もはや地球に逃げるところなんてないんですよ!」 みんな危険を知っている。知っているのに、平気で日々を過ごしているのはどういうわけだ? 喜一が不思議に思うのは、一理あります。「おかしいのは我々の方では…」 終盤の医師のセリフに説得力が生まれます。

そして。
それから時を経て、我々が直面した「福島第一原発事故」 黒澤明が本作や、その後に『夢(1990年)』で描いた通り、放射能の脅威にさらされることになるのです。

生きものの4

とはいっても。

現代の我々には、やはり「冷静さ」は必要なんです。「福島第一原発事故」の際、「東日本に人が住めなくなる」「東京に放射能が降り注ぐ」「ガン患者が増えていく」 あらゆる「恐怖の情報」が流れてきました。今のコロナもしかり。「40万人が亡くなる」「若い人でも重症化する」「変異してワクチンが効かなくなる…」 まったくもって同じです。

その情報をすべて受け止めてしまって恐怖に駆られることが、正しいとは限りません。多方面から物事を見る力が、情報に溢れている今、確実に必要な能力です。楽観して言うならば、それでも世の中は、なんとか回っていくんだと思います。

それにしても。
ラストが鮮烈です。ついに精神崩壊に至った喜一が、太陽を見て「あー、ついに地球が燃えてしまった!」と叫びます。SF映画のような強烈な映像は、さすが黒澤明と唸りました。

精神を病み、別の惑星にいると思い込んだ喜一は、ようやく安息を得ます。それでしか救われない喜一と、今そこにある危機に知らぬ顔で過ごせる者と、結局は同じ穴のムジナ。つまり、一介の者には、どうにも解決できない問題なんだということが、実は途方もなく恐ろしいことなのかもしれません。

その巨大な人類の業を、ラストカットに映る喜一の赤ん坊もまた、ずっと背負っていくことになるのです。

「黒澤明最大の問題作」と評された本作は、今まさに観る価値のある名作です。

生きものの5

  


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Posted on 2021/01/11 Mon. 12:16 [edit]

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